危険な日雇い労働者すなわち冒険者
ハルフォンソの街からこんにちは。ティファレトです。
今日も今日とて冒険者ギルドで依頼を受けようと思うのですが、随分と人が多いですね?
ですが、以前と違って非常に若い人が多い。
周りの山賊紛いの人達とは違って良くも悪くも慣れていない感じがあります。
これは、年に数回ある例のアレです。
「ティファレトさん、こんにちは」
「はい、こんにちは。この感じは、新人達ですか?」
「そうなんです。今回は特に多くて...」
受付のロールさんが疲れた顔をしながら答えてくれます。
そう、今日は冒険者になるべく各所から押し寄せた人達を石階級に登録する日というわけです。
「割り込みすんな!」
「あぁ!?」
血気盛んですね。
石階級になった冒険者が鉄階級になれるのはだいたい3割ほど。他は理想と現実の違いに挫折して辞めるか、死にます。
ちなみに、鉄階級が銅階級になるのは1割も満たしません。そのまま鉄階級で引退まで頑張るか、死ぬかです。
冒険者と言われていますが、その実態は危険な仕事に従事する日雇い労働者。世直しの旅や物語の悪役を倒すような話は全くと言って良いほどありません。
以前、何故【冒険者】という名称なのかとギルド長に聞きましたら、【危険を顧みない無鉄砲な奴】を良い感じの名前にした結果とのことです。
「おい、新人達。もし長生きしたいんだったらティファレトっていう姉ちゃんには逆らうなよ?」
「はぁ?何だよそれ」
鉄階級のザバンさんが石階級なりたての人達に注意をしていますね。
しかし、私ですか?はて?危険人物として名を馳せてはいないはずですが。
「お前らも強くなって、東にあるトルンの森で仕事をするようになったら、絶対に数回は寄生虫に寄生される羽目になる。そん時、ティファレトに虫下しをしてもらえなきゃ、この世の終わりみたいな苦しみを味わって死ぬんだ」
「き、寄生虫?」
「そうだ。腹ん中食い荒らされたり、餓死した後背中が割れて虫が大量に出たりとかな」
「ひぇ......」
「そ、そのティファレトって人はどこにいるんだよ?どんな人だよ?」
「こんな人です」
「うぉ!いたのかティファレト」
「はい」
ザバンさんの後ろから近づいて挨拶をします。
「皆さん、こんにちは。ティファレトです。普段は教会でシスターをしています」
「.......」
「あの?」
挨拶をしたは良いですが、全員が黙ってしまいました。
まさか、擬態が解け...てはいないですね。良かった。
「おい、テメェら。見惚れるのは分かるが挨拶しろ」
「......は!お、お姉さん!いや、ティファレトさん!これからよろしくお願いしやす!」
「はい」
少し心配をしましたが、元気そうですね。
「ティファレトさんも冒険者?」
「はい、銅階級冒険者です」
「え!?」
そんなに驚く事ですか?
「見た目からは分かんねぇよな。俺より圧倒的に強いぜ?」
「マジかよ......」
「銅階級の中では最弱です」
「銅階級の時点で俺らからしちゃ達人とか超人だよ」
「銀階級はどうなるのです?」
「あれは人間じゃねぇ」
「銀階級......」
新人達が呆然と呟いていますね。詩人の弾き語りで語られるぐらいなだけあって、流石に銀階級の凄さは知れ渡っていますか。
「このギルドにいる銀階級は2人。弓のミリアーネと城塞のジードだ」
「俺らでも聞いた事ある名前だ.......。山越しに矢を当てたとか、盗賊100人から1人で村を守ったとか」
「事実ですよ?」
「ひぇ......化物じゃん」
銀階級は完全に超人です。それらが力を合わせないと被害がでるヒトモドキが、如何に常軌を逸した怪物であるのかもわかります。
「寄生されたら教会か診療所に来てください。すぐに解決しますので」
「はい!」
是非とも死なずに頑張っていただきたいものです。
ところで、彼等から別れ、依頼を受けて出発しようとした時にザバンさんから礼を言われたのですが、いったい何だったのでしょうか?




