銅階級への昇級試験
ハルフォンソの街からこんにちは。ティファレトです。
今日は冒険者ギルドに来ているのですが、来て早々ギルド長に呼ばれて執務室でお話です。
「こんにちは、ギルド長」
「うむ。相談というのは、今日の銅階級への昇級試験の事だ」
「はい」
「実は試験官役に急用が出来てしまってね。今日いる人材で代役が出来るのは君ぐらいなんだ。報酬は出すので、頼めないか?」
「良いですよ」
遠出もせずにお金を稼げるのはありがたいですね。
子ども達のいる教会をあまり空けたくは無いのです。
「銅階級試験については知ってるね?君に担当してもらいたいのは筆記と模擬戦だ」
「筆記はともかく、模擬戦の合格基準はなんでしょう?」
「君を苦戦させられれば、充分実力があると判断する」
「わかりました」
私と同程度の実力であれば、少なくとも最低限銅階級の実力であると証明にはなりますか。
「今日受けるのは.....3人だな。合格者に上限も下限も無いので、容赦無くふるいにかけて欲しい」
「わかりました」
「試験は1時間後だ。よろしく頼む」
「はい」
ギルド長から資料を渡されたので確認しておきましょう。
ふむふむ、冒険者としての知識や物品の取り扱いの基礎。協調性や他者への敬意も見るようですね。
とはいえ、私が見るのは文字の読み書きや算術。そして個人戦闘力です。
試験まで時間が無い事ですし、担当部分だけ注力しましょうか。
「皆さん、こんにちは。今日の試験官を務めるティファレトです。よろしくお願いします」
「おい姉ちゃん!良い事してやるから合格にしろよ!」
「ティファレトさんか.....ジムだ。よろしく頼む」
「ダレンだ......」
あの長髪を纏めた人は駄目でしょうね。
私もお仕事が楽になりますし、もう不合格で良いのでは?
「まずは筆記試験、それから私と模擬戦になります」
「おい無視かよ!」
騒がしいですね。少し黙らせましょう。
「なんだ?ようやくその気にプギュ!?」
地面に顔を叩きつけたら静かになりましたね。
反応も遅いですし、対峙した時点で彼我の実力差が分からない時点で銅階級たりえません。
この人はもう不合格で良いでしょう。
「ギルド長、不合格者が出たので外に出しても良いですか?」
「うむ」
ギルド長から許可を取り、長髪の人の足首を掴んで出口の横側に引きずって置いておきます。
もっと鍛錬を積んで礼儀を学ばなければなりませんよ?
「では、こちらの問題を解いていってください」
お二人に皮紙を渡します。
内容としてはそうですね、私の教会に住んでいるジョンなら問題無く解けるといった内容でしょうか?
ああ見えてジョンは努力家ですからね。夜中にペンを走らせているのは気付いていますよ。
「出来た」
「こちらへどうぞ」
ジムさんの解答は......問題無さそうですね。
「......」
「出来ましたか?」
ダレンさんが止まっています。
「これ......」
「はい」
少しして言葉少なく皮紙を持ってきたので受け取ると....読む事は出来ていますが、書く事は苦手なようですね。
「それでは、次は私との模擬戦です。私から一本をとってください。魔術は禁止です。もちろん、私も奇跡は行使しません」
ここの皮鎧は汚いですからね、ちゃんと教会から帷子を持って来ましたよ。
私の装備は帷子と木の棍棒。ジムさんは.....直剣の2本持ちですか。
「いつでも良いですよ」
「じゃあ、遠慮無く!」
ジムさんが私に向かって走り出し、双剣を振ります。
ですが、これはいけませんね。
双剣の手数の多さと攻防の利点を活かせていません。
恐らく、純粋な筋力不足ですね。
攻撃は右を振れば次は左と単調ですし、防御は結局2本使ってしまっているので盾を両手で持っているのと変わりません。
「そこです」
「うっ!?.....参りました」
双剣を棍棒で弾いて地面に落とします。
私の筋力で簡単に落とせるようでは、硬い生物との攻防には使えないでしょう。
とはいえ、筆記や礼儀は問題ありませんし、今後の鍛錬次第では銅に上がるのも夢では無いと思います。
「では次、ダレンさんです」
「.......」
ダレンさんは槍ですね。む....この感じは。
中々に速いですね。突きも正確ですし、叩く事も織り交ぜてきます。
ですが、攻撃場所を目で追いすぎていますね。
どこに攻撃をしてくるかが分かれば、私でも無理なく避ける事が出来ます。
「なっ!?」
「悪くはありませんでした」
突きを避けつつ接近し、眼前で棍棒を止めて終了です。
「これで試験内容は終わりです。合否ですが....今回、合格者はいません」
「.......」
明らかに落胆していますね。
一応、改善点を伝えるとしましょう。
「ジムさんは筆記に問題はありませんが、個人戦闘力に難があります。双剣を扱うには筋力が足りていません。攻防を同時に出来るよう鍛えてください」
「筋力か」
「ダレンさんは戦闘力はあと少しですが、筆記能力に問題があります。加えて言えば、攻撃箇所を見過ぎているせいで、いつ、何処に攻撃が来るかが丸わかりです」
「!!」
「筆記は....どうしたら良い?」
驚いた後項垂れていたダレンが小声で言います。
「ギルドの書物を誰かに教わりながら読むか....私の教会で学ぶという手もありますよ?」
「教会?」
「子ども達に読み書きなどを教えていまして。例えば今日の筆記内容だと、問題無く解答出来る子が何人かいますよ」
ジョン、アメリア、アーノルドは解けるでしょう。
「良い、のか?」
「もちろんです。大抵はお昼前に教会で教えていますよ。子ども達だけで無く、街の人も来ますね」
「よろしく....頼む!」
「筋力か....バッシュさんに聞いてみるかな」
向上心があるようで何よりです。
もしかしたら、近い内に銅階級が増えるかも知れませんね。
「中々様になっていたな。どうだ?機会があれば今後も頼む事を視野に入れて良いか?もちろん報酬は出す」
「大丈夫ですよ。その場合、事前の連絡をお願いしますね」
「もちろんだ」
臨時収入が増えそうですね。私の本にも子ども達にも使えるお金が増えるのは実に良い事です。




