手術成功のコツは我慢強いこと
ハルフォンソの街からこんにちは。ティファレトです。
本日は急遽ガーロンド先生に呼ばれまして、診療所に来ました。
「こんにちは、ガーロンド先生」
「おぉ、待っておったぞティファレトちゃん」
「お忙ぎと聞いて来ました」
「そうなんじゃよ。緊急性は無いが力のいる仕事での。オマケに患者の滞在期間が短いときた。」
「手術ですか?」
力がいるという事は、抑えつける作業があるという事、すなわち痛みを伴う手術だと思うのですが。
「そうじゃ。話は患者と一緒に話す。いくぞい」
「はい」
ガーロンド先生と共に診察室に入ると、金髪で細身ですが鍛えられている男性がいました。
「ガーロンド医師。彼女が助手か?」
「そうですじゃ。彼女はティファレト。銅階級冒険者にして、ここの診療所の手伝いを何度もしてくれている信頼の置ける者ですじゃ」
「こんにちは。ティファレトです」
「うむ。私はサンレイン王国第三王子、ロイド・サンレインである」
「第三王子殿下が何故ここに?」
「ここのガーロンド医師が非常に腕利きの医者だと聞いてね。まずはコレを見てほしい」
そう言ってロイド王子がマントを脱ぐと、普通の体......いえ、左腕が少し曲がっていますね。
「ご覧の通りだ。数年前に骨を折ってしまってね。治りはしたが妙な形になってしまったんだ」
「それでガーロンド先生に?」
「うむ」
なるほど、合点がいきました。
ガーロンド先生は傷口を癒着させる魔術を持ち、それを応用した手術で体の歪みを治す事が出来ます。が、それには無視出来ない問題があります。
「手術の方法は聞いていますか?」
「いや、まだだよ」
「ティファレトちゃん、頼む」
「確かにガーロンド先生は体の歪みを矯正する事が出来ますが、それはあくまで魔術の応用によるものです」
「つまり?」
「あなたの腕を一度斬り裂いて、中の骨を砕いて正しい形に繋げなおすという事です。」
「.......」
「どうしますか?痛み止めの薬は飲んでもらいますが、それでも激痛はあり、動くと良くないので手術中は私が抑えつける形になりますが」
「治る保証は?」
「見た所、難しい内容じゃないでの。動かず痛みを我慢すれば確実に治せると断言出来ますじゃ」
「.......分かった。よろしく頼むよ」
「最善を尽くしますぞ。よし!ティファレトちゃん、準備じゃ!」
「はい」
では準備を始めましょう。
痛み止めに体用の刃物に革ベルト、控えていたパンジーさんにも手伝ってもらいます。
「よし、薬が効いてきたの。ティファレトちゃん、抑えを頼むぞい」
「はい」
寝台に寝かせた第三王子の四肢を革ベルトで縛り、その上で私が各部を抑えつけます。
口に布を噛ませるのも忘れずに。
「よろしく、頼む」
薬の影響で少し朦朧としていますね。効いている証です。
「手術時間は5分じゃ。パンジーちゃん、増血剤も用意しておくれ」
「分かりました先生」
「では、始めるぞい」
「!!」
ガーロンド先生が素早く左腕を切り裂き、手首から肘までの骨がしっかり見えるようなり、パンジーさんが器具で傷の開きを固定します。
「ここと、ここじゃな」
「ーーーーーーッッッ!!!」
次に大きな釘のような物と金槌を使い、左腕の骨の部分部分を割り砕きます。
第三王子殿下、中々に我慢強いですね。
布越しに叫んではいますし、右腕と脚は痙攣させていますが左腕だけは動かしていません。
「よし、よし、癒着〈ペースト〉」
砕いた骨を適切に並び替え、魔術を発動。
みるみる内に骨が繋がっていき、さっきまでの曲がった骨とは違う正常な骨へと出来上がりました。そしてそのまま裂かれた筋肉も皮膚も元通りに繋がり......。
「手術成功じゃ」
「お疲れ様です」
「増血剤も投与完了です」
見事、第三王子殿下の曲がった左腕は通常の左腕へとなりました。
「ガーロンド医師、ティファレト殿、パンジー殿、この度は誠に世話になった。後日、礼をさせてもらうよ」
「念の為、あと1ヶ月は剣は振らんでくだされ」
「分かった」
手術成功の後、丸一日診療所で安静にした後、第三王子殿下は王都へと戻っていきました。
その後、私の教会へと送られてきたのは、なんと沢山の水ブドウと本!
間違いありません、第三王子殿下はとても良い人です。
今後、彼の依頼があれば優先して受けましょう。




