第2話:死神と始まる、奇妙な日常
第2話投稿です。ファミレスって何故かイタリアな印象があるんですよねー以上。
7月28日 午前9時28分。
数分前、トラックに轢かれかけた俺――榊原朔夜は、今、ファミレスのボックス席に座っている。しかも、隣には“死神かもしれない”少女・ルカが、何食わぬ顔でいる。
「で、何食べるの?」当然のようにルカが尋ねてくる。
「ちょっと待て。その前に、大事なことがある」
俺は珍しく真剣な声を出して、スマホを取り出した。
「まずは、情報交換だ」
「……する意味あるの?」
ルカは不思議そうに首をかしげた。
「あるに決まってるだろ。ルカは死神で、俺は死期が近い。お互いに知らなすぎるんだ。さっきみたいなこと、また起きたら洒落にならない」
俺の言葉に、ルカは「はぁ……」と少し不満げなため息を漏らした。
「さっきみたいなことはもう二度としたくない。……だから、これならどう?」
少し恥ずかしかったが、俺はまっすぐに言った。
「……わかったよ。めんどくさいけど」
ルカは小さく目を伏せた。ほんのわずかに、彼女の眉が揺れた気がした。
ルカはやれやれと肩をすくめ、渋々頷いた。
ちょっとムッとしたが、そこを突っ込むと長くなりそうなので話を戻す。
「じゃあ、まずは自己紹介から。俺の名前は――」
「知ってる情報はいらないよ。質問形式で答えてくれたほうが、必要なことが早くわかるから」
食い気味で否定されてしまった。ちょっと悲しい。
「……じゃあ、質問1。死神って、食事とかするのか?」
今ファミレスにいるわけだし、タイムリーな質問のつもりだった。
「食べなくても“存在”はできる。でも、食べることはできるよ。ちょっと……食べ方が独特だけどね」
最後の言葉が気になった。そのタイミングで、俺たちのハンバーグが運ばれてくる。
「これ、試してみてよ。食べ方、気になるし」
俺がルカにそう言うと、彼女は「あー……うん」と呟いて、なぜか俺の背中にぴったりと抱きついてきた。
「お、おい!? なんで食べるのに抱きつくんだよ。もしかして、俺のこと……」
動揺してる俺をよそに、ルカは冷静だった。
「何言ってんの。早く、食べて」
「……あ、あぁ」
とりあえず、言われた通りハンバーグを口に運ぶ。が――。
味が、しない。
舌の上に確かに存在しているのに、味も食感もまるでない。
なんだこれ……? と不思議に思っていると――
「……うまいな、これ」
俺の背中にくっついたまま、ルカが満足げに呟いた。
「まさか……。抱きついて、味を共有してるのか?」
「正解。触れていれば、“生きてる味”が、少しだけわかるの」
死神なのに、“生きてる味”を知っている――なんだかそれが、少しだけあたたかく感じた。
「まあ、情報があればこれくらいはできるよ」
自慢げに言った俺を横目に、ルカはまだハンバーグの余韻に浸っているようだった。
俺たちはハンバーグをつつきながら、死神についての基本情報を交換した。
・完全な姿は、死期の近い人間にしか見えない。
・姿や声は、力を込めれば幽霊のように感じさせることもできる。
・物に触れると、ポルターガイスト現象が起きることもある。
・そして、死ぬまで、その人間から離れることはできない――
……なるほど。なんだか監視装置みたいだな。
「じゃあ、こっちの質問は終わり。次、ルカの番な。なんか聞きたいことあるか?」
ルカは小さく頷いて、淡々と口を開いた。
「質問1、朔夜の職業は?質問2、誕生日はいつ?」
「なんか……面接みたいだな」
と内心ツッコミたくなったが、ちゃんと答える。
「フリーターだよ。一応、今はバイト生活。誕生日は……今日。7月28日」
その言葉に、ルカがぽつりと呟いた。
「じゃあ、今日だね」
「……あ」
ようやく思い出した。今日は、俺の誕生日だったんだ。
誰も祝ってくれないはずの日に――隣に誰かがいる。それだけで、十分すぎるほど、嬉しかった。
7月28日 午前10時39分。
命を拾った今日が、俺の“新しい誕生日”になる――そんな気がした。
曖昧な空の下、少しだけ“生きたい”と思えた気がした。
第3話は7月16日予定です。楽しみにしていてください。あとこの小説は毎週水曜日投稿予定です。