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冒険者のお仕事(前編)

ハルフォンソの街からこんにちは、ティファレトです。

本日は教会の仕事はお休みし、冒険者としての仕事でお金を稼ごうと思います。

お金がほとんど要らない生活をしている私ですが、趣味の為に必要になる事があります。

その趣味とは、読書です。

本というものは素晴らしいですね。

知識を得られ、好奇心を刺激され、静寂に浸る事も出来る。

そんな本ですが、中々にお高い。

紙を作るのも皮のカバーを作るのも大変に手間がかかるものらしく、普段のシスター業だけではとても手が出ません。

そういう時こそ、冒険者業です。

冒険者とは、危険を顧みない日雇い業であり、ギルドという役所で仕事を受ける事が出来ます。

石階級から鉄階級まではたいした稼ぎにはなりませんが、銅階級以上となると話は別。

危険性の高い依頼も受ける事が出来、予測される危険性が高ければ高いほど稼ぎも多くなります。

おっと、考え事をしていたら着きましたね。


「お邪魔します」


「あら、ティファレトさん、こんにちは」


「はい、こんにちは」


受付のロールさんが応対してくれます。

ここ冒険者ギルドでは、受付を介しての依頼の受注・報告の他にも飲食店を併設しており、ほとんどの時間賑わっています。


「おう、ティファレトじゃねぇか。珍しいな」


「え?何あの姉ちゃん。めっちゃボインじゃね?」


「俺の嫁にでもなりに来たかぁ?ガハハハハ!」


うーん、この騒々しさ。

街の人が子ども達に、冒険者は目指さないほうが良いと言う理由が今に詰まっていますね。

日雇いの危険仕事を生業にしている人達ですから、荒くれ者が多いのですよね。

とはいえ、銅階級以上になるには素行や礼節も最低限必要になるので、山賊もかくやという人達のほとんどは鉄階級以下です。


「本日は依頼の確認ですか?」


「はい。稼げる依頼があればと」


「そうですね.....ティファレトさんだと.....危険ですが稼げる依頼があります」


「あら、何でしょう?」


「こちらです。早急に解決したい依頼なのですが、残り1人をどうするか、という段階でして」


「ふむふむ」


渡された皮紙から依頼内容を見ると.....盗賊の討伐ですか。

生死は不問、一部捕縛が望ましい、と。


「こちらに」


ロールさんが私に手招きし、ヒソヒソと話をします。


「実は、とある貴族の4男が興した盗賊団でして、軍を向けるのは体裁が悪く.....」


「関係性の無い冒険者に白羽の矢が立ったと」


「はい.....お引き受けいただけますか?同行者は銀階級のミリアーネさん、銅階級のバッシュさん、同じく銅階級のレシートさんです」


全滅させても本3冊分、捕縛に成功すれば5冊分。

良いですね、実に良いです。


「はい、大丈夫です。引き受けましょう」


「ありがとうございます。潜伏場所の候補は絞れていまして、既にチームもあちらに待機しております」


「わかりました。いってきます」


ロールさんが指を差した先を見ると....確かにいますね、合流しましょう。


「こんにちは、同じく依頼を受けたティファレトです」


「あら、ティファレトさんが来たのね。今回のリーダーは私だから、よろしくね」


教養のある動きで私に挨拶をする彼女はミリアーネ。

細身の体に、斜めにかけて大きな傷跡のある顔、手入れの行き届いた弓が特徴の銀階級冒険者です。


「ティファレトか。今日はよろしく頼む」


背が高く、寡黙な雰囲気のある彼はバッシュ。

分厚いナタのような剣と、肘まで隠す丸盾を装備する筋骨隆々な銅階級冒険者です。

この2人は何度か一緒に依頼をこなした事があり、知った仲なのですが。


「何だ?ティファレト?確か教会のシスターの名前だよな?大丈夫かよ」


訝しげに私を見る、若い彼がレシートでしょう。

実際、彼が怪訝に思うのも無理はありません。

奇跡の強力さや有用性は誰もが知るところではありますが、戦闘中に行使出来る信徒はあまりに少ないのです。

奇跡は神への祈りによって発現するもの。

つまり、緊迫した状況下で祈りや信仰を無心に行えなければ発現しないのです。

何と言っても、我らが神は死にたくないだの、痛いだの、それらの考えすら祈りに対する邪念と捉えますからね。

首元に刃物が迫ってなお、真摯に祈り続けられる信徒しか、戦闘中に奇跡を行使する事が出来ないのです。

私はもちろん行使出来ます。

神に対する私の信仰心は天井知らずですからね。


「直接の戦闘は強くありませんが、祈る事は出来ますので大丈夫ですよ」


「......ふん」


「ティファレトさんなら大丈夫よ。何度か任務で一緒になった私が保証するわ」


「ミリアーネさんが言うなら......」


流石は銀階級の一言、説得力が違いますね。

銅階級が一流の冒険者、では銀階級はというと、鍛え上げた人間の限界点と言われています。

金階級は理の外、はっきり言って人外の扱いですね。


「ティファレトさんの準備が良ければ、今すぐ向かうけど、どうする?」


ふむ.....干した水ブドウ良し、小盾良し、メイス良し、着込んだ帷子良し。


「問題ありません。今すぐでも大丈夫です」


「それじゃあ、出発ね」


ではでは、盗賊の命を本に換えに行くとしましょう。


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