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2度と起きて欲しくない奇跡

「........」


「お、おい.....ティファレトの奴どうしたんだ?」


「分からねぇ。水ブドウ食ってたと思ったら、急に水ブドウに顔突っ込んでブツブツ言いだしてあのままなんだよ」


「怖.....」


「あー、これはたぶん、アレね」


「何か知ってるのか?ツィツィー」


「前も似たような事があったのよ。確かその時は新しい奇跡を貰ってたわね。神様と話でもしてるんじゃない?」


「にわかには信じられねぇよなぁ。神様と会話なんてよ」


「良い事ばかりじゃ無いみたいよ?ティファレトが言ってたんだけど、良くない事をした信徒は頭痛がするか酷いと頭が破裂して死ぬんだって」


「ひぇ......」


「俺は教えだけで充分だわ」


「奇跡は凄い力だけど隙だらけだしね。首元に刃が迫っても祈り続けるなんて私には無理無理」


「だな」


「神よ、感謝します」


「うぉ!?復活した!うわ、顔ビチャビチャじゃねぇか」


ハルフォンソの街からこんにちは。ティファレトです。

今日は冒険者ギルドで遅めの昼食を食べていたのですが、なんと!その時に神から新たな奇跡の許可をいただきまして!思わず祈り続けましたね。


「神様から何か言われたの?ティファレト」


「おや、ツィツィーさん。そうなのです。新たな奇跡の許可を賜りまして。それで.....」


「待って待って。顔が水ブドウの汁まみれだから」


「これは失礼しました」


そういえば水ブドウを食べていたのでしたね。顔を拭いて続きを食べるとしましょう


「あ、食べるのは続けるのね」


「はい」


「それで、どんな奇跡なの?今後の連携に組み込めるかもしれないし、見せてくれない?」


「もちろんです。神からの許可が頂ければですが」


神?行使しても良いですか?ただのお披露目ではありますが......ありがとうございます。流石は神。寛容で寛大です。


「許可がおりました」


「神様って厳しいのか優しいのか分からないわね」


「生物とは視座が違うので、私達の感覚では測れません」


「そりゃそうか」


何者であるかを考えた所で納得がいくかいかないかでしかありません。神は神です。


「それじゃあ、早速見せて見せて」


「はい」


目を閉じ、賜った奇跡を祈ります。

私の五感の全てが消え、ただ神への祈りが心身を満たし、自然と力ある言葉が口に出ます。


「満たせ......生命〈けっさく〉」


言葉を発すると同時、私の影が丸くなり、急速に広がっていきます。


「お、おいおい!大丈夫なのかよ!」


そして、冒険者ギルドの床全てが私の影で覆われた瞬間、影が弾け、小さな生物が大量に溢れ出ました。


「ぎゃあああああ!?」


「いやぁああああ!!」


小さな生物は黒く、平たく、素早い動きであちらこちらを走り回り、時には羽を広げて滑空します。

時折、街でも見かけますが大半は森の中で見る、神が最高傑作と称するその生物の名はゴキブリです。


「誰かー!」


「いやぁ!服の中に入ってきてる!」


適応力が高く、繁殖能力も高いこの生物は私にとっては憧れでもあり、嫉妬の対象でもあります。

私も一度で良いので神から傑作と称されたいものです。

ですが、彼等は圧倒的繁殖能力で数を増やしているのにも関わらず、私はまだ単一の個体。

生物としての優秀さではまるで敵いません。悔しいです。


「2度とその奇跡は使うな」


「はい」


しばらくして騒ぎを聞きつけて降りてきたギルド長にお叱りを受けました。

どうやらゴキブリは人間からは嫌悪の対象らしく、見るのも嫌なのだとか。

せっかく賜った奇跡ですが、人間社会で生きていけないのは本意ではありません。

名残惜しいですが、この奇跡は行使しないようにしましょう。

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