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第五話・生首冷嬢姫メリメ・クエルエル大復活!

〔令嬢姫メリメ・クエルエルが断首処刑された数日後──〕


 月が出ていない夜──監獄宮殿の壁を上から、ロープで伝わり降りてくる人陰があった。

 腰にカンテラの明かりを付けて。

 スコップを背負って小石だらけの、磯浜に降り立った人物はカンテラで周辺を照らす。


 監獄宮殿の高い塀(へい)の下部には、満潮になった時に付着した貝やフジツボがビッシリと覆っていた。

「さてと、潮が満ちる前に急いで掘り出せねぇといけねぇな」

 目的の小さい金属板の十字架を発見した。

 悪意のロベリアは、カンテラを磯浜に置くと、十字架の下をスコップで掘りはじめた。

 すぐにカチッと金属がぶつかる音が聞こえ、ロベリアは掘り出した小さな宝箱のような木箱を海水が溜まる穴の中から、取りだして錠前を石やスコップを使って叩き壊して……フタを開けた。

 箱の中には、麻の布に包まれたモノが入っていた。

 ロベリアは慎重に麻布をめくる。

 血がにじむ布の中から、両目を閉じてメガネをした、メリメ・クエルエルの切断された生首が出てきた。


 ロベリアはメリメの口元の血をハンカチで拭うと、親しみを込めた口調でメリメの生首に語りかけた。

「迎えに来たぜ……さぁ、生き返ろうな」


 生首が入った箱のフタを閉じたロベリアは、掘った穴を元通りにして。

 傾いた金属版の十字架を直す。

 足元に少し海水が満ちてきた、ロベリアは降りてきたロープを引っ張る。

 鋭い刃物で切断されたロープが落ちてきた。

 塀の上で何者かに切断されたロープを、巻き取ってロベリアが呟く。

「監獄宮殿に残る選択をしたか粘着のシレネ、後は任せな──おまえだったら、いつでも監獄の宮殿から脱出できる」


 監獄宮殿で、洗脳の魔王英才教育が進むと、メリメ・クエルエルは奇妙な言動を口走るようになった。

 それは、メリメ・クエルエルの存在を煩わしく思い、年齢到達までにメリメの処刑を企んでいた一族の者たちには好都合の成り行きだった。

 異端者の烙印をメリメの体に焼きゴテで押して、悪しきものと通じている娘として、異端者裁判で処刑宣告するには十分だった。


 メリメが中庭でアマラン・サスの使い魔カラスに話しかけている現場も、凶鳥を宮殿に招いている異端者の証拠となった。


 さらには、メリメの体に押しつけた焼き印が、メリメの体のどこも焼けなかったコトも一族の者たちを恐怖させた。

「メリメ・クエルエルは、邪悪なモノに魅入られた焼き印が押せないのが、その証拠! 首を()ねて処刑しろ!」


 こうして、メリメ・クエルエルは断頭されて処刑され……首は見せしめで、満潮になると海中に沈む磯浜に埋められた。

「メリメの体に焼き印が押せなかったのは、あらかじめ黒ユリ森の美魔女が、虐待からメリメを守るために宮殿に入り込んだ十三毒花に、焼きゴテの熱が伝わらない塗り薬を渡していたからだ……そんな簡単なコトにも気づかねぇのかよ」


 ロベリアがカンテラの明かりを海に向かって振ると、少し離れた場所から応えるように動く明かりがあった。

 メリメの首が入った箱を抱えたロベリアは、明かりの方へ波を足で掻き分けて進んだ。


  ◆◆◆◆◆◆


 メリメ・クエルエルの生首が入った箱は、アマラン・サスに手渡された。

 アマラン・サスは悪魔と契約した闇医者──恋するダテ男のストレリッチアのところに持っていった。

 奇怪な生物の骨格標本があって消毒液が噴霧されている、手術室でメリメの生首を受け取った手術着姿のストレリッチアは。

 海水を少し浴びた令嬢姫の生首を洗浄すると処理室に運んだ。


 処理室のベットの上には、首が無い少女の死体が腰の辺りをタオルで隠された状態で、仰向けで横たわっていた。

 奇怪なコトに、切断面に大小数本のチューブが繋がれた首が無い少女の体は、呼吸をしているように胸が上下していた。

 生きている首無し少女の体の、頭近くにメガネを外したメリメ・クエルエルの首を、金属トレイに乗せて置いたストレリッチアが言った。


「間に合って良かった……アルケミラから聞いていた、身長サイズが同じ少女の死体が入手できたのは幸運だった」

 ストレリッチアは首が無し体と首周りと、メリメの首周りを計る。

「おおっ、やはり同じサイズの首回りだ……これなら、蘇生も容易だサイズ調整をしないで済む」

 アマラン・サスがストレリッチアに質問をする。

「その体の持ち主は、どんな素性の持ち主」


「一般庶民の養鶏場の娘です……ニワトリ小屋に入って、ニワトリに襲われて慌てて小屋から飛び出した拍子に、つまずいて転んだ先に地面に埋もれていた、豆腐の用な白い石の角に頭をぶつけて脳挫傷(のうざしょう)で死亡しました」


 亡くなった少女の体はほぼ無傷だったので、埋葬する土地がなかくて困っていた少女の身内から、研究用の名目で金銭を出して譲り受けた死体だった。

「金を受け取った少女の身内も『教会で埋葬する場所を買い取ると高額だから助かった』と喜んでいました……ギブアンドテイクです」


 メリメ・クエルエルの首と生きている少女の体をチューブで繋ぐ作業をしながらストレリッチアが、アマラン・サスに言った。


「献体少女の体を調べていて、一つ新たな発見がありました」

「どんな? 発見」

「生前は覚醒していなかったので、本人も気づいていなかったようですが、この体は〝異常筋力〟の持ち主です」

「異常筋力?」

「細身の体でありながら、常人の数倍の力が出せる特異筋肉体質です……わたしも、首を切断してみて初めて知りました話では聞いていましたが……せっかくなので、特異筋力を覚醒させて令嬢の首と縫合させます」


 魔王の仮面をかぶった美魔女が言った。

「もう令嬢ではありません……庶民の体と合体した令嬢は、心は貴族とは別物……そう、メリメ・クエルエルは【生首冷嬢姫】に生まれ変わるのです」

「生首冷嬢姫……ですか、それも面白いですね」


 ストレリッチアが、体と首をチューブで繋いでコックをひねると、体の方から青い液体が首の方に流れ。

 メリメの死に顔に赤みがもどった。

 メリメが呼吸をするたびに胸の上下も、連動するように動く。

「成功です……拒絶反応もなく、体と首が互いの肉体を受け入れたようです……この状態のまま数日間、微弱な電流を流して細胞を活性化させます」

 アマラン・サスは、悪魔と契約を結んだストレリッチアにすべてを任せて部屋を出た。


  ◆◆◆◆◆◆

 

 数日後──ストレリッチアから、メリメ・クエルエルの生首の縫合が完了して、術後の経過も良く。

 完全蘇生させるので立ち会ってもらいたいと、連絡を受けた美魔女はストレリッチアの元に向かった。


 病室のベットの上にはメガネをかけて着衣した、生首冷嬢姫メリメ・クエルエルが、寝息を立てて横たわっていた。

 縫合された首には革のベルトが巻かれ、縫合された痕が隠されていた。

 アマラン・サスは、眠っているメリメ・クエルエルの頭に奇妙なモノを見た。

 人間の耳とは別に、狼のケモノ耳が、頭に移植されていた。

 時々、ピクッピクッと耳が動いているところを見ると、神経が繋がているらしい。


 アマラン・サスが闇医者に質問する。

「この、ケモノの耳はなんですか?」

「可愛いでしょう……わたしの趣味です、尾てい骨の先には、こんなのも移植してみました」

 白い寝具をめくると、スカートの下から房尾の先端が出ていて、少し動いていた。


 アマラン・サスが少し考えてから言った。

「狼の耳と尻尾があるメガネ女子魔王というのも……面白いでしょう認めます」

「それでは、生首冷嬢姫を目覚めさせます」

 ストレリッチアがメリメの腕に注射針を刺して目覚めさせる。

 両目を開けたメリメは、目を動かして周囲を見てから、魔王仮面の美魔女に笑みで言った。

「おはよう、お母さん」

「おはよう、メリメ……あたしを母と呼んでくれるのね」

 メリメの口調が、合体した庶民少女の体の影響で男言葉になる。

「当たり前だぜぇ、オレは魔王になるために生まれ変わったぜ……カッカッカッ」


 ベットで上体を起こしたメリメは、移植されたケモノ耳と尻尾を触る。

「オレの体……ケダモノの耳と尻尾がついているのか……おもしれじゃねぇか……カッカッカッ」


 ベットから床に素足で降りたメリメに、アマラン・サスは室内スリッパを履かせて訊ねた。

「それで、復活した最初になにをやりたいの……お母さん、協力するわよ」

「そうだなぁ、とりあえず」


 メリメが天井を指差して言った。

「オレを断首した、監獄宮殿の連中に復活の挨拶してきてやるぜ、監獄宮殿のステンドガラスの窓を人間大砲で突き破って、宮殿から飛び出してやるぜ……カッカッカッ」


 こうして、アマラン・サスとメリメ・クエルエルの二人三脚の、腐った国をブッ壊す最初の一歩がはじまった。

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