第三十七話・監獄宮殿に……いよいよ陥落進軍開始だぜ!
大干潮が起こる前の小干潮が起きている夜──少しだけ空が明るくなりはじめた頃……夜の星イブニングスターが起こした竜巻が、プレ襲撃で監獄宮殿を襲い主門を破壊した。
「ボクの仕事はこれで終わり……後はみんな任せたよ」
そして、大干潮が起こり監獄宮殿が建てられている沿岸の潮が引いて、海底があらわになる。
監獄宮殿が無防備になる、三日間の陥落大進撃のはじまりだった。
◇◇◇◇◇◇
隣国の女王国……カラン・コエ女王の八万のシノビ軍は、すでに国家を越えてイキシア国を進行していた──目指すは監獄宮殿一点のみ。
朝の街道を進む、女王の軍隊は街道沿いに群衆から拍手と、女王国の旗を振って迎えられた。
「監獄宮殿をブッ壊しちゃってください!」
「がんばってください!」
食べ物や飲み物を差し入れされながら、大歓迎されて進行するカラン・コエ女王の軍は大歓迎を受けていた。
芦毛馬の馬上からカラン・コエ女王が、にこやかに群衆に手を振る。
「まさか、これほどまでウチのシノビ軍が迎えらるとは意外でした……ねぇ、マリー」
女王と並んで進む馬車の中には、胸に金色のウロコブラジャーをしたマリー・ゴールドが、自分の胸と股間を触って性別確認を続けていた。
「ウチの胸は膨らんでいる……股間の男のモノは消えている……間違いなくウチの体は女だ──誤解するなよなお袋、今回だけだからなメリメ・クエルエルの監獄宮殿ブッ壊しに協力するのは」
監獄宮殿で育ったマリー・ゴールドには、今も友だちの兵士が数人残っている……育ての親の愛人ママは、ずいぶん前にさっさと、監獄宮殿から逃げ出して、別の場所で男を作って悠々と暮らしている。
胸を強く揉みながらマリーが言った。
「ウチが監獄宮殿に行くのは、親友の男性兵士を逃がすためだ……気が弱い色男だから、宮殿のどこかに隠れていると思うから」
街道を進むたびに、監獄宮殿の一族を良く思わない者たちが進軍に加わっていく。
技巧の里の職人たち、森の猿人、その他メリメ・クエルエルに助けられた者たちが、立ち上がった。
進行していく八万を越える軍勢を、街道沿いの丘の上から十三毒花と一緒に眺めている、メリメの心は爽快だった。
「カッカッカッ……ついにはじまったな、オレたちが先陣を切って監獄宮殿になだれ込むぜ! 行くぜみんな!」
監獄宮殿に突入するメリメ・クエルエルと十三毒花たち、プラスその他二名。
槍や弓矢や砲撃の攻撃を粉砕して進む十三毒花。
「行くぜ、行くぜ! すでにオレたちはクライマックスだぜ!」
宮殿内に入った十三毒花が暴れ回る。
粘着のシレネが、手から粘着の糸を飛ばして壁や天井を利用して、兵士たちを戦闘ナイフで倒す。
危険な快楽のゲッカコウが、不仲のべリーダンスで兵士たちに殴り合いをさせる。
王者の風格プロテアが、どこでもリングを出して異世界プロレス技が、兵士たちに炸裂する。
「プロテア流アックスラリアート! うおぉぉぉ」
さらに、背中に背負っている大剣をプロテアは振り回す。
風変わりなヘリコニアが、プロペラ飛行で空中から攻撃する。
時々、着陸したヘリコニアの中から出てきた幼女が傷ついて動けない兵士にお菓子を渡して、ヘリコニアの中に戻ったりしている。
官能的なジャスミンが、壁や人体をスリ抜けて兵士たちを翻弄する。
わがままな美人デンドロビウムが、異世界楽器を掻き鳴らす。
「熱くブッ飛べ! アタイのリズムで心を爆発させろ! アタイはロックな女だぜ!」
デンドロビウムの、音撃が兵士たちを吹っ飛ばした。
ホワイトの光りが瞳から消えた、人間嫌いのアザミが奇妙な踊りの剣技で兵士たちを困惑させる。
「盆踊り剣……輪になって踊れ」
黄色い衣服の、黄金の大陽ヘリクリサムが服のスソを広げてムササビのように滑空すると、剣を抜いた兵士たちの前に立って言った。
「〝愛し合うそれが我らの……〟」
最後まで短歌を詠う前に、ヘリクリサムは串刺しにされた。
同時に生命の危機を感じた、ヘリクリサムの体が分裂する。
「〝……進む道、人の話しは、最後まで! 剣で刺された、やっぱり痛い〟」
「わぁぁぁ、化け物!」
剣で斬られるたびに、ヘリクリサムが分裂して増えていく。
ワスレナが目から、毒素を抜いた無毒な血の毒霧を兵士に向かって噴き出す。
「あたしのコトを忘れないで……血の涙を流した、あたしのコトをワスレナいで」
分離したエリカとヤロウが、物陰から上半身と下半身で必殺……もとい、傭兵剣士の技で背後から忍び寄る……プスッ。
大きな爆発が、監獄宮殿で連続する。
宮殿に王女カラン・コエの八万人の軍勢が、喊声や雄叫びをあげて、なだれ込んできた。
八万を越える軍勢に、完全に士気を失った監獄宮殿側は、押されて劣勢になる。
石の円柱を振り回す、メリメ・クエルエルが兵士たちに向かって言った。
「カッカッカッ……降伏したら命は助けるぞ約束する! 特に恩義を感じていない、逃げた監獄宮殿一族に忠義して、ムダに負傷する必要もないぜ……カッカッカッ」
そのメリメの前に、頭に黒い布をかぶった処刑人が、処刑斧を持って現れた。
「なんだ、オレとやり合うのか?」
処刑人は手にした斧を捨てて土下座すると、メリメに震える声で詫びた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、年老いた母親を一族に人質にとられていて、命令されてごめんなさい……首を斬ってごめんなさい」
「カッカッカッ……おまえだったのか、オレを断頭したのはギロチンだったぞ?」
「だから、そのギロチンのロープを切ったのはオレで」
「そっか、もう一回死んだから気にしちゃいねぇよ……オレは囚われ令嬢の気弱なメリメ・クエルエルから断頭されて──ブッ壊しの生首冷嬢姫メリメ・クエルエルに、生まれ変わるコトができたんだからな……ありがとうな」
◇◇◇◇◇◇
女マリー・ゴールドは食料倉庫の中に隠れていた、親友に再会できた。
「生きていたか……良かった」
男性調理人見習い兵士は、再会と互いの無事を祝福して抱き合う。
その時、いきなり床から飛び出してきたジャスミンが、マリーのヒップにタッチして床に消える。
「マリー見っけ、お尻にタッチ!」
女体から男体になっても、マリーは男性の親友と抱擁を続けた。
◇◇◇◇◇◇
監獄宮殿は小一時間で陥落した──半壊した建物の随所から煙が立ちのぼる。
ブッ壊しの戦いが終わったメリメ・クエルエルは、自分生首が埋葬されていた磯浜に降りた。
大干潮の浜には、サビが浮かぶ小さな金属の十字架が斜めになって立っていた。
メリメが感慨深い口調で言った。
「ここから、オレの新しい人生がはじまったんだな……生首冷嬢姫としての人生が」
戦闘中は隠れていた美魔女アマラン・サスが、かぶっていた魔王の仮面を娘のメリメに渡そうとする。
メリメは仮面を優しく押し戻す。
「それはお母さんが、亡くなったお父さんの思い出として持っていてくれ……オレは、オレなりの新生魔王の形を作るぜ」
ワスレナが血の涙をハンカチで拭きながら言った。
「これで、断頭された復讐が果たせましたね」
「復讐や〝ざまぁ〟なんてこれっぽっちも考えたことないぜ【復讐やざまぁの気持ちでブッ壊しやっていたら】、ここまで大きなブッ壊しはできなかった……オレのブッ壊しは、新しいモノを生み出すための種蒔きだぜ、カッカッカッ」
メリメは、今後は半壊した宮殿は【自由宮殿】と命名して、誰でも気軽に来れる場所にするとアルケミラに伝えた。
「引き潮の時にしか使えない道を整備して、満潮でも関係なく通行できる海上道を造る……ゆくゆくは、宮殿公園とかコンサート会場に利用するつもりだ」
メリメの言葉を聞いたデンドロビウムが、塀の上で異世界楽器を掻き鳴らしたり打楽して、一人ロッカーをした。
微笑みながらアルケミラがメリメに訊ねる。
「次は、何をブッ壊しますか?」
即答するメリメ。
「そんなの決まっているじゃねぇか……地獄に堕ちれば地獄を壊し、天国に昇天すれば天国を壊す……宇宙で気に入らなければ、宇宙さえもブッ壊す! オレはオレは生首冷嬢姫のメリメ・クエルエルだぜ……カッカッカッ」
メリメ・クエルエルの笑い声は、潮が引いた海に高らかに響き渡った。
某小説サイト・カク★ムで開催されている
【宮殿から飛びだせ!令嬢コンテスト】の中間結果発表で、力不足で落選した作品
エントリーした時は、50番台でしたが完結設定にした瞬間に、一気に200番台へ下降した、いわく付きの作品は、これでとりあえず終了です
読み返して修正は行いましたが、何か変な箇所がありましたら教えてください。




