パーティーは大変
ハルフォンソの街からこんにちは。ティファレトです。
今日はパーティー当日。朝からレシートさんと一緒に馬車に揺られているところです。
「俺、大丈夫かな?」
「大丈夫でしょう。銅階級、それも貴族出身では無いので厳密な礼儀作法は適用されない筈です」
どこまでいっても日雇い業なのが冒険者ですからね。
生活区域も基準もまるで違うのですから、同じを求めるというのがおかしな事なのてす。
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
「ど、どうぞ」
馬車の扉が開かれ、緊張しきりのレシートさんの手を取り馬車を降ります。
本に書いてあった通りの事が出来ていると思うのですが、どうなのでしょう?
私も暗記しただけで身につけたわけでは無いので自信がありませんね。
「コルセットは......必要ありませんわね」
「大変良くお似合いです」
それぞれの控室に分かれ、買ってあったドレスにお着替え。
夜空のような色合いに、ほとんど露出の無い、レシートさんが最も気に入っていたと思われるドレスです。
「こちら、レシート様から預かっております。お着けしますか?」
「あら?」
侍女の方が私に見せたのはイヤリングでした。
レシートさんがいつの間にか買ってくれたみたいですね。
この形は.......水ブドウ!水ブドウです!
そのままの形だと丸いだけで分かりにくいですが、これは少し皮を剥がした意匠になっており、水ブドウだと分かるようになっています。
「お願いします」
小さく主張するそれを両耳に着けていただき、髪の一部を編んで準備は完了。
出番になるまでは読書をしていましょう。
「此度の王家主催のパーティーで私がワタリウシを献上したのは周知の事と思う。本日はその功労者に来てもらっている。我らがハルフォンソ在住の銅階級冒険者、レシート氏とティファレト嬢だ!」
出番が来ましたね。
「ティファレトさん、本当に綺麗だ」
「ありがとうございます。レシートさんのその姿も新鮮ですね」
「お、おう.......そ、それじゃあ、お手をどうぞ」
「はい」
レシートさんの手に私の手を添え、2人で歩き出します。
「なんという美しさだ.......」
「本当に貴族出身では無いのか?」
「良いドレスの選択をしているな」
早速品定めが始まっていますね。
出身でいうならば私は洞窟でレシートさんは孤児です。
アメリアが好みそうな雄は.......いそうにありませんね。
「この者らの活躍により、国の記録にしか無い雄のワタリウシの味を経験として得る事が出来た。改めて礼を言おう。レシート氏、ティファレト嬢、誠に大義であった」
私達は膝を折り、グランツ伯爵からの礼を受け取ります。
それにしてもグランツ伯爵、ジードさんに大変似ていますね。
ジードさんから筋肉を減らせば完成するのがグランツ伯爵といった感じです。
もしかして、ジードさんはグランツ伯爵と兄弟なのでしょうか?
「是非とも武勇伝を聞かせて欲しい。それでは皆の衆、本日のパーティーを存分に楽しんでくれたまえ」
そこから先は大変でした。
男性からはワタリウシや他の依頼での戦いを聞かれ、女性からは美容や胸を大きくする方法を聞かれ、ここ1週間分を合わせても今日の方が口数が多いというほどには話しました。
「ダンスは初めてです。難しいですね」
「.......」
緊張で顔を赤くしたレシートさんとのダンスが休憩時間としてとてもありがたかったですね。
他の男性とも踊りましたが、どうにも身体能力に差があり振り回してしまいがちです。
「俺、パーティーはもう良いや」
「同感です」
そうしてパーティーが終わった後、2人して疲れ切った状態で馬車に乗り、普段通りが良いと再認識しました。
何と言いますか、依頼で走り回るよりも格段に疲れましたね。
レシートさんが一緒にいなければどうなっていた事か。
.......そうです。レシートさんにお礼をせねばなりませんね。
「レシートさん」
「ん?」
「本に書いてあったお礼の方法です」
レシートさんに近づき、軽くレシートさんの頬に口づけをします。
「な......な......」
「今日はありがとうございました。レシートさん?大丈夫ですか?」
「だ、だだだだだ大丈夫だ!うん!大丈夫!」
「イヤリングもありがとうございます」
とてもお気に入りになったので、依頼の日以外は着けるとしましょう。
.......本当に大丈夫ですか?レシートさん。
「.......似合ってて良かった」
「はい」
そこからは互いに無言になり、馬車が着いたら会釈をしてそれぞれの家へ。
余談ですが、私のイヤリングを見てアメリアが根掘り葉掘り聞いてきまして、パーティーから帰った後も疲労が溜ました。
やはり、パーティーはもう行きたくないですね。




