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第07話 黒の騎士団と、穢れた聖女

本日も3話更新いたします。

あと、17時、21時にお話投稿させていただきます。

 囲まれるようにして黒狼の近衛騎士団の前に立たされながらも、セラフィーナは一歩も引かない。

 腕の中で揺れるノア、背中で意識の薄いカルミア──その命が今も確かに自分の手に託されていることを、肌で感じていた。


「もう一度言います……私はこの子たちを助けただけです」


 近衛の一人が鼻を鳴らす。


「それをどう信じろというのだ。人間が獣人の子どもを庇うなど」

「はぁ……理由なんて、必要ですか?」


 セラフィーナははっきりと、迷いなく言った。


「傷ついた子が目の前にいた。それだけで十分だった。私は癒すために命を削って癒しの力を持っている。誰であろうと助けたいと願うのは当然です――当たり前ではないですか?」

「あ、当たり前って……」

 

 その言葉と同時に沈黙が落ちる。

 数秒の間、ただ風の音だけが木々を揺らしていた。

 その時──セラフィーナの背で、カルミアが小さくうめいた。


「……う……く……」

「カルミア!」


 セラは慌てて背から降ろし、少女の顔をのぞき込む。

 頬が赤く染まり、呼吸が荒い。

 熱が急激に上がっている。


「まずい、傷は塞がったけれど熱が……」


「力を使う気か?」


 一人の騎士が問いかける。

 その視線にはまだ疑いがある。


「当たり前だ!使うに決まっているだろう!彼女の命が危ないんだ!今、祈らなければ──!」


 セラフィーナは両手をカルミアの胸元へとそっと置いた。

 限界まで削られた魔力――どうかこの子の命だけは。


「──聖なる光よ。命の流れを整え、穢れを払いたまえ」


 言葉はささやきのように静かに、けれど力強く紡がれていく。

 その瞬間、彼女の手の下から、淡く金色の光がふわりと広がった。


 ──祈りの癒し。


 光はカルミアの額に優しく降り、荒れていた呼吸が次第に落ち着いていく。

 汗が引き、少女の眉間が静かに緩んだ。

 それを見た近衛たちは、声も出さずに見守っている。

 言葉を失ったというより、その光景が信じ難いものだったからだ。


 その沈黙を破ったのは、先頭にいた騎士だった。


 漆黒の髪に、鋭い金の瞳――彼は重々しく一歩を踏み出し、祈りの光の残滓が消えるのを見届けてからぽつりと呟いた。


「……その祈り、我らにも届くのか」


 それは、自問のようで、誰に向けた問いでもなかった。

 けれど、セラフィーナは落ち着いたのか、大きく息を吸って静かに答えた。


「……ええ、癒しは命に宿るものであり種族には宿りません。届かない命なんて、私は、見たくありませんから」


 騎士たちは、その言葉に何も返さなかった。

 けれど、その空気は──確かに変わっていた。


 フェルグレイへ向かう馬車は、いつの間にか用意されている。


(いつ、用意したんだ?)


 疑問に思いながら目の前にある馬車に視線を向けながら首を傾げた。

 獣人の子供二人は別の小型馬車に、セラは騎士団と共に監視下での同行となった。


「護送ではなく『保護』だ。誤解するな」

「……」


 騎士の一人が言った。

 口調は厳しいが、先ほどまでの敵意はどこか薄れていた。


 カルミアは今も眠っている。

 熱は下がったが、疲労が深い。

 ノアはカルミアの手を握ったまま、黙って座っていた。

 その瞳には不安と戸惑い、そして──小さな決意が宿っていた。


 セラフィーナは二人を見つめながら、静かに胸元の祈りのペンダントを握る。

 この子たちを守るためなら、どこへでも行く。

 それが、今の自分にできる唯一の祈りだから。


 馬車が動き出してしばらく。

 セラフィーナの隣で警戒を解かない騎士が、ふいに視線を向けた。


「……お前、王都で『聖女』と呼ばれていたと聞いたのだが……だが、なぜここに」


「戦のあと、役目を終えたとされて、追放されました。『穢れた聖女』という名で」

「……それがこの姿か」


 泥で染まったマントを、騎士は一瞥する。

 けれど、そこに蔑みはない。

 ただ、事実を見たというだけの目。


 セラフィーナは服の袖を捲り、腕の無数の傷跡を見せる。

 それを見た騎士は一瞬驚いた顔をして彼女の傷を見る。


「このような傷が身体中にあります。ある意味、『穢れている』らしいので……それで追放されたのです。まぁ、後悔はありませんから」

「なぜだ?」

「周りの兵士たちが助かりましたから……後悔する事があるでしょうか?」


 フフっと笑いながら、セラフィーナは笑う。

 そんな姿を騎士の男は何も言えずにいた。


 その時、小さな声が馬車の端から響いた。


「セラは……悪い人じゃないよ」


 ノアだった。

 彼は顔を伏せたまま、けれどはっきりとした声で続けた。


「カルミアを助けてくれた。僕たちを、抱きしめてくれた……セラの癒しの力、すごくあったかかった」


 馬車の中に、沈黙が広がった。

 セラフィーナは、ただ目を閉じて、ノアの言葉を胸に受け止めた──その言葉が、今の彼女にとって一番の救いだった。


 馬車の外には、黒狼の紋章を掲げた騎士たちが静かに走っている。

 森を抜ければ、見知らぬ国の城門が待っている。


 セラフィーナはその先に、何があるのかをまだ知らない。

 けれど、少なくとも今──『拒絶』ではなく『理解』へと向かう道を踏み出したことだけは確かだった。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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