教会の食事改革
ハルフォンソの街からこんにちは、ティファレトです。
今私は、子ども達と昼ご飯を食べています。
この教会は一時的な子どもの預かりや、遊びの場としても提供していて、親と一緒に仕事をしていない子や施設に行く前の孤児が昼に集まります。
孤児達は私と一緒に教会で暮らしていますが、施設へ向かう手続きが済むまでの間までですね。
私が非常にお金がかからない女なだけで、教会の運営そのものは極貧ですからね。
そもそも設備自体が本格的に住むには不向きなのです。
「なぁ、シスター」
孤児の中でも年長にあたる男の子、ジョンが私に憂鬱そうに問いかけます。
どうしたのでしょうか?今日の水ブドウも実に瑞々しく美味しいというのに。
「シスターは俺達を住まわしてくれてるし、勉強だって教えてくれる。でも、俺達はどうしても我慢出来ない事があるんだ」
ふむ、聴きましょう。
我慢は体に毒ですからね。
「もう.....水ブドウは飽き飽きなんだよ!」
「?........??」
飽きる?水ブドウに?
いったい何を言っているのでしょう?
「毎日毎日、3食水ブドウ!シスターはそれで良いかもだけど、俺達は肉も食いたい!」
「お肉ですか?」
「そう!飢えないのは感謝してる!でも、水ブドウばっかりは辛い!」
「そ.....そんな.....」
まさか、水ブドウが辛いだなんて、そんな.....。
「うわ、本当にショック受けてる......とにかく!俺達は肉が食いたい!」
「.......わかりました。お肉を買いに行きましょう」
「そうこなくっちゃ!」
神の教えその2、【辛い事は改善する努力をしろ】ですからね。
ジョンが神を信仰しているのは何よりなので、同じく神を信仰する者として協力しましょう。
しかし、そんなに水ブドウが駄目ですか......。
ちなみに、神の教えその1は【親や友達に顔向け出来ない事はするな】です。
「シスター!あっちあっち!」
「あまり高いのは買えませんよ?」
「分かってるって!」
そんなわけで、私達はハルフォンソの街にある市場へとやってきました。
お肉に野菜に穀物に、人々の食はここに集っていると言って良いでしょう。
魚も売ってはいますが、干物でしか見た事がありません。
なにやら、そのまま魚を持ってくるには遠くて腐ってしまうのだとか。
この国と街は内陸にあるので仕方ありませんね。
「すっげー!おっちゃん、これいくら?」
ジョンが頑張ってお肉を値切ろうとしていますね。
物言いが粗野なだけで、勉学の覚えの早さはジョンが1番です。
もしかしたら、成功させてしまうかもしれません。
「やりぃ!シスター!シスター!これ買ってくれよ!」
お見事です。
どれどれ、お財布の中身を軽くするとしましょう。
.......随分と多くありませんか?
これ、私の本代も無くなりません?
「将来、兵士になったら返すからさ!」
仕方ありません、時には贅沢も大事でしょう。
ところで、この定期購入契約と言うのは?
はい、はい、月にこれだけの金額でこのお肉を、今回は3カ月分の、はい。
「ジョン、大切な契約をする時は黙ってしてはいけませんよ」
私は軽くジョンを睨みます(無表情)。
「う.....その.....ごめんなさい」
「分かれば良いのです」
しっかりと反省をしていますね。
定期的にお肉を買う契約をしてしまいましたが、国を守る兵士への先行投資という事にしておきましょう。
「いただきます!」
ジョンを含めた子ども達との夕食です。
献立はお肉と穀物、そして水ブドウの搾り汁ですね。
私はお肉と穀物はいりませんよ?
水ブドウと干し水ブドウと水ブドウの搾り汁です。
「すっげぇ!肉だー!」
「やったー!」
「水ブドウばっかりで、アタシ.....アタシ.....」
泣きながらお肉を食べてる子までいませんか?流石に心外なのですけど。
「これからは、3日に1回はお肉を出しますからね」
「やったー!」
「シスター最高!ジョン兄最高!」
そこまで喜びますか?
特にアーノルド、虐待する親から引き取った時よりも喜んでいませんか?
「なっ?シスター。肉買って良かっただろ?」
ジョンが見たことかと言わんばかりの顔で私に言います。
定期的にお財布が軽くなり、水ブドウ派が教会に私しかいない事を知りましたが......子ども達は満面の笑みです。
「そうですね」
それなら、お肉は必要で、これが正解なのでしょう。
神の教えその3、【子は未来であり宝】ですからね。
「ところで、明日のトイレ掃除はジョンですからね」
「げっ.....」
普段は私がトイレ掃除をしているのですが、黙って契約をした罰です。
暫くは冒険者業も頑張らねばなりませんね。




