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第56話 王と妻、同じ空を仰ぐ

 ――王城・中庭前、夕刻


 王城の門が開かれると、そこに駆け寄ってきた小さな影がふたつ。


「「セラぁぁぁああああっ!!」」

「ぐふっ!?」


 ノアとカルミアのふたりは勢いそのままに、まるで矢のように飛び出しセラフィーナに一直線で飛びついた。


「 ノア、カルミア……!」


 セラフィーナは驚きながらも、すぐに膝をつき、ふたりをしっかりと受け止める。

 その小さな腕がぎゅっと彼女の腰にしがみつき、涙まじりの声が重なった。


「よかったぁ……! ずっと帰ってこないかと思った……!」

「また……もう帰ってこないんじゃないかって、すっごく不安だったんだから!」


 セラフィーナはそんな二人の髪をそっと撫でる。


「ああ、ごめんな……でもちゃんと帰ってきたよ。ノアも、カルミアも……ちゃんと待っててくれたんだな?」

「うんっ!!」

「ちゃんと、がんばったよっ!!」


 二人の子どもたちの涙混じりの笑顔に、セラフィーナは優しく微笑んだ。


 その後ろから、優雅な足取りでクラウディアが現れる。

 艶やかな髪を結い上げ、凛とした佇まいのまま彼女は微笑みながら一礼する。


「……おかえりなさいませ、セラフィーナ様」


 その言葉に、セラフィーナも姿勢を正し、そっと一礼を返した。


「……ただいま、帰りました。クラウディア様」


 ふたりの間に流れる空気は、静かで穏やかで、戦乱を越えてようやく辿り着いた『居場所』の温かさに満ちていた。

 ふと、クラウディアの瞳が細められる。


「……少し痩せられたようですわね。でも……その瞳は、確かに強くなられたようです」


 セラフィーナは照れくさそうに笑って、頷いた。


「はい。私……ようやく、自分の足で立てるようになった気がします」

「……そのようですわね」


 クラウディアの言葉には、どこか“母”のような慈しみが込められていた。

 その様子を見ていたノアとカルミアが顔を見合わせ、


「ねえねえ、セラ!今日は一緒にごはん食べよう!」

「うん! いっぱい話したいことあるの!」


 二人は元気よく笑う。

 セラフィーナはそんな二人に向かって、にこりと笑った。


「ええ、たくさん話そうか……今日は……ゆっくり、一緒にいましょう」 


 セラフィーナのそんなやり取りに、二人は嬉しそうに笑い合ったのだった。


   ▽


 ――フェルグレイ王城・東の塔 テラスにて。


 夜の王城には、昼の喧騒が嘘のように静けさが広がっていた。

 戦の混乱も、政の処理、一応の決着を見せたその夜。

 唯一まだ眠らない場所があった。

 塔の最上階にある、東のテラス。

 月明かりに照らされたそこには、二人の影が寄り添っていた。

 セラフィーナは、石造りの欄干に身を預けて夜空を見上げている。

 高く澄んだ空には星が瞬き、白く光る月がどこか優しげに浮かんでいる。


「……リル、ちゃんと森に帰れたかな」


 ぽつりと、呟くような声。


「フェンリルだぞ。お前より余程しぶとい」


 隣から返ってくる声は、いつも通りのぶっきらぼうな口調。

 けれど、そこには僅かに緩んだ音色が含まれていた。

 セラフィーナはふっと、微笑んだ。


「……あんな風に、怒ってくれる存在がいたのはきっと幸せな事なんだな」

「怒るくらいなら直接言えばよかったんだ。わざわざ、魔獣の群れを引き連れてくるなんてな」

「そうかも、しれないな……」

「少し……お前と似ていたな」

「似てませんよっ」

 思わず声を張り上げてから、照れくさそうに口元を手で隠すセラフィーナ

 ライグはその様子に、わずかに口元をほころばせた。

 しばしの沈黙が、二人の間を優しく包む。

 遠くで鳥の羽ばたく音がする。

 夜風がそっと流れ込み、セラフィーナの髪を撫でていった。


「……まだ、怒ってるのか?」


 ふと、ライグが低く問いかける。

 その声は普段の強さとは違う、どこかためらいを孕んだ響きだった。

 その問いが意味するものは一つではない。

 あの国の民たちの裏切りと、偽りの信仰。

 何もできなかった自分自身――そして隣にいるこの男への想い。


 セラフィーナは少しだけ目を閉じた。


「……もう、怒ってない」


 それは嘘ではない。

 ただ、怒りを乗り越えるまでに必要だった時間と痛みは、確かにそこにあった。

 だからこそ、彼女は続ける。


「でもね、ライグ。怒れるようになったんだ……ちゃんと、自分のために。それは……あなたのおかげだ」


 その言葉に、ライグの眉が僅かに揺れる。

 彼は視線を逸らし、言葉もなくただ手を伸ばした。


 次の瞬間、セラフィーナの肩がそっと抱き寄せられる。

 拒むでも、驚くでもなく――彼女は、静かにその腕の中に身を預けた。


 温もり――孤独な夜を何度も越えて、ようやく手に入れた。


「……これからも、隣にいてくれるか」


 ライグの低く、掠れた声が耳元に落ちる。

 強引でも、威圧的でもなく、ただ一人の男の願いとして。

 セラフィーナは、そっと彼の胸元に手を添える。

 そして、優しく頷いた。


「……あなたが望む限り……私は、ここにいます」


 大きな星空が広がっている。

 まるで二人を祝福するかのように、輝いて見える。

 そんな星空を、セラフィーナはライグと一緒に見れる事に、嬉しさを感じているのであった。


読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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