第55話 過去と未来が交わる場所で
本日も3話更新です。
15時、17時、19時となります。
これで第1部本編完結になります。一応第2部を出す予定ですので、連載のままにしておきます。どうぞ、よろしくお願いいたします。
フェルグレイの旗が揺れる国境線の近く――そこには戦乱の混乱を抜けた旅人たちが、しばし足を止める『関所』がある。
城下町から離れた静かな丘陵地帯。
関所の脇にある小さな広場で、セラフィーナの一行が短い休憩を取っていた時だった。
「──セラフィーナ様!」
遠くから聞き慣れた声が響く。
セラフィーナはふと顔を上げ、そして目を見開いた。
そこにいたのは、銀の鎧に身を包んだ騎士――ロラン。
その後ろには、王都近衛の兵士たちが数人、控えていた。
「ロラン!!それにお前たちは……どうしてここに……」
驚きつつも、セラフィーナは自然と歩み寄っていた。
「最後に、どうしても一度……あなたに、きちんと顔を見てお礼を言いたくて。私たち……この先、王都に戻ります。けれどその前に……どうしても」
そう言うロランの目は真剣で、少し潤んでいた。
彼に続き、兵士たちも次々と頭を下げる。
「……前の戦で、あなたに癒されました」
「今回の魔獣戦でもあなたがいなければ、ここに立ってはいませんでした」
セラフィーナは静かに頷き、彼らの姿を一人ひとり見つめ返した。
「……私こそあの時、命を懸けて戦ってくれたお前たちがいたから、私は……祈り続けられたんだよ」
その言葉に、兵士の一人が目を潤ませる。
「……でも、俺たち、何もできなかった……あの時、あなたが『穢れた聖女』なんて呼ばれて……ただ黙って見ているだけだった……俺たちの為に血を流して、身体中傷だらけになっていたのに……」
「後悔してます。……情けないと思いました。けど……今こうして、あなたの歩いた道をもう一度見て……本当に、尊敬しています」
セラフィーナはそっと微笑む。
「……今回も、生きて、いけたなお前たち」
ふと漏らしたその言葉に、ロランは目を見開いた。
「……それは……」
「誰かのために祈って、誰かの手を握って、誰かを赦して……そのたびに、私は、もう少しだけ『生きていこう』と思えた。それに、ロランたちには本当にお世話になった。あの手紙があったから、勇気をもらった……その積み重ねが、今ここに繋がってる──きっと、お前たちと同じだ」
その言葉にロランの目から、ぽろりと一筋の涙がこぼれる。
そして――彼はそっと、セラフィーナの両手を握りしめた。
「……ありがとうございます、本当に。俺たちは忘れません。あの日の事も、あなたの笑顔も……」
その言葉の熱に、セラフィーナも目元を少し潤ませ、微笑を浮かべようとした――その時だった。
バチィンッ!!
二人の手が、唐突に力強く引き剥がされた。
「……なれなれしいぞ、クソ野郎」
低く響く声と共に、空気が一瞬で凍りつく。
ライグの背後に黒い『圧』が立ちのぼり、地面がピシリと音を立ててひび割れた。
見た目は穏やかだが、誰がどう見ても怒っていた。
「へ、陛下っ!? お、落ち着いてください! 抑えてー!!」
「おい誰かっ、陛下を押さえろ! 魔王化してるー!!」
「ぜ、全力で腕押さえろーっ! それ以上は、絶対にセラフィーナ様が困りますからーっ!!」
獣人の部下たちが青ざめながら、一斉にライグへ飛びかかる。
だが当の本人は、静かな笑みを浮かべたまま呟いた。
「……離せ……今すぐあの手を斬るだけだ。痛くはしない。ちょっとちくっとするだけだ」
「いやもう十分怖いですからー!!」
「なんですかちくっとするだけって!全然かわいくないですから!!」
「手だけとか言ってるけど、絶対それで済まないパターンです!!」
「おい誰か!鎮静用の聖水持ってこい!いや聖水効くか!? 魔王だぞ!?」
「効かねえ! 聖女様以外に止められる人いねぇんだって!!」
「セラ様ーっ!!助けてくださいっ!!このままじゃ陛下が前線に突撃しますー!!」
わらわらと慌てふためく兵士たち。
ロランは一歩引き、顔を引きつらせながらも苦笑した。
「……嫉妬されるとは光栄の極みです……ですが、その、少々、命の危険を感じますね」
セラフィーナは、はぁと深く息を吐きながら額を押さえた。
「もう……ライグ、落ち着いて、誤解だから」
その声が耳に届いた瞬間、ライグの背から立ちのぼる黒いオーラが、ふっと弱まる。
彼は短く息を吐き、まだ険しい顔のままぼそりと呟いた。
「……触る必要はなかっただろう」
「だって、彼が泣いていたんだぞ?放っておけない」
セラフィーナが穏やかにそう言うと、ライグは視線を逸らしたまま、ぼそぼそと呟いた。
「……泣かせたのはお前だろうが……」
「え?何か言ったか?」
「いや、何も」
そのやり取りを聞いていた兵士たちは、どこかほっとしたように息を吐き口々に囁いた。
「……愛されてますね、セラフィーナ様」
「すごいです……あんな陛下、初めて見ました」
「尊敬します……(いろんな意味で)」
セラフィーナは、もう笑うしかなかった。
頬に手を当てて、困ったように、けれどどこか楽しそうに微笑む。
「本当に……もう……仕方ない人たちだなぁ」
そして、そんな彼女の微笑みを見たライグが、わずかに口角を上げた。
その表情を見て、兵士たちは再びざわつく。
「お、陛下が笑った……!? え、これって落ち着いたってこと? それとも……嵐の前触れ?」
「どっちにしても怖い!!」
セラフィーナは、そんな彼らを見て、今度こそ堪えきれずに吹き出した。
笑い声が、灰色の空の下にやわらかく広がっていったのだった。
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