表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/27

第19話 癒しは力じゃない、想いなんだ

今日も3話更新です。15時、17時、19時更新しますのでよろしくお願いいたします。

 午後、王都フェルグレイの西側石畳の並ぶ通りの外れ。

 そこに、小さな仮設の診療所があった。

 もともとは穀倉庫だった建物を転用したその場所に、セラフィーナは薬師たちと共に足を踏み入れていた。


「……ここが、今日の診療場所ですか?」


 隣にいた若い女薬師が頷く。

 耳元に狼のような毛並みの耳がぴくりと動いた。


「今日は、子どもと年寄りが多いはず……疫病じゃないけど、季節の変わり目は体調を崩す者が増えるからな」


 声はぶっきらぼうだったが、どこか真面目さがにじんでいた。


 セラフィーナは診療所に入ると、思わず足を止めた。

 獣人、そして人間の市民たちが、整然と並び診察を待っていた。

 顔に不安を浮かべた幼子を抱いた母親、手を引かれる老人。

 そのどれもが、セラを見るとほんの少し緊張したように目を伏せた。


(……人間の『聖女』が来たと聞いて、きっと警戒しているのね)


 無理もない。

 彼女自身、この国に来るまでは獣人は人とは相容れないと教えられて育った。

 けれど、今目の前にいる彼らは──ただ誰かに助けてほしい、弱った人々にすぎなかった。


 セラフィーナは膝をついた。


「こんにちは。お名前聞いてもいいかな?」


 最初に声をかけたのは、咳をしていた小さな男の子。

 母親が戸惑ったように止めようとしたが、セラの柔らかな声に警戒心が和らぐ。


「ぼくは、リオ」

「リオくん、頑張って診てもらいに来たんだな……すごいぞ」


 セラフィーナは微笑み、男の子の小さな手をそっと包み込む。

 まだ、祈りの力は使わない。

 ただ、「痛いところはどこ?」「眠れてる?」と優しく問いかけ、視線を合わせる。

 それだけで、リオは恥ずかしそうに笑い、咳き込むのを忘れたように肩を揺らした。


「──ふむ。珍しいな、『力』を使わんのか?」


 後ろで見ていた年配の薬師が、ぼそりと漏らした。


「……ええ、必要なら使います。でも、それよりもまず『安心』を届けたいんです」


 セラは立ち上がり、頭を下げるように言った。


「癒すことは、魔力だけじゃないと思うから──」


 その日の診療は続いた。

 痛みを訴える老婆には、薬師が薬草茶を渡しセラフィーナが背中をさする。

 足をひねった子どもには包帯を巻く合間に、昔話を一つ。


「こんな風に、魔力のない人間でもできることがあるって、思い知らされるわね」


 女薬師がぼそりと呟いた。


「え……?」

「別にあんたを嫌ってるわけじゃない。最初は警戒してたけど……見てたらわかる。あんた『私たち』を見下してないから」


 セラは一瞬、言葉を失った。


「……そう見えたなら嬉しいです。だって、私も同じだったから」

「同じ?」

「「ただ祈るだけの人間は役に立たない」って、言われて追放されましたから」


 少し笑って、肩をすくめる。


「……力さえあれば誰かを救えるって、ずっと思い込んでたんです。でも……それだけじゃ、届かない」


 静かにそのように呟いたその時──診療が一段落したころ、一人の老婆が立ち上がった。

 セラフィーナに近づき、静かに手を握る。


「あなたはその力を『受け入れてくれる』のね」


 セラフィーナの目が、見開かれた。


「それが一番ありがたいのよ。年を取ると、薬より、安心が効くのよ……ふふ」


 手を握られたまま、セラフィーナは言葉もなく、ただ頷いた。


(……私は、癒していたつもりだったが……今は……人の心に触れるって、こういう事なんだな)


   ▽ 


 診療所の外に出たとき、空は夕焼けに染まっていた。

 セラフィーナは少しだけ空を見上げ、女薬師に声をかけた。


「今日、ありがとうございました……また、来てもいいですか?」


 女薬師は、少し間を置いてふいと顔を逸らしながら答えた。


「……勝手に来ればいいさ。どうせ患者は減らんし」


 その言葉に、セラフィーナはふわりと微笑んだ。


「……癒しの力が強いからすごいのではなく、誰かを救いたいと願う気持ちこそが、きっと……力になるんだと思います」


 それはまるで、自分自身に向けての言葉でもあった。


 そしてその祈りは静かに、フェルグレイの夕空に溶けていった。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!

ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ