女冒険者達の悩み
ハルフォンソの街からこんにちは。ティファレトです。
定期的にお金が必要になった為、今日は冒険者業で稼ごうと思います。
冒険者ギルドは分かりやすくて良いですね。
建物は大きいし、外に聞こえるほどに騒がしいし。
煩いので長居はしたくないのですけどね。
洞窟暮らしが長かったせいか、どうも静かな空間を私は好むようです。
「こんにちは」
「おっ、ティファレトか」
「前見たボインの姉ちゃん!」
「美人だなぁ」
私が扉を開けると、山賊の拠点かと思うような光景が飛び込んできます。
一応は犯罪者では無いはずですが、傷だらけの顔に髭有りがあまりにも多い。
どうしても割合として石・鉄階級が多くなるので仕方が無いですが、せめて服は洗いませんか?
「こんにちは、ティファレトさん」
「こんにちは、ロールさん。稼げる依頼はありますか?」
「今日は微妙なところですね.....これとか、これとか」
「ふむ......」
あまり割の良い仕事はありませんね。
診療所の臨時職員ぐらいですか。
「あっ、ティファレトさん。こっちに来てくれない?」
「?」
依頼表を見ながら悩んでいると、横側から呼ぶ声があり、そちらを見てみると.....ミリアーネさんではありませんか。
「どうしました?」
テーブルの方へ向かうと、そこにはミリアーネさんだけではなく数人の冒険者が集まっていました。
他のテーブルとの決定的な違いは性別の比率。
こちらのテーブルには女性の冒険者しかいません。
「今ね、私達女の冒険者の悩みを共有してるところなのよ」
「悩みですか」
「そう、化粧とか排泄とか、長期の依頼には問題が必ず出る。それを皆で対策を話して共有してるの」
「汗で化粧が剥がれるのがね.....私は前衛だからどうしても激しく動くし....」
嫌そうに頬に手を当てているのはツィツィー。
緑の髪に小柄な体、巧みな槍捌きに定評のある銅階級冒険者です。
「ティファレトさんは化粧はどうしてるの?」
「私は化粧をした事がありませんので」
特別必要性を感じないので、私は化粧をした事が無いのですよね。
肌は大事と色々な人に言われたので、寝る前に水ブドウの搾り汁を顔に塗ってはいますが。
「.......は?」
「化粧を、した事が、無い?」
「その美貌で?」
「化粧無しでそのまつ毛なの?冗談よね?」
皆さんの纏う空気が一気に剣呑なものへと変わります。
ちょっと?どうして私を取り囲むのです?
「何この肌のハリ!?プルップルじゃない!」
「うわ、本当に粉も何もついてない.....」
「顔は良いし胸はデカいし腰は細いし尻もデカいしで完璧じゃない!」
「不公平だわ......」
「あ、あの?」
なんというか、皆さんの迫力が凄いです。
傷ついて興奮したヨロイイノシシよりも圧を感じますよ?
「何をしているの?」
「何を、とは?」
「何か化粧以外でしている事は無いかしら?」
「寝る前に水ブドウの搾り汁を塗ってはいますね」
「水ブドウね」
「水ブドウ.....」
「まさかそんな身近な方法が.....」
一様に皆さんが頷いています。
なんというか、その、仕事に行きたいのですが。
「ありがとう、ティファレトさん。仕事の邪魔をしてごめんなさいね。今度、水ブドウのお菓子を持ってくるわね」
「ありがとう、ございます?」
何がなにやら分かりませんが、どうやら何かを解決したみたいです。
とりあえず、水ブドウのお菓子は楽しみにしていましょう。
お仕事は.....診療所のお手伝いにしましょうか。
虫下しはお任せあれ。




