踊るシスター
ハルフォンソの街からこんにちは。ティファレトです。
お仕事を求めて冒険者ギルドへ来たのは良いのですが、あまり稼げるお仕事が無く、どうしたものかと迷っています。
「むぅ......」
「うーん......」
そんな私の目の前に同じように悩める人達がいました。バッシュさんとレシートさんです。
「どうかしましたか?」
「む?ティファレトか」
「ティファレトさんか。えっと、依頼を受けたんだけど足止めを食らっててさ。バッシュ先輩と悩んでいたんた」
「足止めですか?」
「そう。フンワリンゴの採取なんだけど、群生地にオオサケビドリが住み着いててさ、近寄れないんだ」
「あら」
【フンワリンゴ】はトルンの森に生える、非常に柔らかでとろけるような味わいのリンゴで、高級食材です。
【オオサケビドリ】は3mほどの巨大な渡り鳥なのですが、外敵に対して凄まじい音量の叫び声を浴びせるのが特徴の鳥です。
その叫び声の威力は鼓膜はおろか、浴び続けると人であれば体が破裂し、飛来する弓矢を地に落とすほどです。
なので、基本的にはオオサケビドリには関与しないのが通例なのですが、運悪く依頼採取の場に陣取ってしまったようですね。
「ティファレトさん、奇跡で音をどうにか出来ないか?」
「出来ます。が、その奇跡を行使している間は私は全く戦闘に関与出来ないので、仕留めるのはお二人になります」
「出来るのか!?よし、それならいけるぜ!良いよな?バッシュ先輩」
「うむ。心強い限りだ」
どうやら私もトルンの森に向かう事になったようですね。報酬金は非常に良いようで、3人に分けても充分らしいので頑張りましょう。
「あれだ」
「真ん中に居ますね」
トルンの森をしばらく歩き、フンワリンゴの群生地に着くと、派手な色合いの巨大な鳥が、これまた巨大な巣を作ってこちらを見ています。
「それでは始めましょう。戦闘はお願いしますね」
「おう!」
早速跪き、深く意識を神に向け、ひたすらに祈ります。
祈り、祈り、祈り、祈り、祈り、それらが神へと届き奇跡の許可を賜ります。
目を開き立ち上がり、左手を腰に、右手を前へ。
「見遣れ......歓喜〈たいよう〉」
ステップを効かせて足を踏み鳴らし、手拍子と共に腰を動かした途端、私が発する音以外の全ての音が影響力を無くします。
「これだな?信じるぞティファレトさん!」
私が踊りだした瞬間、バッシュさんとレシートさんがオオサケビドリに向かって突貫。
バッシュさんが盾を構えてレシートさんがそれに乗り......。
「ぬん!」
バッシュさんの膂力も合わせた大跳躍でオオサケビドリへと一気に迫ります。
「.....!......!」
私の踊りは一層激しさを増し、スカートを履いているかのように翻しては足を踏み鳴らし、神への感謝を歌として世に流します。
そして、外敵が迫ったオオサケビドリの喉が膨れ、大きく口を開いてレシートさんに向かって叫びます、が......。
「!?.......!.......!」
この奇跡の利点は、音によって影響を及ぼす全てを無効化させ、神への讃歌を聴く事が出来ること。
欠点は踊り続けなければならない事です。
踊りは嫌いではありませんが、非常に足場の悪い森で歌いながら激しく踊るというのは単純に体力を消耗します。
踊りながらレシートさんの方を見ると、叫びが出ずに戸惑うオオサケビドリの頭を殴りつけ、落ちてきたところをバッシュさんが首を落としました。
何やらレシートさんが興奮していますが、残念ながらレシートさんの声も出ていないのですよね。
「はい!」
最後に決めポーズをしながら声を出し、奇跡の行使を終了します。ご静聴、ありがとうございました。
「見事なものだ」
「助かったぜ、ティファレトさん!」
「お役に立てたようで何よりです」
では、オオサケビドリを解体してフンワリンゴを収穫しましょう。
「大漁だぜ!」
結局、オオサケビドリを倒した後は平和に事が進み、大量のフンワリンゴと解体したオオサケビドリを冒険者ギルドに問題無く納品出来ました。
依頼料にも色をつけてもらえ、素晴らしい稼ぎになってくれましたね。
ですが、神からは腰の振りが甘いと評価を頂いてしまいました。これからは踊りも練習しなければなりませんね。




