第七話・男が歓楽街で落とした金銭の一部を福祉施設に回すぜぇ……ついでに女も楽しむ歓楽街に変えてやるぜ
美魔女の小屋で、シナモン紅茶を飲んでいたメリメは、ロベリアの言葉に思わず飲んでいた紅茶を口から吹き出した。
「ぶはぁ〝赤ちゃんポスト〟?」
落シナモン紅茶を飲んでいるロベリアが、落ち着いた口調で答える。
「そう、赤ちゃんポスト」
「生まれてきて、育てられない赤ん坊を入れるのか?」
「そう、さまざまな事情で赤ちゃんを入れるポスト」
「ポストに入れられた赤ん坊は、どうなるんだ?」
その質問には闇医者のストレリッチアが答える。
「たいがいは、施設で育てられますが……臓器ブロイラーが介入した場合は、新生児の売買が発生します……臓器移植目的で」
「酷すぎるぜぇ……そんなのやめさせねぇと!」
ストレリッチアが、シナモン紅茶を飲みながら言った。
「落ち着いてください、臓器ブロイラーの組織はすでに壊滅しています……ある一人の力で」
「壊滅させたのは、なんて名前の人物なんだ?」
「確か十三毒花とは無関係な、傭兵の女剣士で名前は【エリカ・ヤロウ】とか聞きました」
「ふ~ん」
アマラン・サスが、メリメに言った。
「これは、お母さんからの提案だけれど……次にブッ壊すのは、男性の性的な欲求部分も含まれる歓楽街にしない? 女衒街とか遊廓とか呼ばれている場所」
メリメが二度目の吹き出しをする。
「ぶはぁぁ⁉ な、な、な、な、遊廓?」
メリメの首に移植された、体の方の記憶が甦る。
メリメの頭の方は赤面しているが、体の方はそういった場所には、ちょくちょく養鶏場の鶏卵を遊女に届けていたので平気らしい。
どことなく戸惑っている、メリメにアルケミラが言った。
「そんなに、難しく考える必要はありませんよ……確かに歓楽街には、そう言った男性向けの奉仕をする店も多いですが、酒類を提供して接待する店もありますから」
赤面するメリメが、アルケミラに訊ねる。
「歓楽街を全部、ブッ潰して更地にするのか?」
「歓楽街は庶民にとって必要な場所です、適度なギャブルで憂さ晴らしをする場所も……それを完全に奪うコトは、後々新しい国での反感や不満に繋がります……適度に清濁併せ持つ世界がいいのです」
「そうか、よくわからねぇが……作戦は任せる、どこからやるんだ」
悪意のロベリアが言った。
「前々から男だけが性的に楽しむ歓楽街が不満なので、女が性的に楽しめる歓楽街も作ってやるぜぇ……で、歓楽街で男と女が落とした金銭の一部を、子供や貧しい人を助ける福祉施設にあてるぜぇ」
ロベリアが考えた、画期的な発想だった。
ストレリッチアが言った。
「それはいい考えです……赤ちゃんポストに預けられた子供を育てる資金に、男女の快楽で生じた金銭を利用するという発想は素晴らしい」
今ある歓楽街をブッ潰して、新たな発想の歓楽街を作る作戦の適任者は十三毒花の一人。
【危険な快楽のゲッカコウ】に決まった。
◆◆◆◆◆◆
メリメたちは、夜の歓楽街にある一軒の酒類提供店にやって来た。
その店は透明な分厚いアクリル板の壁で仕切られ、一方では酒類を提供して女性が男性相手の接客をする店。
もう一方が|男性が女性客に接待をする《ホストクラブ》店にわかれていた。
男性客を接待する店側のステージで踊る、踊り子の姿があった。
アラビアの踊り子のような衣装で妖艶なダンスを披露している踊り子は、着ている衣装を一枚づつ脱いでいき。
最後には黒いヒモビキニ姿になって踊りを終了した。
ヒモビキニ姿で口元を薄い布で隠した踊り子が、メリメたちの席へ来て座る。
危険な快楽の踊り子【ゲッカコウ】が、ノンアルコールの甘い飲み物を、メリメ・クエルエルのグラスに注ぎながら言った。
「はじめまして……十三毒花の一人【危険な快楽のゲッカコウ】ですぅ……以後お見知り置きをぉ」
「おう、よろしくな生首冷嬢姫のメリメ・クエルエルだぜぇ」
「お客さん、こういった店に来るのは初めてぇ?」
「おうっ、初体験だぜぇ」
「楽しんでいってくださいねぇ」
ゲッカコウが、作戦の話しに移る。
「で……この歓楽街を作り変えると、うふっ面白そうな計画ですねぇ、どうせなら男が男の相手をする〝男婦宿〟とか、女が女の相手をする〝女娼宿〟とかも増やしてくださいねぇ」
「考えておく……教えてほしいぜぇ、この歓楽街を牛耳っている宮殿一族のヤツはどこにいやがる」
「確か歓楽街から少し離れた小高い丘に、建てた屋敷に住んでいて、滅多に表には出てこないと思ったけれどぅ……少し厄介な用心棒が屋敷にいるのぅ」
「厄介な用心棒?」
「雇われ剣士の【エリカ・ヤロウ】彼女を突破できないと、歓楽街を牛耳っている一族の者のところには辿り着けないぃ」
「それは、難儀だぜ……カッカッカッ」
◇◇◇◇◇◇
歓楽街を見下ろす丘に建てられた、監獄宮殿一族の屋敷──屋敷の中で、歓楽街を牛耳っているメタボ体型の男が屋敷のある箇所に設置された、処刑振り子の動きを眺めていた。
天井から鎖で下がった巨大なイチョウ葉型の刃物が、数十枚速度を変化させて交互左右に揺れている。
人間の胴体を寸断する、巨大な振り子刃物の通路に入ったが最後……犠牲者は真っ二つになる。
メタボな一族の男が、振り子操作の技術者に言った。
「この部屋に、メリメ・クエルエルが入ったらギロチン振り子を動かせ……生意気な小娘を真っ二つしろ」
「用心棒の傭兵剣士はどうしますか? 何も知らずに通路に入ると思いますが?」
「構わん、メリメ・クエルエルと一緒に寸断しろ……所詮、金で雇われる風見鶏だ」
◇◇◇◇◇◇
生首冷嬢姫メリメ・クエルエル。
錬金のアルケミラ。
悪意のロベリア。
危険な快楽のゲッカコウ。
恋するダテ男ストレリッチア。
そして、念の為に呼び寄せた。
風変わりなヘリコニアの六人で屋敷に向かった。
屋敷の柵門は開いていて、メリメたちを誘っているように見えた。
ロベリアが言った。
「これは、罠だな……行くかメリメ」
「カッカッカッ……おもしれぇじゃねぇか、一度は断頭された身だ、屋敷に入ってやるぜ」
入った屋敷を進むと、広い通路に出た。
天井と両側の壁を見て、アルケミラが言った。
「この場所、罠が仕掛けられていますね……ギロチン振り子が」
「カッカッカッ……おや? 前方から誰か歩いてきたぜ」
前方からヘソ出しの衣服を着た、女剣士が歩いてきた。
メリメ・クエルエルの前方で立ち止まった女剣士の、片方の肩には短いマント〝ぺリース〟が付けられている。
空色の髪と空色の衣服を着ていて、金属の肩当てや足甲が装着された、女剣士に向かってメリメが言った。
「傭兵剣士の【エリカ・ヤロウ】か?」
「そうだ、あんたらに恨みはないが……死んでもらいます」
エリカ・ヤロウが腰の鞘から剣を引き抜き、姿勢を低く構える。
構えた剣の刃は、ギザギザのノコギリ刃剣だった。
エリカの金属肩当てに浮かぶ紋章を凝視していたメリメが、突然その場に尻もちをついて震えはじめた。
怯えた声でメリメ・クエルエルが言った。
「カ、カエルの紋章……いやぁぁぁぁぁぁ!」
実はメリメ・クエルエルの首は、監獄宮殿に居た時に中庭で大きなカエルが顔に張りついたトラウマから、カエル恐怖症になっていた。
エリカが抜いたノコギリ刃の剣を鞘にもどして言った。
「肩当てのカエル紋章は、我が家系の紋章だが……なんだ、カエルが怖いのか、カエルを怖がっている者を斬るワケにはいかないな」
その時、メリメたちが入って来た通路の大金属扉が勢いよく閉じて、鍵がかかる音がした。
同時に、通路の左右から振り子のギロチン刃が襲いかかる。
メリメの体をアルケミラが後方に引いて、イチョウ葉型のギロチンが間一髪で通過する。
しかし、ユリカの方は最初のギロチン刃を避けた拍子に後方に転倒して、床からの突出した回転ノコギリの刃で胴体を寸断された。
「がはっ!」
分かれて転がる上半身と下半身。
振り戻ってきたギロチンが、さらにユリカの体を切り刻む前に飛び出した、ヘリコニアのロブスターハサミが左右のギロチン刃を止めて。
ヘリコニアの重甲冑の腹のフタが開いていて、中から飛び出してきた古い看護服を着た幼女が、エリカの寸断された腹部の応急処置をすると……甲冑の中にもどってフタがしまった。
アルケミラが腰が抜けて震えているメリメに言った。
「ヘリコニアの中の人が、カエルの紋章を包帯で隠してくれました……今こそメリメ・クエルエルの異常筋力を発揮する時です」
立ち上がったメリメは、通路両側の円柱を次々と引き抜くと、振り子ギロチンの動きを止める。
「うおぉぉぉ! メリメ・クエルエルさまをナメるなぁぁぁ!」
ギロチン振り子を粉砕した通路を、ユリカの治療をしているストレリッチアと、念の為に止まったギロチンを押さえている、ヘリコニアを残してメリメたちは通路先へと進んだ。




