第6話「死神と後輩と地獄の前夜祭」
無職生活に突入した朔夜のもとに、引っ越してきたばかりの後輩・紗月が突如「遊園地に行きませんか?」と提案してくる。もちろん断る朔夜だったが、次に飛び出したのは「ケーキの食べ放題」の無料券という魅惑のワード。しかも、それを聞きつけたのは――甘い物に目がない死神・ルカ!
甘党死神×無職男×テンション高い後輩が織りなす、甘くて苦い一日が今、幕を開ける――。
7月30日 10時48分。
――はぁ、どうしてこうなったんだ。
――数時間前の話に、遡る。
「先輩、引っ越し祝いに何かしませんか? 例えば遊園地とか!」
「いや、なんでそうなる。てか、そもそも引っ越すなら連絡くれよ。」
「いやだって、先輩、連絡先教えてくれなかったじゃないですか。」
「……いや、それは……聞かれてないから……」
そう言いかけて、言葉を飲み込む。流石にそれはデリカシーがなさすぎる気がしてやめておいた。
「まあ、それは置いといてですね――」
「いや、置かないでくださいよ。とりあえず、あとで連絡先教えてください。」
「……わかったよ、連絡先は教える。でもさ、なんで祝うのが“遊園地”なんだよ。確かに祝うのはいいけど、俺は今、無職。ニートなんだぞ?」
……いや、そもそも引っ越し祝いって、そんなフットワーク軽いやつ他にいないだろ。それにそう、俺は今、仕事をしていない。ルカとの“借り”のせいで、バイトも全部辞めさせられてしまった。こんな状態で遊びに行く余裕なんて――
「まあ、すまん。そういうことだ。他の人も呼んで……って、いねーか。こんなボロアパートに住むやつなんて、そうそういないだろうし。とにかく、今日からまたよろしくな。」
そう言って話を切ろうとした――その時。
「待ってください、先輩! じゃあ……じゃあ、食べ放題はどうですか?実は私、無料券2枚持ってるんですよ!」
どうやらこの後輩、相当諦めが悪いらしい。
そんな話をしていたら、ルカが目を覚ました。後輩には見えないけど、たぶん“食べ放題”という言葉に釣られたんだろう。
「今の話、ほんとに? 食べ放題って……」
やっぱりな。俺の勘は当たる。
「時間内なら、食べ物がいくらでも食べられるんだ。ただし、品によっては食べられないやつもあるし、味は多少落ちる。まあ、コンビニ飯で満足してるお前なら美味しく感じるかもな。そんな感じだ。」
「先輩……そんなに詳しく解説するってことは、行きたいんですね? 食べ放題」
……あ、やべ。そういや、ルカの声って“聞こえない”んだった。見えないのは当然として、声も聞こえないこと忘れてた……俺バカかよ。
もうこうなったら、行くしかない。完全に俺が食いしん坊みたいになってるけど……まぁいいか。
「行くよ。とりあえず時間は何時からだ?」
「12時からです。あと、食べ放題はケーキです!」
……あ、終わった。絶対ルカが食いつくやつだ。あいつ、甘いもの特に好きそうだしな。
でも、今ここでルカに媚びておけば、働かせてくれる可能性もあるかもしれない。
「じゃあ、11時くらいにここを出るってことでいいか?」
「はい、そうしましょう!」
後輩とはそこで一旦別れた。
――はぁ、もう結果は見えてる。
「ルカ、お前、ケーキの食べ放題……たくさん食べたいんだろ?」
「うん、もちろん行くよ。行かないなんて言ったら、どうなってたか……まあ、知らない方がいいことって、世の中にはあるよね?」
「……いや、怖えーよ。」
とにかく、時間もない。さっさと着替えて、出発の準備をする。
11時。集合時間ちょうど。
「先輩、遅いですよ!」
「いや俺は時間通りだし。てか、早く出るなら教えとけよ。近いんだし。……ああ、それとこれ。連絡先、一応渡しとくな。」
「はいっ! 喜んで受け取ります!」
……ん? なんでそんなに喜んでんだ?まあいいや。
とにかく、ここから始まるのは――地獄だ。
ルカの目を見れば分かる。たぶん今、俺の中に取り憑いて、たくさん食べる気満々なんだろう。
「……分かってるよね、朔夜?」
「もちろん。」
俺は小声でそう答えた。ルカの声に返事をすると、後輩が小さく首を傾げた。……あ、今の聞こえてねーのか。完全に怪しい人だ、俺。
「先輩、こっちです。今日はいっぱい食べましょうね!」
「……ああ、そうだな。」店に着いた瞬間ルカが中に入った。急に甘いものが食べたくなった。ああ……舌の奥がチョコレートを求めてる……これ完全に俺じゃねぇ……!
7月30日 12時ちょうど。ここから始まるのは、大食いという名の――地獄だ。
俺の胃袋、生きて帰れるかな……心の中でそう呟きながら、店のドアをくぐった。
このあと、まさかあんな事件に巻き込まれるとは思ってなかった――なんて展開は、今はまだ知らない。
今回はルカと一緒に後輩も登場しました。リアルの方が忙しくて書くペースが落ちるかもしませんがよろしくお願いします。あと今期のアニメは面白いですね。なんなら毎年面白いですけど!