第八話・十三毒花でない新たな同志エリカ・ヤロウ
振り子ギロチン罠の通路を抜けたメリメたちの前に、武器を持った兵士たちが立ちはだかる。
二メートルほどの砕いた、円柱の一部を担いだメリメが兵士たちを見て、嬉しそうな笑いを浮かべる。
「オレと一戦交えるつもりか……おもしれぇじゃねぇか! 命の保証はできねぇぞ! 楽しみたいヤツだけかかってこい」
アラビアンナイトの踊り子衣装を着た、危険な快楽のゲッカコウが、メリメの前に進み出る。
「ここは、あたしに任せてくださいぃ……この為に、あたしは同行したのですからぁ」
ゲッカコウが肢体をくねらせて、兵士たちに向かって妖艶な踊りを披露する。
踊りながら兵士に向かって、ゲッカコウが言った。
「普段は高額な代金を支払わないと観るコトができない、ゲッカコウの魅惑の踊りですぅ……あなたたち、観れてラッキーですよぅ」
やがて、羽毛ウチワを振る、ゲッカコウの体から金粉のようなモノが兵士たちの方に流れる。
ゲッカコウが、兵士たちに言った。
「隣の者と殴り合いをしなさいぃぃ……憎しみ合って、殺し合いをしなさぁぃぃ」
突然、兵士たちが殴り合いから発展した、殺し合いをはじめて全滅した。
踊りをやめたゲッカコウが言った。
「これが、あたしの異能力ぅ……男女の仲や、身内や他人を仲違いさせて不仲にさせてぇ、争わせるダンス能力」
ゲッカコウの異能の踊りは、それまで仲が良かった者ですら。
不仲にさせて争う憎しみの関係に変える。友好を結んだ国同士でさえも、軋轢を生じさせて、戦争に発展させる魔性の踊りだった。
床に転がる兵士の死体を見て、ゲッカコウが言った。
「闇医者のストレリッチアなら、死んだ兵士の首にチップを埋め込んで、自我が無い屍人として一時的に生き返らせてくれるでしょうぅ……先へ行って、交渉をしてくださいぃ」
メリメとアルケミラとロベリアは、ゲッカコウを残して先へと進んだ。
最終部屋に歓楽街を牛耳っている、宮殿一族のメタボ体型男がいた。
メリメの姿を見たメタボ男が、壁に駆け寄り何か房紐のようなモノを引く前に、メリメは二メートルの円柱をメタボ男の方に投げつけて男の動きを止める。
メリメが言った。
「妙なコトするなよ……オレは交渉に来ただけだぜ」
メリメに代わって、ロベリアがメタボ男と交渉をはじめる。
「最初にオレたちに、歓楽街の権利を譲り渡してもらいたい」
「ふざけるな! この屋敷から出ていけって言うのか!」
「屋敷にはこのまま住んでいてもいいぜ……オレたちが必要なのは歓楽街の権利だ、あんた……歓楽街から吸い上げた金銭どのくらいの額を月に得ている?」
メタボ男が示した金額を聞いて、ロベリアが指の数で倍の金額を示す。
「オレたちに権利を譲ってくれたら、倍の金額をくれてやる……その代わり、あんたがボッたくっていた吸い上げ金額の半分をメリメ・クエルエルがもらって、残りの金額を歓楽街の各店に還元する」
メタボ男は目を丸くしてメリメを見て言った。
「それでは、おまえが損をするコトになるぞ」
「カッカッカッ……オレが受け取るのは、小遣い程度の金額でいい、残りの金額はすべて、不幸な子供や人々の施設に寄付して、役立ててもらうぜ」
「男女が性的な快楽で歓楽街に落とした金を流用して、親に捨てられた子供を育てるのか?」
「そういうのも、おもしれぇだろう……同性客の相手をする〝女娼宿〟通りや〝男娼宿〟通りを作って歓楽街を拡張すれば、あんたの方に入ってくる金額も増えるぜ……悪い話しじゃないだろう」
「確かに考えてみれば」
メタボ男はメリメ・クエルエルに歓楽街の権利を譲った。
確かにメリメが約束した通りに、今までの倍の金額がメタボ男の方に流れた。
しかし、宮殿の一族の方から横領の疑いがあると、尋問されて金庫からのメタボ男が数ヶ月に渡って得ていた金額と、同額の金銭が消えていたコトが発覚してメタボ男は投獄された数日後に……なぜか餓死して死んだ。
◆◆◆◆◆◆
胴体を寸断されたエリカ・ヤロウは、悪魔と契約した闇医者ストレリッチアの、早い段階の治療で一命を取り留めた。
美魔女小屋のベットの上で、上体を起こした傭兵剣士のエリカ・ヤロウが、恋するダテ男のストレリッチアに礼を言う。
「命を助けてくれて感謝する……十三毒花は、わたしの命の恩人だ……あッ」
急にエリカは顔を赤らめると、モジモジしはじめた。
エリカの要望している生理現象を察した、ストレリッチアが言った。
「トイレですか?」
うなづくエリカ。
ストレリッチアは、しばらくエリカの世話をさせるつもりで呼び寄せた十三毒花の一人、壁抜け異能力者の女怪盗【官能的なジャスミン】に、エリカと一緒にトイレに言ってくれるように頼んだ。
怪盗マスクで目元を隠した、ボディスーツのジャスミンは明るい声で返答する。
「オッケー……パンツ脱がせばいいんだね」
ベットの寝具の下から、エリカの下半身だけが外れて床に降りてトイレに向かって、ヨタヨタと歩いていく。
回転ノコギリで切断された面は、平らな金属でフタをされていた。
エリカの下半身は、テーブルにも使えた。
ジャスミンが、エリカの下半身の腰を押さえて、トイレに誘導する。
「はいはい、トイレはそっちじゃない……そっちは台所」
トイレに入って用を足している下半身に安堵の表情をしながら、エリカの上半身はストレリッチアに質問する。
「いったい、どんな仕組みなんだ? 普通に排泄感があるっていうのは?」
「悪魔契約の企業秘密です、今はジャスミンの手を借りて排泄していますが、慣れてくれば、足の指で下着の上げ下げができるようなりますよ」
「はぁ?」
メリメがシナモン紅茶を飲みながら、エリカに質問する。
「少し気になっているコトがあるぜぇ、エリカは本当に傭兵剣士か?」
「何を言っている……わたしは、殺し……じゃなかった誇り高い傭兵剣士だ」
「それなら、敵を倒す時の基本の行動を教えろ」
エリカは、ノコギリ刃の剣を引き抜いて説明する。
「敵を倒すなら月明かりが無い晩が望ましい……背後から標的に足音を忍ばせて近づいて、一気に頸動脈と気道をズバッと」
「やっぱり、殺し屋だ……靴の底に足音を消す工夫がされていたから、変だと思ったぜ」
「ち、ちがう! わたしは傭兵剣士だ!」
「じゃあ、他の方法の敵の倒し方も教えろよ」
「いいだろう、我が家系に代々伝わる……殺し……もとい、剣士の戦法だ」
エリカは、刀の鍔から細く長い鍼を引き抜く。
「この、鍼を持って足音を忍ばせて敵の背後から脳幹を鍼でブスッと」
確信を得たメリメが言った。
「おまえ、やっぱり殺し屋だろう」
「ちがぅぅぅ!」
少し怒ったエリカが、カエル紋章の肩当てを取り出してメリメの方に突き出した。
「ほれほれ、カエルだぞ! 参ったか!」
「ぎゃぁぁぁ!」




