動けなければ冒険者は務まらない
ハルフォンソの街からこんにちは。ティファレトです。
今日はバッシュさんと一緒に冒険者ギルド訓練場に来ています。
「よろしく頼む」
「はい」
ギルド長が言うには、銅階級がもっと増えて欲しいという事で、私とバッシュさんが主体となって鉄階級以下の冒険者の皆さんを集めて訓練をするというわけです。
現状、ハルフォンソ支部の銅階級は全体の1割ですからね。人手不足も人手不足です。
さて、鉄階級以下の皆さんが集まってきましたね。
今日1日で鍛え上げられる、なんて事はありませんが、鍛え方は教えられますので無駄ではないでしょう。
「こんにちは。教会のシスター兼、銅階級冒険者のティファレトです。本日はやる気のある皆さんに鍛え方を教えて欲しいとギルド長に言われましたので教えます」
「補佐のバッシュだ」
バッシュさんは私よりも強く、肉体も優れていますが、とても無口な人なので補佐に回ってもらいます。
「まず、冒険者にとって最も重要な能力は何だと思いますか?」
冒険者にとって兎にも角にも重要な力、それは...。
「魔術か?」
「腕力だろ」
「どれも違います。答えは体力です。ひたすらに動き続ける力、それが私達の明暗を分ける力です」
重いものを持ち、武器を振り、走り続ける。
時に毒を受け、寄生虫に寄生され、出血を強いられる。
それらが常に起きる仕事である以上、何より大事なのは体力になるのです。
「バッシュさん、装備を着けたままどれくらい全力疾走が出来ますか?」
「おいおい、全力疾走なんて3分保たねぇだろ」
「しかも装備有りだろ?」
皆さんがあれこれと言っている中、バッシュがゆっくりと口を開きました。
「30分ぐらいだな。全力疾走だけに限定すればそれが限度だ」
「!!?」
「マジかよ...」
「私は25分ほどです。流石ですね」
「!?!?!?」
流石はバッシュさんです。私ももっと体力をつけねばなりませんね。
「さて、皆さんの訓練内容がわかりましたね?これから皆さんにはひたすら走り、武器を振るってを繰り返してもらいます」
「うげ......」
「ちなみに、私は毎日水ブドウの木の周りを全力疾走と流しで1時間走り、その後に1時間武器を振っています」
「ひぇ...」
「ティ、ティファレトさんて銅階級で1番弱いんだよな?」
「はい」
補助能力ならともかく、1対1の戦いでは他のどのハルフォンソ支部の銅階級の方にも私は勝てません。
勝負にはなるでしょうけど、技術と体力の差で必ず押し切られてしまいます。
「バッシュさんはどのような訓練をしていますか?」
「全身鎧をつけて、ひたすら武器と盾を動かしながら前後左右に走っているな」
「素晴らしいですね」
「化物じゃん」
「バッシュって、もしかして人間じゃねぇの?」
人間じゃないのは私であって、バッシュさんは人間ですよ?確か番もいるはずです。
「それでは皆さん、汗を流しましょう。終わったら水ブドウをあげますので頑張ってください」
「水ブドウかぁ」
「いまいちやる気出ねぇな」
「ティファレト。俺はいらんぞ」
神?もしかして水ブドウは人間の味覚に合わないのですか?
「皆さん、頑張りましたね。これを毎日続けて立派な銅階級になりましょう」
「かひゅ...かひゅ...ひゅー」
「ぜひー...ぜひー...ぜひー」
30分ひたすら走り、武器を振るってを繰り返しましたが、見事に死屍累々ですね。
これを続ければ銅階級も夢ではないでしょう。是非とも人手不足を解消してもらいたいですね。
「皆さん、お疲れ様でした〜。薬茶を持って来ましたよ」
ロールさんが差し入れの薬草茶を持ってきました。
苦いですが、疲労回復に抜群の効力があります。
「ありがてぇ」
「ロールちゃんはやっぱ良い女だわ」
皆さん、しみじみと飲んでいますね。
「水ブドウもありますからね」
「いらねぇ」
「この差よ。女は胸だけじゃねぇって再確認したわ」
なんだか随分と失礼な事を言っていませんか?
取り敢えず、水ブドウに顔を突っ込ませましょう。
「ゴボボッ!!」
「ひぃ...。あ、お、俺は水ブドウ貰おっかな」
「はい、どうぞ」
「わ、わー、やったー」
「あいつ2つも渡されたぞ...」
「走ったばっかで腹に入らねぇって」
水ブドウはいつだってお腹に収まりますよ?
「水ブドウはともかく、いつでも食事が出来るのは大事な要素だ」
バッシュさんも一緒に走っていましたが、全く息を切らしていません。流石です。
「その通りです。そういう訳で皆さん、食べるのも訓練なので頑張りましょう」
「うげぇ」
「俺はもう2度と水ブドウは食わねぇ」
なんだか納得がいきませんが、とにかく鍛えるという目標は達成しました。
早く人手不足が解消されると良いですね。




