第三十六話・桜山の花見中止とパラパラ漫画公開中止をブッ壊すぜ!②
露出した山肌が見える監獄別荘地のマイ別荘で、年配のウマヅラヌリカベ女は生の人参をかじっていた。
「あら、そうガイコツはブッ飛ばされて星になったの……へぇ~っ」
他人ごとのように、人参をポリポリかじるウマヅラヌリカベが、教科書ラクガキ禁止法の発案者だった。
「少し読みが外れたわね……メリメ・クエルエルは、こっちの方に先に仕掛けてくると読んで、罠を用意していたのに……もしかして、場所がわからない?」
庭に出たウマヅラヌリカベは、詰められた木箱の中で鳴いているニワトリの姿を隙間から見た。
メリメ・クエルエルが別荘に現れたら山積みされた、ニワトリ木箱を倒して、メリメ・クエルエルをニワトリ攻めの、ニワトリ地獄に落とす作戦だった。
「一応、エリカ・ヤロウの弱点のマンジュウも千個用意しましたのに……早く来ないとマンジュウが腐ってしまいますわ……確かにメリメ・クエルエルからしてみたら、どこを攻めたらいいのかわかりませんわね」
その時、ウマヅラヌリカベの顔面に矢文が刺さった。
ウマヅラヌリカベは、白塗りの顔に刺さった矢を引き抜く……厚塗りの重ね化粧が、剥がれ落ちる。
「なんて危険なコトを! 厚塗りをしていなかったら即死ですわ!」
矢に結ばれていた手紙を開くと、こう書かれていた。
『わりぃ、こちらの準備に手間どったのと……どこにブッ壊しをかけたらいいのが、わからなかったぜ……場所と時刻は、追って連絡するからニワトリには餌を与えておけよ、カッカッカッ』
読み終わった手紙をウマヅラヌリカベは、地面に叩きつけて幾度も踏みつけた。
「ふざけやがって……ですわ」
◆◆◆◆◆◆
翌朝──気持ちよく寝ていたウマヅラヌリカベは、寝室に駆け込んできた兵士の一声で目覚めた。
「大変です! 朝日に照らされた向かい側の岩肌に、奇妙なモノが!」
「あんっ、奇妙なモノ」
寝起きで髪がボサボサのまま、ウマヅラは庭へとパジャマ姿のまま出た。
そこには、斜めの岩肌に巨大な紙の束が、三階建てのビルの厚さに設置されていて。
さらに、厚い紙の束をめくるような木製重機があった。
一見クレーン車のようにも見える、重機のアタッチメントは人間の親指の形になっていて、運転席にはヘルメットをかぶった技巧の里の職人長が、座っているのが遠目に見えた。
「なんですか? アレは?」
ウマヅラヌリカベの顔面に二本目の、文矢が刺さり、厚塗りの化粧が剥がれ落ちる。
「がはッ!」
自力で顔面に刺さった矢を引き抜いて、巻かれていた手紙には。
『待たせたな、早く来い……ウマヅラヌリカベ』
と、書かれていた。
大激怒して、顔から化粧が剥がれ落ちる、ウマヅラヌリカベが兵士に向かって怒鳴る。
「ニワトリ箱を大八車に乗せなさい! それから、わたくしの顔を修復しなさい!」
◇◇◇◇◇◇
ウマヅラヌリカベが、兵士たちと一緒にメリメたちがいる、岩肌に行くと。
腕組みをしたメガネ令嬢で、オオカミの耳と尻尾の怪力冷嬢のメリメ・クエルエルが不敵な笑みを浮かべて立っていた。
メリメの近くに居るのは。
錬金のアルケミラ。
粘着のシレネ。
風変わりなヘルコニア。
王者の風格プロテア。
そして、弓を持った人間嫌いのアザミの六人だった。
メリメが言った。
「カッカッカッ……教科書へのラクガキを認めて、パラパラ漫画を認める気はねぇか……悪法を撤回してくれたら、許してやる」
顔のシワに化粧をメイク係から、塗り壁のように塗っている、強気のウマヅラヌリカベが言った。
「撤回してもらいたかったら、わたくしをどうにかするコトですわ……わたくしが法案を出したのですから、わたくしを倒すコトですわね」
「そうか、穏便に解決したかったが……それも仕方ねぇ」
ウマヅラヌリカベが、指先をメリメに向けるとニワトリが入った木箱が開けられ。
ニワトリたちが箱から飛び出した。
やはり、恐怖するメリメ。
「ひぃぃぃ! ニワトリ!」
すかさず、倭刀を抜いたアザミが奇妙な動きの剣技に移った。
「フラダンス剣」
ユラユラと揺れる両手に合わせて、ニワトリたちも翼を動かす。
そして、ニワトリは一列に並んでどこかに行ってしまった。
アザミが、ぽつりと言った。
「わたくの剣は、動物を操る……時には単純な人間もな」
苦手なニワトリがいなくなったメリメが、近くの地面にブッ刺してあった、円柱を引き抜いて言った。
「これで邪魔な兵士と、ウマヅラヌリカベをブッ飛ばせるぜ……シレネ、プロテア、アザミ頼むぜ。ヘルコニアにパラパラ漫画の映像記録を頼む」
戦闘がはじまる。
次々となぎ倒されていく兵士たち、同時に木製重機のパラパラ漫画の一巡がはじまる。
動いているように見えるパラパラ漫画。
動画記録をするヘルコニア。
一巡目が終わって二巡目に入った時、プロテアがウマヅラヌリカベの両足をつかんで、ジャイアントスイングの体勢に入った。
何をされているのかわからないまま、悲鳴を発して回されるウマヅラヌリカベの顔から、遠心力で厚塗り化粧がポロポロと剥がれ飛ぶ。
「ひえぇぇぇ!」
ウマヅラヌリカベの体は宙を舞って、パラパラ漫画の紙の隙間に落ちてプレスされた。
数巡目のパラパラ漫画がはじまった時──一瞬、ウマヅラヌリカベの姿が見えて、すぐに厚い紙の中に消えた……ウマヅラヌリカベは、パラパラ漫画の一部になった。
勝利したメリメが、高らかに笑って言った。
「カッカッカッ……パラパラ漫画公開中止をブッ壊してやったぜ、もう誰にも文句は言わせねぇ」
◆◆◆◆◆◆
そして、翌日──ヘルコニアが撮影したパラパラ漫画が町で野外上映されて、子供たちは大喜びした。
イスに座ってパラパラ漫画を観ているロベリアが、ラズベリージャムを塗ったパンを食べながら隣に座るメリメに訊ねる。
「そろそろ、監獄宮殿のブッ壊しを実行してもいい頃じゃねえか……満月の日には大干潮が起きて、監獄宮殿が無防備な丸裸になるんだから」
ブルーベリージャムを塗ったパンを食べながら、メリメが答える。
「カッカッカッ……そうだな、女王国のカラン・コエ女王にも協力要請するか……監獄宮殿を陥落させる時が来たら、八万のシノビ軍勢を差し向けてくれると、約束してくれたからな……いよいよ監獄宮殿を総攻撃して、陥落させるぜ」




