告白されるシスター
ハルフォンソの街からこんにちは。ティファレトです。
本日も冒険者ギルドでお仕事を探しに来たのですが、何でしょう?随分と静かですね。
「おお、ついに来たのか麗しい君」
「ロールさん、こんにちは」
「はい、こんにちは。あの、ティファレトさん」
「はい、どうしましたか?」
何やらロールさんの雰囲気がいつもと違います。
彼女にしては妙に焦りが見えるような?
「君、聞こえているのかね?」
後ろを指差していますね。何でしょう?
「おお!ようやく気付いたかね、麗しい君」
「どなたですか?」
後ろを振り向くと、少し太った装飾過多の男性が私を大袈裟に見ています。
初めて見る顔ですね。少なくとも冒険者では無いでしょう。
「おや、我を知らないとは.....仕方無い。我はダウン・ファルド男爵である!」
「私はティファレトです」
貴族の方でしたか。
ですが、それにしては、どうにも覇気に欠けるといいますか、人を束ねる雰囲気を感じませんね。
グランツ伯爵やジードさん、第三王子殿下にはそういった雰囲気があったのですが。
「学が無いだろうから、単刀直入に言おう。我の妻になれ!その美しさは我にこそ相応しい!」
ダウンさんの言葉に、ギルド内が完全に沈黙しました。
妻?私がダウンさんのですか?
「お断りします」
「なっ!?」
「見たところ弱そうですし、賢そうにも見えません。ダウンさんの子どもを産もうとは思わないです」
「な、な、な......」
「あれ、効くんだよな.....」
「ザバン、涙拭けよ」
ふと横を見ると、安堵した様子のレシートさんがいます。
そうですね、ダウンさんの子どもを産むのでは無く、レシートさんであれば問題ありません。
ふむ?どうして私はそう考えたのでしょうか?
考えても仕方がありませんね。とにかく、ダウンさんではあり得ません。
「わ、我の妻になれば贅沢が出来るのだぞ?」
「必要ありません」
今が既に贅沢を享受しています。
「貴族の妻になりたくないのか!?」
「はい」
特に魅力は感じませんね。
「こ、この......平民がーーー!ぶへぇ!?」
「あーあ」
掴みかかって来たので頬を張り倒したのですが、駄目だったでしょうか?
首は、折れてませんね。
「我を、我を、この、男爵である我を平民の女如きがぁ!」
「あら」
ダウンさんが剣を抜いた途端、冒険者ギルドに数人の男性が入ってきました。
見たところ相手にはならない人ばかりですが、どうしましょう?
「ロールさん、殺しても良いですか?」
「駄目です。援軍を頼んでいますので、もう少し待ってください」
「はい」
そこから睨み合い、ギルド内の冒険者達の殺意が膨れ上がり、いざ戦闘かという時に聞いた事のある声が大音量で響きました。
「そこまでだテメェら!」
「誰だ!我はこれからこの女......を......」
「あぁ?」
「ひっ!?城塞の、ジード!?」
ギルドに入ってきたのはジードさんでした。
睨みつけるだけでダウンさんも男性達も腰を抜かしていますね、流石は銀階級です。
「ダウン・ファルド男爵。貴族の身でありながら民に乱暴を働き、更には婚姻を迫るとは信じ難い暴挙。追ってグランツ伯爵閣下より沙汰が下る。粛々とその時を待て」
「な!?」
「この場にいる冒険者達よ。グランツ伯爵閣下より許可は得ている。この不埒者共を拘束せよ!」
そこから先は一方的な蹂躙劇でした。
あっという間にダウンさんとお供達は拘束されて連れていかれました。
「ティファレト、悪かったな。貴族の一員として謝罪するぜ」
そうして、深々とジードさんが私に頭を下げました。
「大丈夫です。しかし、本当に彼は貴族なのですか?」
「恥ずかしいが、そうだ。どうしてそう思う?」
「何と言いますか、随分と私の知る貴族の方達に見劣りしましたので」
「ま、貴族っていっても1人の人間だからな。駄目な奴だっている。本来なら、いるべきじゃあないんだがな」
「そうですか」
「それにしても、アイツを手酷く振ったらしいな?かぁー、見たかったぜ」
「流石にあの人の子どもを産みたいとは思わなかったので」
「ほう?それなら、この場ではいるのか?」
「今のところは、産みたいと思う人はいません。強いて言えば、レシートさんぐらいでしょうか?」
「ブフーーーーーーッッッ!!?」
「おわぁ!汚え!」
レシートさんが飲み物を吹き出してしまいました。
肺に入ってしまったのでしょうか?
「そうかそうか。もし、産むならグランツ家に連絡いれてくれ。色々と世話になってるし、礼がしてぇからな」
「はい」
出産は生物に大きな隙が生じる命懸けの行動です。
それをジードさん達に補佐してもらえるのは心強いですね。
今はまだ予定はありませんが、産む時には是非力を貸してもらいましょう。
さて、妙な出来事はありましたが、気を取り直してお仕事を探すとしましょうか。




