悍ましき生存戦略
ハルフォンソの街からこんにちは。ティファレトです。
今日はお金稼ぎの為に冒険者ギルドに来ていまして、これから良い仕事が無いかを探....
「ヒトモドキが出たぞ!」
「!?」
「マジかよ....」
あちこち傷だらけの装備を身に纏った冒険者がギルドの扉を乱暴に開き、たった一言叫んだだけでギルド内が騒然とし、緊張に包まれました。
無理もありません、ヒトモドキですから。
【ヒトモドキ】
人に近い体格の虫で、殺した生物の皮を剥いで身に着けて声帯を盗んで模倣する危険生物です。
非常に個として強い生物でもあり、殺された種族は模倣したヒトモドキに殺されてと負の連鎖が始まりやすく、国によっては災害の一種と数えられています。
ヒトモドキに殺された生物の痕跡は分かりやすく、1つは皮を剥がれた死体。
もう1つは腹部だけを食べられて卵を産み付けられたうえで、特殊な粘液によって保存固定された死体。
孵化までが長く、ほとんどが孵っても成体になれない事から数は非常に少なく、人への被害は数年に一度といったところですが、早々に対処が必要な生物なのです。
最初に聞いた時は同種かと思ったのですが、私は不定形であちらは甲殻のある虫なので違いました。
「ティファレトはいるか?....よし、いるな。聞いていただろう。今回も討伐に参加してもらうぞ」
「はい」
慌てて2階から降りてきたギルド長に言われ、承諾します。
ヒトモドキの討伐には私はうってつけですからね。
「チームメンバーは....ティファレト、ミリアーネ、ジード、バッシュ、ツィツィーの5人だ」
「ヒトモドキが討伐されるまでは通常の業務は停止となる。くれぐれも討伐メンバー以外は外出するなよ」
ヒトモドキの脅威は絵本になるほどで、誰もが知っている為、それぞれが手早く行動に移します。
私も皆さんと合流しましょう。
「ガハハハハ!ティファレト!今回も頼むぜ!」
「お久しぶりですね、ジードさん」
「しっかりと守ってあげるから、よろしくねティファレト」
「はい」
ジードさんとチームになるのは随分と久しぶりです。
バッシュさんと同程度の体躯に、全身鎧と大盾、短槍を手にした偉丈夫です。
見た目通りに粘り強く戦い、多くの依頼をこなしてきた銀階級の冒険者でもあります。
貴族の方らしいのですが、風貌は一騎当千の猛将といった具合の益荒男ぶりですね。
ツィツィーさんは相変わらずの皮鎧に槍一本。
彼女も守りや捌きに定評のある方です。
バッシュさんとミリアーネさんは言わずもがな。
それでは、ヒトモドキの被害跡があったという村に向かって行きましょうか。
「ここが報告にあった村ね」
情報にあった村に着いたわけですが、これでは村と言うより村跡ですね。
見えている村人の腹は無くなっていて、粘液で固めて立たされています。
「探知〈サーチ〉......こっちね、1人いるわ。生き残りかは分からないけど」
相変わらず優秀な魔術ですね。
ミリアーネさんの案内に従い向かうと、ボロボロの服を纏った血の臭いのする女性がフラフラと歩いていました。
「.......」
「おい、大丈夫か?」
ジードさんが声を掛けると、女性はゆっくりとこちらへ向かって来ます。
「タスケテー」
「......全員構えろ」
「タスケテー!」
私達が身構えると、女性の顔が絹を裂くように割れ、横開きの顎を剥き出しにして猛然と突進してきました。ヒトモドキです。
ヒトモドキが突進してきた瞬間、私は祈り始め、皆さんは私を囲むように陣形を整えました。
「ぬぅ!?速い!」
「4本の腕全部凶器ってズルくない!?」
「反撃はしなくて良い!受けに徹しろ!ティファレトを守りきれば必ず勝てる!」
恐ろしい速度と多腕を活かして攻め立てるヒトモドキと武具がぶつかる音、皆さんの叫び、その全てが祈りを深める毎に静寂に包まれていきます。
「この....弓を見てから避けないでくれるかしら?」
「むぅん!城塞〈フォートレス〉」
「反応が追いつかん.....」
そして、神からの許可が降りた瞬間、私は跪き頭を垂れて奇跡を口にします。
「伏せよ......厳粛〈さきぶれ〉」
瞬間、私の全てが重くなり、ミリアーネさんを狙うべく飛びかかろうとしていたヒトモドキが地面にうつ伏せになり、身動き一つとれないようになりました。
動けないでしょう?
この奇跡は対象の全てを重くするのです。
肉体も、身を撫でる空気も、魂でさえも重くして身動きを完全に封じます。
この奇跡の良いところは、一度対象を目視すれば何処にいようと速く動こうと回避出来ないこと。
我らが神の手が届かぬ場所は無し。
欠点は祈った者も同様の状態になることです。
神?私の分だけ軽くしてくださってもよろしいのですよ?
「良くやったティファレト。さぁて、手こずらせてくれたが終わりだ」
素早さと硬さが売りの生物もこうなってしまえば終わりです。
ジードさんとバッシュさんはヒトモドキの関節に刃を食い込ませ、切断し、解体していきます。
1人で行使しても時間稼ぎがせいぜいの奇跡ですが、仲間と一緒であるならばこの通り。
ちなみに、この奇跡での不意打ちは神が許しませんので許可は降りません。
「後は....気が重いが全部の遺体を燃やして終わりだな」
村人は全滅し、全ての遺体に卵を産み付けられている以上、放置する訳にはいきませんからね。
相変わらず、恐ろしい生物です。
ですが、そんな恐ろしい生物を小規模の群れを犠牲にしただけで跳ね返す人間もまた恐ろしい。
敵対する道を選ばなくて良かったと、心の底から思います。
「はー、最悪な気分だわ。しばらく焼いた肉は食べれなさそう」
「最近、肉より野菜が美味くなってきてな....」
「それは年でしょ」
「止めろ止めろ。最近娘にも年寄り扱いされるんだ」
「ティファレトさんのお尻....凄いわね」
「本当....デッカい」
「何も言う気は無い」
「あの?動けない人の臀部を撫でるのは如何なものかと」
なにはともあれ、少ない犠牲で済んだのは上々と言えるでしょう。
それはそれとして、そろそろ撫でるのは止めませんか?
結局、動けるようになるまで私は臀部をミリアーネさんとツィツィーさんに撫でられていました。
私のが他の人と比べて大きいのは認めますが、皆さんも大きいのでは?丸みが違う?そうですか。




