第三十九話・宇宙からの侵略者? それともお客さん?
「カカカッ……やっぱり、海はいいよなぁ……みんなで海水浴だよなぁ」
砂浜のパラソルの下、メガネ令嬢で水着姿のメリメ・クエルエルは腰に手を当てて哄笑した。
今日は十三毒花たちと一緒にメルメは、白い砂浜でエメラルドグリーン色の海に来ていた。
パラソル下のシートに水着姿で寝そべった、悪意のロベリアが言った。
「この海岸に来ているのは、オレたちだけじゃないようだぜ」
ロベリアの視線の先には。
ウマズラヌリカベ。
トリガラガイコツ。
ノブタメタボの三人が奇妙な衣装で奇妙な踊りをしていた。
「なにやっているんだ? あの三人」
「さぁ?」
メリメに近づいてきた、恋するダテ男ストレリッチアが、メリメの首輪のダイヤルを回して肌色を調整する。
「もっと夏にふさわしい、ココア色の褐色肌に変えましょうねぇ」
メリメの肌が日焼けした肌色に変わる。
メリメはストレリッチアの玩具だった。
美魔女・アマラン・サスは離れた場所で、ビーチチェアに座って魔法書を読んでいる。
夜の星イブニングスターは、涼しい林の木にハンモックを吊るして寝ていた。
悩ましく腰を振る危険な快楽のゲッカコウと錬金のアルケミラが、海鮮浜バーベキューの準備を進めている。
他の面々もスイカ割りを楽しんでいる、王者の風格プロテアと人間嫌いのアザミ。
ビーチバレーを楽しむ粘着のシレネや、毒花のワスレナ、女傭兵剣士のエリカ・ヤロウや、嫉妬のマリー・ゴールド。
風変わりなヘリコニアが海上を引っ張る、バナナボートを楽しんだり。
他の者たちも思い思いに海を満喫している。
◇◇◇◇◇◇
遊泳してきて、ノブタメタボたちが気になった官能的なジャスミンが。
「あいつら、なにをやっているのか聞いてくる」
そう言うと、砂の中を移動して、踊っているノブタメタボのところに、肩から上だけを出してジャスミンが訊ねた。
「ねえ、ねえ、何やっているの?」
輪になって踊りながら、ウマズラヌリカベやトリガラガイコツが答える。
「うるさいですわね……あっちに行ってくださいません」
「オレたちは邪悪な存在を天から呼び寄せているんだ……邪悪な存在が現れたら、もうメリメ・クエルエルは終わりだ」
「…………バラしてどうするトリガラ」
「ふ~ん、教えてくれてありがとう」
砂の下を通ってメリメ・クエルエルのところに戻ったジャスミンが、邪悪な存在について告げた。
ジャスミンの報告を聞いたメリメが高らかに笑う。
「カッカッカッ……邪悪な存在だろうと、なんだろうと来るならこい!」
メリメがそう言った次の瞬間──いきなり空に、マスクメロンのような網目が表面にある、ラグビーボールの形をした宇宙船がイナズマと共に瞬間移動してきた。
宇宙船を指差して叫ぶノブタメタボ。
「我らの祈りが天に届いた、邪悪な稲妻に焼かれて滅びろ! メリメ・クエルエル!」
宇宙船を見上げる十三毒花……異世界楽器を持った、わがままな美人デンドロビウムが呟く。
「なんか、あの宇宙船……おかしくねぇ?」
見ていると、宇宙船はフラフラと揺れながら下降してきて、そのまま砂浜に墜落した。
一同が見守る中、宇宙船の扉が開いてマスクメロンに手足が付いたような小さな生物が浜に転がり出てきた。
楕円の縦点目で、悪意は感じられない生き物だった。
マスクメロン生物が、聞いたことのない言葉を発する。
水着姿でビーチボールを持った毒花のワスレナが、小さい生物を見て言った。
「もしかして、怯えていませんか……あの生き物?」
美魔女アマラン・サスが、開いた魔導書のページと未知の生物を見比べて言った。
「あら、珍しい……メロメロじゃない……ユウバリ星の」
「カッカッカッ……お母さん知っているの?」
「魔導書にその昔、幸福の使者として現れたコトがあるって書いてある……見た者は幸せになれるって……ちょっと待って、メロメロと会話できるようにするから」
アマラン・サスが呪文を唱えると、メロメロが愛らしい女の子の声で喋りはじめた。
「いじめないでください……たまたま、この星の近くを通ったら、邪悪な思考に捕まって宇宙船が制御不能になって墜落しただけなんですから……いじめないでください」
メロメロの話しだと宇宙船は星のエネルギーを吸収すれは、すぐに飛び立てるらしい。
アマラン・サスが優しい言葉で、少し怯えている未知の旅人に質問する。
「どのくらいの時間、星のエネルギーを吸収すればいいの?」
「この星の時間に換算して、明日の朝まで」
「じゃあ、エネルギーが溜まるまで……あたしたちと、一緒に浜の夜を楽しみましょう」
コソコソと逃げようとしていた、三馬鹿たちを、黄金の大陽ヘリクリサムと、魅力ある金持ちラナンキュラスが捕まえる。
ヘリクリサムが詠む。
「『この浜は、争いごとは、無しにして、恨み忘れて、笑って食べる』……今日だけは楽しくやろう」
うなずいた、ラナンキュラスが札束マジックで場を和ませた。
◆◆◆◆◆◆
迫る夕刻の中──キャンプファイヤーや、バーベキューで浜にいる者たちは宇宙人のメロメロも含めて、有意義な一夜を過ごした。
「アタイのフォークな音楽を聴いて楽しい気分になれ」
デンドロビウムの演奏に合わせて、ゲッカコウが癒やしのダンスを踊った。
朝日が水平線を昇り、星のエネルギーを吸収して銀色に輝きはじめた宇宙船に乗り込むメロメロが、メリメ・クエルエルと十三毒花に向かって一礼して言った。
「優しくしていただいた、みなさまのコトは忘れません……いい思い出になりました……それでは、旅を続けます……また、いつの日かお会いできるコトをメロ」
そう言い残して、マスクメロン模様がある宇宙船は、朝日に向かって飛び去っていった。




