給仕するシスター
ハルフォンソの街からこんにちは。ティファレトです。
今日は夕方から孤児の施設訪問があるので軽くお仕事でもと思い冒険者ギルドに来ているのですが、とても賑わっているというか、普段より喧騒が激しいですね?
「む、ティファレトか。良いところに来た」
「こんにちは、ギルド長。一階でお仕事ですか?珍しいですね」
普段は二階でお仕事をしているギルド長ですが、今日は一階で受付業をしています。
何かあったのでしょうか?
「受付嬢達が風邪を引いてしまってな。人手がとにかく足りない状態なのだ。そこでだ。金は出すから手伝ってくれないか?」
「夕方までなら大丈夫ですよ」
「充分だ。では給仕を頼む。給仕用の服は......いや、良い。そのまま給仕をしてくれ」
「はい」
引き受けたのは良いですが、給仕は初めてです。
ひとまず、普段の給仕の動きを真似すれば良いでしょうか。
「俺達が料理を作るから、ティファレトちゃんは注文をとったり出された料理を冒険者に渡してくれ」
「はい」
料理長に言われ、困惑しながらもとにかく動き出します。
実際に動いて慣れていくしかありません。
冒険者は不慣れに寛容です。
「ヒマワリパンと豆スープの人」
「こっちだ!」
「ヒマワリ花と鶏肉の炒め物ですね?」
「おう!」
中々に忙しいですね。皆さん水ブドウにしませんか?
「表情変わらないのはアレだが、中々動けてるなティファレト」
「アイツ結構多才だよなぁ」
お肉とヒマワリ酒が特に注文されますね。
おっと、こちらは違う人のですね。
「姉ちゃん、良い尻してんじゃねぇか」
「あら?」
1人の山賊...失礼、冒険者が私の尻を触ってきました。
大きいと自他共に認識していますが、それが良いのでしょうか?
「ば、馬鹿!銅階級だぞ!?すみません!この馬鹿酔ってまして!」
「ああん?良いじゃねぇかよぉ」
「尻を触るのはいけないとロールさんが言っていましたよ?」
「こんなデカケツで何言ってんだぁ?ほらサービスしろよぉ」
「いい加減にしろって!すみません、酔いが覚めたらキツく言っておきます」
「ふむ、酔いがいけないのですね?それでは、酔いを覚まさせてあげましょう」
良くないものを放置するのはもっと良くないですからね。
私は神に祈りつつ、跪きます。
「やべぇ!ティファレトが何か祈り始めたぞ!」
「誰か止めろよ!」
「無理だ!息の根止めないとアイツの祈りは止められねぇ!」
「逃げたほうが良いんじゃねぇか?」
「無駄無駄。指定された時点で地の果てまで逃げても逃れられねぇよ」
「対象じゃありませんように.......」
真摯に神へと祈り、許可を頂いたので立ち上がり、賜った奇跡を皆さんに伝播させるべく腕を広げ、力ある言葉を紡ぎます。
「黙せよ......追放〈げきふん〉」
「うぎ!?ぎゃあああああ!」
「あぎぃいいあああ!」
お酒を飲んでいた人達がのたれうったり、痙攣して泡を吹いていますね。
「うお!?何だ何だ!?」
「苦しんでる奴とそうでない奴がいるな?」
「お酒の毒を体から抜いたのです」
「苦しんでるんだが?」
「毒を抜けば抜くほどに激痛が走ってしまうので」
この奇跡は問答無用で毒を取り除くという優れものです。
欠点としては毒の種類を取り除くほどに激痛が増し、単一以外の毒だと大抵の人が痛みで死んでしまう事です。
今回はお酒の毒だけなので大丈夫でしょう。
「ひぇ.....」
「許して......許して......痛いぃぃぃ」
「あのツィツィーが泣いてやがる」
「何杯も飲んでたからな.......」
「さて、それではお仕事の続きをしましょう。何か注文はありますか?」
「俺はヒマワリパンで」
「俺はこれから仕事だから良いわ」
「わかりました」
さて、注文を料理長に届けに行きましょう。
「俺、2度と酒は飲まねぇ」
「俺も」
ヒマワリパンに炒め物にスープに干物。給仕は思いのほか大変です。
夕方までに帰れるのでしょうか?




