第三十八話・過去の地中戦艦兵器を……ぶっ壊す!
「古代の甲鉄戦艦? そんなモノが、この国のどこに? カッカッカッ」
奪った監獄宮殿で、シナモン紅茶を飲んでいる生首冷嬢姫メリメ・クエルエルが、オオカミの耳と尻尾を動かしながら。
確認する口調で、悪意のロベリアに、メガネ令嬢の顔で聞き返した。
ロベリアは焼き菓子を食べながら、テーブルの上に広げた地図の一部を木の棒で示す。
「監獄宮殿……今は自由宮殿から、ずっと南下した……この岬にある海岸の閉鎖された洞窟の奥に……緑青が浮かんで姿で放置されているぜ……シレネが探ってきてくれた」
シナモン紅茶を一口飲んで、アルケミラが言った。
「その噂は、わたしも聞いた覚えがあります……なんでも、監獄宮殿の一部の連中が将来の戦争に供えて、密かに建造していた地中を掘り進む兵器だとか……結局、戦争は起きなくて完成したまま放置されたと……実在していたのですね」
メリメが言った。
「それが、なんで今ごろ?」
ロベリアが答える。
「監獄宮殿が陥落した時に、逃げ出したバカどもがメリメ・クエルエルを、ぶっ潰すために起動するように北から技師を呼んで調整しているらしいぜ……この半壊した宮殿ごとオレたちをぶっ潰すつもりだぜ」
そう言って、空が丸見えになった天井をロベリアは見た。
笑みを浮かべたロベリアが、メリメに確認する。
「どうする? このまま放っておく手はねぇよな」
「カッカッカッ……決まっているじゃねぇか、ケンカ上等! やられる前にブッ壊す!」
「決まりだな……十三毒花集合で乗り込むぜ」
◆◆◆◆◆◆
南の岬にある閉鎖された洞窟の奥を、明かりが照らし、明かりの中に巨大な地中兵器が浮かび上がっていた。
最前の部分がモグラを模した金属の掘削部分、その後方にミミズかムカデを模した連結部分が続く。
甲鉄戦艦を眺める、監獄宮殿から逃げてきた。
ウマズラヌリカベ。
トリガラガイコツ。
ノブタメタボの三人がいた。
パラパラ漫画に挟まれて、少し薄くなったウマズラヌリカベが人参をかじりながら言った。
「この兵器を使って、憎らしい小娘のメリメ・クエルエルを、今度こそ始末できる」
岸壁に掘られた、自分の裸体立像を毎日見せられて、さらに痩せ細ったトリガラガイコツが、骨がこすれるような声で言った。
「うらめしや……メリメ・クエルエル……策略で大事な仲間との信頼を、ブッ壊しやがって」
晩餐会で変な料理を食べさせられてから下痢気味体質に、なってしまったノブタメタボが、脂が滴る骨付き肉をかじる。
「危うくトリガラとの関係を誤解したまま、疎遠が続くところだった……絶対に許さんぞ、メリメ・クエルエルと十三毒花……あっ、また下痢が」
ノブタメタボが、仮設トイレに駆け込むのを、北から呼び寄せられた技師たちが横目で眺める。
技師のリーダー格の初老男性が、自作したネジ巻き腕時計の文字盤を確認して若い技師たちに静かに、その場から離れるように合図を送った。
初老技師が呟く。
「そろそろ、洞窟の外は夕刻か……来るころだな」
トイレから戻ってきたノブタメタボが、腰に手を当てて、甲鉄戦艦を見上げて言った。
「メリメ・クエルエル! 覚悟しろ! この甲鉄地中戦艦があれば、半壊した監獄宮殿ごと瓦礫の下に埋めてやる」
トリガラガイコツが調子に乗って言った。
「来るなら来てみろ! メリメ・クエルエル!」
その時──閉鎖されていた洞窟の入り口に爆発が起こり、洞窟内にプロペラを回転させたヘリコニアが飛び込んで来て旋回して洞窟から出て行った。
ポカンとしている三バカの耳に、メリメ・クエルエルの笑い声が聞こえてきた。
「カッカッカッ……来るなら来いと、洞窟の中から聞こえたから来てやったぞ」
「メ、メリメ・クエルエル⁉ ひっ!」
腰砕けになるウマズラヌリカベ。
動揺して軟便を少し漏らすノブタメタボ。
「どうしてここに? なぜ計画がバレた?」
初老技師が、シレネとハイタッチをして言った。
「悪いな、十三毒花の粘着のシレネとは、昔からの知り合いでな機械技師のプライドから、こんな兵器は動かしちゃいけねぇ」
トリガラガイコツが、紙幣の束を見せて言った。
「金なら倍払う……だから、兵器を動かしてメリメ・クエルエルを生き埋めに」
初老の技師はタメ息を漏らす。
「わかっちゃいねぇな……金銭の問題じゃねえんだよ……オレたち機械技師の魂の問題だ……それに報酬なら、彼があんたたちより多く出してくれる」
初老の機械技師に近づいた、魅力ある金持ちラナンキュラスが手から出した。
監獄宮殿の隠し金庫に保管されていた、ぶ厚い札束を初老機械技師に手渡す。
怒りに顔を真っ赤にしたノブタメタボが、兵士たちに命令する。
「生きてこの洞窟から出すな!」
近くにあった鍾乳の石柱を、へし折って脇に抱えたメリメが言った。
「生きてこの洞窟から出すなってのは……自分たちに向けて言ったのか……カッカッカッ」
はじまる、十三毒花プラスと、監獄宮殿残党兵士との闘い。
催眠と洗脳能力を持った、十三毒花のリーダー【錬金のアルケミラ】
策略家で十三毒花の作戦参謀【悪意のロベリア】
片目と片耳が現世界を見聞きしていて、グリーン・ベレー並の特殊戦闘能力を持ち、さらに手から粘液を飛ばせる【粘着のシレネ】
夜にしか活動はできないが、高速で疾走して衝撃波を発生させて竜巻を起こす【夜の星イブニングスター】
不仲のベリーダンスを踊る【危険な快楽のゲッカコウ】
大剣を背負った異世界のライオン覆面のプロレスラー【王者の風格プロテア】
ロボットか機械人形のような【風変わりなヘリコニア】
壁や大地や人体を抜ける異能力を持つ怪盗【官能的なジャスミン】
異世界楽器を掻き鳴らす熱いロック女【わがままな美人デンドロビウム】
踊りの倭刀剣技【人間嫌いのアザミ】
悪魔と契約した闇医師【恋するダテ男ストレリッチア】
金塊や紙幣を引き寄せるギャンブラーマジシャン【魅力ある金持ちラナンキュラス】
短歌を嗜み、傷つけられると分列する【黄金の大陽ヘリクリサム】
目から体内で配合した毒の血を噴き出すストレッチアに魔改造された少女、毒花の【ワスレナ】
上半身と下半身が分離した【女傭兵剣士のエリカ・ヤロウ】
完全にメリメ・クエルエルの仲間になった【嫉妬のマリー・ゴールド】
最初に闇医師のストレッチアが兵士たちに向かって言った。
「バラバラにされても心配するな……わたしが縫合して生き返らせてやるから、心おきなく闘え」
疾走するイブニングスターの衝撃波が、兵士たちを吹っ飛ばし。
ゲッカコウの不仲のダンスを見た兵士たちが、仲間割れを起こして仲間の兵士を殴る。
即席のどこでもリングを出したプロテアが、兵士数名をリングに沈め。
地中を移動するジャスミンが、兵士たちを翻弄して。
「アタイのリズムで熱くなれ! 弾けろ!」
デンドロビウムのロックなリズムが、沸騰した兵士たちの血液を噴出させ。
「剣技……社交ダンス剣」
アザミの剣技、社交ダンス剣が、自分を含めて兵士たちに社交ダンスをさせる。
「『義理もなし、そんな監獄、従うな、もっと自分を、大切にしろ』」
ヘリクリサムが短歌を詠み。
ワスレナの毒血に、両目を押さえた兵士たちが「目がぁ、目がぁ!」と洞窟内を転がり。
エリカ・ヤロウのノコギリ刃剣。
女マリー・ゴールドのレイピア剣が兵士たちに炸裂する。
仲間を見捨てて逃げ出そうとしていた、ノブタメタボと。
そのノブタメタボに逃さないようにしがみついた、トリガラガイコツが口論しているのがメリメに見えた。
「てめぇ、自分だけ逃げるつもりか! 卑怯者」
「放せ、洞窟に仕掛けた爆弾が爆発するまで時間がない」
「爆弾? そんなモノを勝手に仕掛けて……おまえとは絶交だ!」
「望むところだ、二度とおまえのガイコツ顔は見たくない! 漏れる」
メリメ・クエルエルは、二人同時に鍾乳石で洞窟の外に叩き出すと、腰が砕けているウマズラヌリカベを片手でヒョイと持ち上げると。
「白塗りのおばさんも外に出ろ──この洞窟はもうすぐ崩れる」
リーダー格のアルケミラとロベリアが十三毒花に向かって言った。
「十三毒花、兵士たちを誘導して全員洞窟から退避」
「傷ついて動けねぇ兵士も、仕方ねぇから洞窟の外に、みんなで協力して避難させてやるぜ」
ヘルコニアが、緊急ヘリコプター仕様で、兵士たちを網で外に大量運搬する。
メリメはウマズラヌリカベを、怪力で洞窟の外に放り出す。
十三毒花と監獄兵士たちが避難をはじめると、洞窟内の爆弾が連瀑をはじめ。
十三毒花と兵士たちか逃げる中、洞窟の天井が崩れる一度も使用されなかった軍用兵器が、落ちてきた天井の岩で埋まっていく。
一度、立ち止まって振り返ったメリメは、甲鉄戦艦のモグラを模した丸い目から、洞窟のしずくが垂れ。
まるでそれは、兵器として利用されなかったコトへの、喜びの涙のようにもメリメには見えた。
持っていた、鍾乳石を投げ捨ててメリメが言った。
「永遠に眠りな……次に生まれてくる時は、兵器じゃなくて、人間の役に立つ乗り物に生まれ変わってきな」
メリメ・クエルエルが洞窟の入り口から脱出するのと、洞窟が崩壊するのは、ほぼ同時だった。
夜空の星座を見上げながら、腰に手を当てたメリメ・クエルエルが、いつもの高笑い笑いをしながら、メガネ令嬢の顔で言った。
「カッカッカッ……ブッ壊し完了……カッカッカッ」




