汚泥より来たる
何処生まれ育とうとも、ソレは信仰と共に楽しく生きるのだろう。
街の外れにある、何の変哲も無い洞窟。
そこで、ソレは生まれた。
粘液質の体を這わせノロノロと動くソレは、茸に覆いかぶさり、溶かし、吸収していく。
栄養を摂るほどに大きくなり、小さな虫さえ捕食し始めたソレは、誰に咎められる事なく成長していった。
そうして時間をかけ、洞窟に潜む怪物となったそれは、ある日、洞窟の外に微かな違和感を覚えて外に出た。
眼球と触覚を形成して認識したのは、見た事も無い奇妙な生物。
虫とは違う柔らかな肌、他の動物と比べて毛が少なく頭部から長い毛が垂れ下がっている。
更には頭部が体に比べて大きく、2足というバランスの悪さで移動している。
土に塗れた繊維状の何かを身に着ける、その奇妙な生物は、ソレに気付いている様子は無い。
鋭い爪や牙は無く、強そうには見えない。
.......糧としよう。
ソレは後ろから2足生物に覆いかぶさった。
暫く2足生物は弱々しく暴れていたが、すぐに沈黙し、徐々に溶かされていく。
そうして、その生物の脳も吸収し始めた時、ソレに異常が生じた。
複雑かつ単調な電流が全身を駆け巡り、大量の情報が刻まれては消えていく。
やがてソレは、吸収した2足生物に酷似した何かへと形を変えていった。
「?.....?.....人間、国....なるほど」
確かな形が生まれ、自我が生まれ、知性が生まれたソレは、形成したばかりの脳からの頭痛を覚えながら自らを確認していく。
「楽しそうですね」
ソレは豊かな胸部に手を置き、計画を練り始めた。
目指すは......人間の国。