表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/51

冒険者の仕事(レシート視点)

俺の名前はレシート。

最近、銅階級になったばかりの冒険者だ。

田舎から夢見て出てきて冒険者になってみたは良いが、夢はすぐに現実に塗り潰された。

男や子どもか夢見るような冒険は全然無く、街の清掃やら力仕事ばかり。

討伐の依頼だってあるが、未熟者に任せられる依頼なんざたかが知れてる。

それが嫌で、必死に勉強して依頼をこなして、ようやく銅階級になった。

それでも、鬱憤は無くならなかった。

銅階級になれば一人前と認められ、人獣問わずの依頼を受ける事が出来るが、それでも夢見た冒険や英雄像には程遠い。

いったい銀階級や金階級と俺とで何が違うってんだ。

そう思っていた.....銀階級の仕事を間近で見るまでは。

必中とも思える弓、獣に拮抗する力、魔術の使い方、何もかもが違った。

銅階級と銀階級、それらが如何に別世界であるかを思い知ったんだ。

俺は銀階級の動きを学ぶ為に、出来るだけ銀階級と一緒に仕事をするようにした。

おかげで顔を覚えられる事が増えて仕事もしやすくなった。

だけど、全然差を縮められる気がしない。

焦りや苛立ち、それらが溜まっていく中受けたのが盗賊の討伐依頼だった。

リーダーは銀階級のミリアーネさんで、他はバッシュ先輩。

あと1人が埋まれば出発する、そう決めていた時に、あの女が来た。


「こんにちは、同じく依頼を受けたティファレトです」


長い金髪、帷子の擦れる音、目立たない黒い服、小盾にメイス。

胸がデカくて美人ではあるが、とても冒険者には見えない無表情な女が俺達のチームにやってきた。

何処かで聞いた名前と思ったが、教会のシスターらしく、祈る事は出来るらしい。

正直、使い物になる気が全くしねぇ。

奇跡を見た事はあるが、長ったらしく祈って良い香りをさせるだけって印象だ。

だが、どうもミリアーネさんのお墨付きらしい。

あの長い時間を守らなきゃならねぇのが気が進まねぇが、銀階級の言葉を信じない訳にはいかねぇよな。


「.......」


馬車の中でもティファレトは無表情で本を読んでいる。

口以外、全く動かねぇんじゃと思うぐらいだ。

瞬きすらしてないように見えるが、そんな筈はねぇよな?


「お見事です」


ミリアーネさんが見張りを射抜いた時も驚いた様子も無く、ただ無表情に賛辞を送っている。

とりあえず、銅階級だけあって場数は踏んでるみたいだな。


「.......」


俺達はミリアーネさんが把握した敵を静かに素早く殺していく作戦で動き、俺ももちろん盗賊を殺したんだが、どうも悪人でも人を殺す感触は嫌いだ。

出来るだけ感触を味合わないように、一撃で首を折っているんだが、それでも嫌悪感に顔が歪む。

だというのに、ティファレトは全くの無表情で盗賊にメイスを振り下ろし、頭を割っていた。

血飛沫がかかってもなお無表情なのは怖すぎないか?


「何だお前らは!?」


標的と取り巻き達がいる場所までたどり着いたは良いが、やべぇ、コイツら強ぇ。

向こうは5人、こっちは4人でアイツら1人1人が俺と同程度だ。

こっちはミリアーネさんが頭1つ抜けてるとはいえ、生け捕りは無理だろうと思った、その時だった。


「レシートさん、祈りますので防御をお願いします」


ティファレトはそう言うや否や、跪いて祈り始めた。

急な事に驚いたが、コイツも銅階級、無駄な事はしないはず。

他の方法を俺が思いつく訳でも無く、ミリアーネさんもバッシュ先輩も受け入れている。

だから、分かったよ、守ってやるよ!


「クソッ!」


戦闘が始まると、3対5の数が徐々に響いてくる。

アイツらは常に多人数で攻撃をするようにしてきており、俺達は防戦一方になる。


「危ねぇ!」


ふと、逸れた刃がティファレトの首元に迫り、俺は慌てて割って入って防御した。

その状態でもティファレトは祈りを中断せず、それどころか今の危険に気付いてすらいない。


「まだか!?ティファレト!」


バッシュさん、そりゃ無茶でしょう。

前に見た信徒の祈りはあと倍はかかってたんだから。

そう思っていたら、薄く光を体に纏ったティファレトが変な姿勢になり呟いた。


「光あれ......光輝〈そうせい〉」


瞬間、圧倒的な眩しさの光が場にいる全員を包み込んだ。

それなのに、俺達は全く眩しく無く、敵だけが藻掻き苦しんでいた。

明らかに目が見えなくなっている。

そうなると均衡は一気に崩れ、俺達は無事、標的を生け捕りにする事が出来た。

俺は、この時出遅れてしまっていた。

あまりにも、あまりにも光を帯びた金色のシスターが綺麗だったからだ。

依頼達成を報告し、ティファレトさんに挨拶を済ませてからも、俺は暫く呆けていた。


「もっと.....頑張ってみるか」


冒険者を続ける理由が1つ増えた。

もっと強くなろう。

誰よりも彼女に認められる男になるまで。

.....強い男に興味が無いなんて事は、無いよな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ