シスター大忙し
ハルフォンソの街からこんにちは。ティファレトです。
本日私は、目も回る忙しさとなっています。
「巡れ.......産声〈はんえい〉」
診療所で祈りを捧げ、妊婦のお腹に手を添えると、温かな光が手から放たれお腹を包みます。
何をしているのかと言いますと、安産祈願です。
この奇跡は安産になりやすい奇跡でして、時期を迎えた妊婦から大変重宝されるのです。
とはいえ、あくまで安産になりやすいだけであり、確実ではありません。
逆子になり難いぐらいの効果ですね。
胎の中で死んだ赤子を復活させる力はありませんし、結局は母体が健康でいるのが1番です。
「ありがとうございます。シスターさん」
「本当にありがとうございます」
「いえいえ、元気な子を産むのですよ」
妊婦と番の礼を受け取り、そのまますぐに次の患者が呼ばれます。
全ての患者を終えれば、次は馬の厩舎へと向かわねばなりません。
ええ、この奇跡はあらゆる生物に有効なのです。
更にはこの街で産声〈はんえい〉の祈りを届かせる事が出来るのは私だけ。
そもそも信徒と呼べる深い信仰心を持つのが私だけなのです。
完全に教えが生活に溶け込むのも良し悪しですね。
改めて強く信仰するという意識が住民には皆無なのです。
......愚痴になってしまいましたね。ともかく、人手が足りないが為に西へ東へと奔走しているわけです。
祈りそのものに体力は使わないのですが、とにかく時間が足りません。
「ありがとう。ウチの馬達はこれで全部だ」
「元気な子が産まれると良いですね」
「ああ、全くだ」
こういった事を街に来た当初から続けてきたおかげで、人脈と信用を得られているのがまだ救いです。
神への祈りそのものは全く苦にはなりませんが、水ブドウをゆっくりと食べられない忙しさだけはいただけませんね。
「今年もありがとうな、ティファレトさん」
「いえいえ」
「いつもお世話になってるのに、本人が必要としてないとはいえ何もしないってのは気が引けてな」
「それで、だ。なんでも、水ブドウが大好きらしいじゃねぇか?」
「はい、大好物です」
「良かった。そんな訳で水ブドウ農家のデデン爺さんに頼んで、一級品の水ブドウを沢山用意したんだ!良かったら持ってってくれ!」
「まぁ!」
馬飼いのラッツさんが荷車を引いてくると、そこの木箱に乗っているのは普段の水ブドウより更に一回りは大きな水ブドウ。
そんな水ブドウが木箱に山と積まれています。
「まぁまぁまぁ!」
「顔は変わんねぇが、声は弾んでいるな。礼はそれで良いかい?」
「充分過ぎるほどです。皆様と神に感謝を.....」
思わず私は跪き祈ります。
先ほどの愚痴は全て撤回しましょう。
私が皆さんの分まで祈れば良いのです。
これからも人の為、街の為、私の為に祈り続けましょう。
これほどの優しさに恵まれているのですから。




