第57話 もう一度、世界を愛するために
第1部完結になります。
見ていただき本当にありがとうございました。
王城の中庭には、子どもたちの明るい笑い声が響いていた。
戦の爪痕がまだ街のそこかしこに残る中、こうして笑顔を取り戻した小さな命たちの姿は、なによりの希望だった。
「ほら、指をこうして……そう、上手だなレナちゃん」
セラフィーナは、草の上に座り込みながら、幼い子どもたちに手遊びを教えていた。
彼女の膝にちょこんと座る子、隣で真似する子、少し離れても真剣な顔で手を動かす子。
そのどれもが、幸せな時間だった。
「もっかいやってー!」
「次はうたうやつがいいー!」
「せらさま、せらさま、こんどはおんぶー!」
セラフィーナは笑って応える。
「はいはい、順番ね。転ばないように並んで」
昔、戦場に居た時の血なまぐさい毎日だった頃にはなかった光景。
誰かの命の隣に、息づく日常――そこに寄り添えるだけで、今は満たされていた。
▽
少し離れた石造りの小径に、二人の若者が帰ってきた。
一人はノア、もう一人はカルミアだった。
どちらも旅装のまま、少し泥のついた靴で歩いてくる。
「……で、結局どうだったの?例の魔道具商」
「うーん、めっちゃ面白いもの見つけたよ。でも、ちょっと……危険かも」
カルミアが、いつになく真剣な目でノアに囁く。
「『古代の記憶媒体』って言ってたけど、あれ……封印されてた理由、たぶんね――」
言いかけたところで、子どもたちの笑い声が響き、二人はそっと言葉を止めた。
「ま、今は黙っておこうか」
「うん。セラの邪魔、したくないしな」
それだけ言って、ふたりはそっと小道を逸れ、裏口から城内へと消えていった。
▽
中庭に戻れば、セラの周りには花のように子どもたちが咲き、日差しがそれを優しく包んでいた。
その横に、静かに歩み寄る影が一つあった。
「……元気だな、子どもってやつは」
「見ているだけで、私は元気になるな」
隣に立ったのは、王――ライグ。
彼は、無言で彼女の手元に視線を落とし、そしてそっとその手を取った。
温かく、力強く、だがどこまでも優しい手。
セラフィーナは驚くことなく、そのままその手を握り返した。
そして、ふと空を見上げながら――静かに、心の中で呟いた。
そして、ふと空を見上げながら――静かに、心の中で呟いた。
(私はもう、『聖女』ではない。けれど……それでも、誰かの痛みに寄り添える自分でいたい。怒りも、悲しみも、迷いも、すべて乗り越えて……もう一度、この世界を、愛せるようにしたいな)
そう思いながら、セラフィーナは胸元でぎゅっと手を握りしめた。
それは祈りではなく、誓い。
神ではなく、自分自身に捧げる、未来への約束だった。
そんな彼女の横で、静かに声がする。
「ふむ……セラ」
「ん?なんですか?」
顔を上げると、ライグは珍しく真面目な顔をしていた。
「俺たちは……もともと契約だったが今は違う。そうだろう?」
「……ああ。今はもう正真正銘の夫婦、だな」
微笑みながらそう答えるセラフィーナに、ライグは小さく頷いた。
そして、ごく自然な流れのように――けれど、どこか特別な響きで言葉を続けた。
「だから……『次』に進むことを、しないか?」
「次に……進む?」
セラフィーナはきょとんとした顔で、首を傾げる。
まるで言葉の意味を掴みかねているように。
そんな彼女に、ライグはわざとらしく間を置き、そのままそっと顔を近づけ耳元に口を寄せる。
「……俺は、お前の子供が欲しいんだが」
「…………な、な、な……!?」
一瞬で、セラフィーナの顔が音を立てて真っ赤に染まった。
握っていた両手が、バッと弾けるように彼の胸を押し返す。
「なななっ……な、なにをっ、なにを言ってるんだっ!!?」
ライグは特に動じるでもなく、静かに笑った。
それはいつもの鋼鉄の王ではなく、一人の夫としての柔らかな笑みだった。
「……顔、真っ赤だぞ」
「あーっ! 聞こえない聞こえないっ!!」
両手で耳を塞いで、全力で否定するセラフィーナ。
けれど耳の先まで真っ赤になっているのは、隠しようもなかった。
そんな彼女の姿に、ライグは堪えきれず笑い声を漏らす。
「くく……ふっ……ははっ……やっぱり、お前は面白いな」
「面白くないっ!! ぜ、ぜんぜん!! もうっ!」
小さく拳を握って拗ねるセラフィーナに、ライグはそっと手を伸ばし、彼女の肩に触れた。
「……でも、そう言って怒ってくれるのが、今の『お前』だからな」
その声は、どこまでも穏やかで、優しかった。
遠くで、夜の鐘がひとつ鳴る。
風が星々を撫で、テラスを通り抜ける。
ふたりが見上げる空は、もう『孤独』の色ではない。
交わした約束と、未来への願いが、確かにそこにあった。
第1部、完
これにて、第1部完結になりました!
本当にありがとうございます!!
読んでいただきまして、本当にありがとうございます。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!
ぜひよろしくお願いします!




