冒険者の仕事(レシート視点)
俺の名前はレシート。
最近、銅階級になったばかりの冒険者だ。
田舎から夢見て出てきて冒険者になってみたは良いが、夢はすぐに現実に塗り潰された。
男や子どもか夢見るような冒険は全然無く、街の清掃やら力仕事ばかり。
討伐の依頼だってあるが、未熟者に任せられる依頼なんざたかが知れてる。
それが嫌で、必死に勉強して依頼をこなして、ようやく銅階級になった。
それでも、鬱憤は無くならなかった。
銅階級になれば一人前と認められ、人獣問わずの依頼を受ける事が出来るが、それでも夢見た冒険や英雄像には程遠い。
いったい銀階級や金階級と俺とで何が違うってんだ。
そう思っていた.....銀階級の仕事を間近で見るまでは。
必中とも思える弓、獣に拮抗する力、魔術の使い方、何もかもが違った。
銅階級と銀階級、それらが如何に別世界であるかを思い知ったんだ。
俺は銀階級の動きを学ぶ為に、出来るだけ銀階級と一緒に仕事をするようにした。
おかげで顔を覚えられる事が増えて仕事もしやすくなった。
だけど、全然差を縮められる気がしない。
焦りや苛立ち、それらが溜まっていく中受けたのが盗賊の討伐依頼だった。
リーダーは銀階級のミリアーネさんで、他はバッシュ先輩。
あと1人が埋まれば出発する、そう決めていた時に、あの女が来た。
「こんにちは、同じく依頼を受けたティファレトです」
長い金髪、帷子の擦れる音、目立たない黒い服、小盾にメイス。
胸がデカくて美人ではあるが、とても冒険者には見えない無表情な女が俺達のチームにやってきた。
何処かで聞いた名前と思ったが、教会のシスターらしく、祈る事は出来るらしい。
正直、使い物になる気が全くしねぇ。
奇跡を見た事はあるが、長ったらしく祈って良い香りをさせるだけって印象だ。
だが、どうもミリアーネさんのお墨付きらしい。
あの長い時間を守らなきゃならねぇのが気が進まねぇが、銀階級の言葉を信じない訳にはいかねぇよな。
「.......」
馬車の中でもティファレトは無表情で本を読んでいる。
口以外、全く動かねぇんじゃと思うぐらいだ。
瞬きすらしてないように見えるが、そんな筈はねぇよな?
「お見事です」
ミリアーネさんが見張りを射抜いた時も驚いた様子も無く、ただ無表情に賛辞を送っている。
とりあえず、銅階級だけあって場数は踏んでるみたいだな。
「.......」
俺達はミリアーネさんが把握した敵を静かに素早く殺していく作戦で動き、俺ももちろん盗賊を殺したんだが、どうも悪人でも人を殺す感触は嫌いだ。
出来るだけ感触を味合わないように、一撃で首を折っているんだが、それでも嫌悪感に顔が歪む。
だというのに、ティファレトは全くの無表情で盗賊にメイスを振り下ろし、頭を割っていた。
血飛沫がかかってもなお無表情なのは怖すぎないか?
「何だお前らは!?」
標的と取り巻き達がいる場所までたどり着いたは良いが、やべぇ、コイツら強ぇ。
向こうは5人、こっちは4人でアイツら1人1人が俺と同程度だ。
こっちはミリアーネさんが頭1つ抜けてるとはいえ、生け捕りは無理だろうと思った、その時だった。
「レシートさん、祈りますので防御をお願いします」
ティファレトはそう言うや否や、跪いて祈り始めた。
急な事に驚いたが、コイツも銅階級、無駄な事はしないはず。
他の方法を俺が思いつく訳でも無く、ミリアーネさんもバッシュ先輩も受け入れている。
だから、分かったよ、守ってやるよ!
「クソッ!」
戦闘が始まると、3対5の数が徐々に響いてくる。
アイツらは常に多人数で攻撃をするようにしてきており、俺達は防戦一方になる。
「危ねぇ!」
ふと、逸れた刃がティファレトの首元に迫り、俺は慌てて割って入って防御した。
その状態でもティファレトは祈りを中断せず、それどころか今の危険に気付いてすらいない。
「まだか!?ティファレト!」
バッシュさん、そりゃ無茶でしょう。
前に見た信徒の祈りはあと倍はかかってたんだから。
そう思っていたら、薄く光を体に纏ったティファレトが変な姿勢になり呟いた。
「光あれ......光輝〈そうせい〉」
瞬間、圧倒的な眩しさの光が場にいる全員を包み込んだ。
それなのに、俺達は全く眩しく無く、敵だけが藻掻き苦しんでいた。
明らかに目が見えなくなっている。
そうなると均衡は一気に崩れ、俺達は無事、標的を生け捕りにする事が出来た。
俺は、この時出遅れてしまっていた。
あまりにも、あまりにも光を帯びた金色のシスターが綺麗だったからだ。
依頼達成を報告し、ティファレトさんに挨拶を済ませてからも、俺は暫く呆けていた。
「もっと.....頑張ってみるか」
冒険者を続ける理由が1つ増えた。
もっと強くなろう。
誰よりも彼女に認められる男になるまで。
.....強い男に興味が無いなんて事は、無いよな?




