弓を没収されるシスター
ハルフォンソの街からこんにちは。ティファレトです。
今私は冒険者ギルドの訓練場にいるのですが、冒険者ギルドにも関わらず、普段とは違って静寂に包まれているので不思議な感覚です。
「.......」
理由はたった一つ、ミリアーネさんが弓の鍛錬をしているからです。
何故それが静寂に繋がるのかと言いますと、あまりの技量に皆さんが魅入ってしまうからです。
「うおおおお!?」
「刺さってる矢を射って縦に割った!?」
「なんで放たれた矢が曲がるんだよ......」
もはや外す外さないの次元ではありません。
同じ場所に当てるのは当たり前で、軌道を曲げたり3本同時に射っても同じ場所に当てています。
戦闘中に走り回りながらもこの精度なのですから、お見事と言う他ありませんね。
「ふぅ。あら、ティファレトさん、こんにちは」
「こんにちは、ミリアーネさん。相変わらずお見事です」
「ありがとう。そうだ、ティファレトさんも弓をしてみない?」
「私がですか?」
便利ではありますが、難しそうです。
それに......。
「私には、向いていないのでは?」
そう言って視線を下げれば、そこにあるのは恐らくハルフォンソで1番大きいであろう胸。
私が弓を引いて離せば、胸に弦が直撃する未来しか見えません。
「私が使っているような弓ならそうね。だけど、こういう短弓だってあるのよ」
ミリアーネさんがそう言って私に見せたのは、全体的に小さくしたような弓でした。
「これは顔の前から首の後ろ辺りまで引いて射つ弓なの。大型生物には効かないけど、小型相手への牽制にはなるわ」
「ふむ。こうですか?」
これなら胸に当たる心配もありませんね。
使いこなせれば色々と便利そうです。
「そうそう!上手!奇跡は凄い力だけど、隙も大きいじゃない?遠距離の攻撃手段を持っておくのは良いと思うわ」
「なるほど......うっ」
ミリアーネさんの言葉に賛同した途端、頭痛が私を襲いました。
神?分かりましたから、奇跡一筋ですので、分かりましたから。
「どうしたの?」
「神から奇跡一筋でいろとお叱りを受けました」
「そう......大変ね」
「弓すら使用禁止にされんのかよ」
「やっぱ信徒ってなろうとしてなるもんじゃねぇわ」
駄目なものは駄目ですので、弓は諦めて奇跡を頑張りましょう。
具体的には神に素早く願いを届けるとか、奇跡特有の姿勢を洗練させる、ですかね?
神?それで良いですか?はい、精進します。
「私は私で、奇跡を頑張る事にします」
「ええ、よくわからないけれど、頑張ってね」
ひとまず、日課の鍛錬に姿勢の反復練習を加えましょう。




