第三十五話・桜山の花見中止とパラパラ漫画公開中止をブッ壊すぜ!①
美魔女の小屋で、ロベリアは紙を厚く閉じたモノの隅に描かれた落書きを、ペラペラめくって落書きが動くのを何度も楽しんでていた。
その行為を見ている、メリメがロベリアに質問する。
「その落書きが動くのは魔法か?」
「いや、魔法じゃない……メルヘンだ、原理はわからないがな」
ロベリアには、大きな夢があった……いつの日か、この紙の隅に描かれた落書きで、一時間を越える物語を作りたいという壮大な夢が。
「ふ~ん、そうか」
シナモン紅茶を飲んでいるメリメ・クエルエルの所に、四人で町に買い出しに行っていた。
毒血のワスレナ。
黄金の太陽ヘリクリサム。
わがままな美人デンドロビウム。
それと、なぜかしばらく厄介になると言って、居着いている永遠のオニオンがいた。
いつものようにヘリクリサムが、短歌で伝える。
「〝町で聞く花見の山の伐採に街人嘆き希望失う〟……監獄宮殿の連中、今度は市民が憩いとしている桜山の桜の木を伐採して禿山にする計画を立てたらしい」
それを聞いてロベリアが、怒りの声を発した。
「冗談じゃねえ! オレは、あの頂上に池がある山での花見を毎年楽しみにしているんだ! 桜の木を伐採して禿山にするだと! ふざけるな!」
続いてデンドロビウムが、エアーギターを掻き鳴らすポーズで言った。
「アタイは、デニムの古着を買いに行った店で、監獄宮殿の新悪法を店主から聞いた……監獄宮殿が無料でガキに配布している、教科書のラクガキ禁止だとよ」
デンドロビウムの話しだと──近々、監獄宮殿で決まる法律で。
【教科書の隅に描かれたパラパラ漫画を見つけたら、子供でも牢獄入りの重罪にする】らしい。
デンドロビウムの話しを聞いてさらに激怒したロベリアが、小屋の外に飛び出して森を走り回って怒り狂う。
汗だくで小屋に戻ってきたロベリアが、摘んできたブルーベリーやラズベリーやクラムベリーの入ったカゴをテーブルの上に置いて言った。
「ふざけな! パラパラ漫画描いて重罪だと! そんなふざけた法律どこにある! 法律が成立する前にブッ壊してやる!」
冷めたシナモン紅茶を飲みながら、冷静な口調でイスに座ったアルケミラが言った。
「落ち着きなさいロベリア……いつもの君らしくない、この二つの監獄宮殿側の動き……目的を監獄宮殿側に立って、冷静に考えれば見えてきます」
深呼吸をしたロベリアは床に坐禅をすると、静かに瞑想した。
パンツ丸見えの状態も気にしないで、数分間瞑想をして心を鎮めたロベリアが言った。
「落ち着いたぜ……アルケミラ、取り乱して済まなかったな……監獄宮殿側の意図が見えたぜ」
「で……その意図は?」
「これは、オレたち十三毒花を動揺させて、判断を誤らせる目的と、誘き出す目的の陽動作戦だ……これは、今までの単なる嫌がらせじゃねぇ……まず、順を追って説明するぜ」
まずロベリアは、桜山の伐採について説明した。
「これは、庶民から憩いの場を奪うコトでの活力と希望奪いだ……監獄宮殿に対する、反乱因子の活力を削ぐための、桜の花は庶民に活力を与える」
「なるほど、桜の木の伐採に他の意図は?」
「たぶん、オレたち十三毒花が妨害に動くコトも見越した、伐採計画だ……イヤな計画だぜ」
次にロベリアは、パラパラ漫画の件に対しての説明をはじめた。
「元々、子供への教科書無料配布は監獄宮殿側が、他国から『イキシア国民は教育を受けていないから学がない』と指摘されたのを受けて見栄っ張りで開始した制度だ」
「それが、どうして今ごろになって厳しい法律を?」
アルケミラの疑問に、ワスレナが一冊の使い古された教科書を差し出し。
「あのぅ、コレ古着屋さんのご主人が、息子が使わなくなった教科書と言ってくれたんですけれど……この教科書の中に、答えがあるような気も」
テーブルの上に広げられた教科書のページを覗き込んだ面々は、大爆笑をした。
「ヒーヒー、なんだコレ……腹痛い」
「パラパラ漫画以外にも、教科書に落書きされている……あはははっ、最高!」
教科書には、監獄宮殿の『トリガラガイコツ』や『ノブタメタボ』や『ウマヅラヌリカベ』を描いた肖像画に、子供の自由奔放なイタズラ描きがされていた。
「くっくっくっ……こんなの見せられたら、監獄宮殿の連中は激怒するな……くっくっくっ」
「この感性は、子供の自由なロックだぜ」
大笑いをして、スッキリと落ち着いたアルケミラが言った。
「それでは、ブッ壊し計画をロベリア考えてください……あはははっ、思い出しただけで笑いが」
とりあえず、魅力ある金持ちラナンキュラスに、隣国の女王国に行ってもらって、あるモノを大量に買い付けてきてもらうことにした。
「どうせ、監獄宮殿が貯めた金ですから……湯水のように使ってきます」
こうして、二つのブッ壊しが動き出した。
◆◆◆◆◆◆
桜山の近くには斧を持った兵士たちと、トリガラガイコツが、メリメ・クエルエルを待ち構えていた。
桜山にやって来たのは、メリメ・クエルエル、ロベリア、ワスレナ、そしてなぜかオニオンの四人だった。
トリガラガイコツが、自信たっぷりの口調で言った。
「引っかかったな……まさか、これが撒き餌の呼び寄せる陽動作戦とは思わなかっただろう……三つの噂を流せば、どれかにメリメ・クエルエルは釣れると思ったのでな」
「三つ?」
「そうだ、一つはこの【桜山を丸坊主の禿山に変える計画】二つ目は【教科書のラクガキ禁止】三つ目は【一週間後の満月から三日間、大引き潮が起こって監獄宮殿が陸続きになって丸裸になるコト】だぁ!」
「ほーっ、一週間後に三日間そんなコトが……知らなかったぜ、教えてくれてありがとうな」
「なにぃぃぃ……知らなかっただと! こうなったら桜の木を根こそぎ切り倒して、除草剤を散布して草も生えないカッパ池の禿山に桜山を変えてやる」
「させるかぁよ!」
飛び出したメリメ・クエルエルに向かって、並べられた木箱のフタが開けられ中に入っていた大量のカエルが、地面にぶちまけられる。
カエルに怯える、メリメ・クエルエル。
「ぎゃあぁぁぁ! カエル!」
「わはははっ、どうだ参ったか! ホネホネホネ」
腕組みをしたロベリアが、落ち着いた口調で言った。
「それで勝ったつもりか……愚かだぜ」
いきなり、永遠のオニオンが角笛を吹いて踊りだす。
群れるカエルたちが、一斉に同じ方向を向いた。
オニオンが、角笛を吹いて歩き出すとカエルたちは、オニオンの後ろに並んで飛び跳ねてついていく。
オニオンの姿は丘の向う側に、カエルと共に消えた。
ロベリアが言った、
「説明するぜ、永遠のオニオンは食材集めの達人だ……どんな食材でも、笛の音に引き寄せられてナベに入る……敗北を認めろ」
カエルがいなくなったメリメが、持参してきた丸太を振り回して、兵士たちを空の彼方に次々とホームランする。
落ちていた斧を拾ったトリガラガイコツが、破れかぶれでメリメに襲いかかる。
「ちゅねぇ!」
ワスレナの毒素を弱めた毒血が、トリガラガイコツの両目に命中する。
「がぁぁぁッ! 目が目がぁ!」
続けて何かを言おうとした、トリガラガイコツをメリメは容赦なく丸太で場外ホームランにした。
「うぎゃぁぁぁ! 星になる!」
無事に桜山の花見を守ったメリメが言った。
「カッカッカッ……桜山の伐採計画阻止したぜ! 次はパラパラ漫画禁止のブッ壊しだぜ!」




