奮闘の日々(アメリア視点)
あたしはアメリア。8歳。
もっと小さな時に捨てられて、ゴミ漁りをして生きて拾われて、転々として、シスターに引き取られた女の子。
そんな私は今、シスターの元を離れて第三王子殿下ロイド・サンレイン様の宮で働いて暮らしている。
まだ料理人か侍女かが決まっていないから、両方を勉強しながら見習いとして働いているんだけど、これが大変!
とにかく、覚える事が多いのよ!
シスターに勉強を教えてもらったり、貴族教本を読ませてもらってなかったら心が折れていたわね。
なんとか覚えていこうと夜の空き時間に勉強しようと思っても、それは駄目。
何故かというと、侍女長が絶対に許してくれないから。
この前、こんな話があったわ。
「アメリア、夜は寝る時間であると言ったでしょう?」
「あの、あたし、いや、私、まだ勉強したくて」
「駄目です。あなたはまだ8歳。勉強も大事ですが、体を成長させる事のほうが今は先決です。優先度を違えてはなりません」
「で、でも」
「聞きましたよ、あなたの夢を。貴族の妻になりたいのだとか」
「え?はい」
「ならば、身も心も美しく成長なさい。これはあなたが貴族の妻となる最低限です」
「最低限、ですか?」
それが最低限なの?最高じゃなくて?
「あなたが貴族と結婚する場合、他の令嬢と比べて明確に不利な点があるのです。何かわかりますか?」
「......薄汚い孤児だからですか?」
言ってて、悔しさで思わず手を握っていた。
だけど、侍女長の言葉は予想外のものだったの。
「薄汚い事に孤児も貴族もありません。あなたが他の令嬢と劣る点は、血に関する家という後ろ盾です」
「家、ですか?」
「そう、貴族は統治する者。それ故に責務と、その責務を全うする力が必要不可欠。その力を最も手広く多く手に入れる方法の1つが他家との繋がり、すなわち人の繋がりなのです」
「あなたにも繋がりはあるでしょう。しかし、それは何百何千という繋がりですか?」
「......」
慌てて首を振った。
「結婚をする事で、子息も令嬢もその力を手に入れる事が出来るという利点が約束されているのです。対して、あなたにはそれが無い」
「.......」
俯いて泣きそうになる。
あたしが思ってた以上に、あたしの夢は夢物語なのだと気付かされたからだ。
「ならばどうすれば良いか。全てを身に着けなさい」
「え?」
顔を上げ、侍女長を見る。
厳しくて、優しい目だ。
「心身共に美しくなりなさい。学と教養を身につけなさい。実績と信頼を積み上げなさい。家の力を手に入れる利点を、あなた個人の魅力で覆すのです」
「美しあらねば目に留まりません。学と教養が無ければ貴族の妻足りえません。実績と信頼が無ければ相手の家が納得しません」
「分かりましたか?それ故にあなたは夜は寝なければならないのです。美しくある為に。勉強は日中でよろしい」
「はい」
そうか、私はどれかを犠牲にじゃなくて、全部を手に入れないと駄目なんだ。
それは、何かを犠牲にするよりよっぽど難しいのだと、後々に気付いた。
「では、明かりを消しますよ」
「あ、あの!侍女長.....」
「まだ何か?」
「あたし、なれますか?貴族の妻に」
「何を弱気な。今のまま努力をすれば、必ずあなたは優秀な子息に見初められます。それだけの才と能があなたにはあります」
「!!」
「くれぐれも驕らぬように。常に謙虚に優雅たれを忘れてはなりませんよ?」
「はい!」
そっか、あたし、なれるんだ。
それなら、頑張らないと!
後にアメリアは、武を誇る歴史ある名家バルガン家に嫁入りし、アメリア・バルガン子爵夫人として名を馳せる事になる。
保存性が高く栄養豊富なうえに味も良いという、アメリアが開発した糧食は、国軍の食事改善に大きく貢献したという。




