第三十四話・ノブタメタボの悪趣味な暴食美食晩餐会をブッ潰せ!
「うふふふっ……マムシの抜け殻……セミの抜け殻……カニの抜け殻……カエルの肉……牛の尻尾と舌……朝鮮人参の粉末……スッポンエキスを少々……うふふふっ、美味しいスープができた」
美魔女アマラン・サスは、普段は魔法薬を煮込んでいる大鍋で作った料理を皿に盛って、十三毒花にふるまった。
料理を一口食べた、アルケミラが口を手で押さえて言った。
「美味しい……食材の中には怪しげなモノも入っていますが、今日のスープはいつにも増して美味しいですね」
「うふふふっ……ありがとう、臭みを抜いたヤギの内臓と香辛料で味変えすれば、別の料理になるわ……この、料理のスープをベースに魔女の食材を加えて煮込めば、さまざまな〝魔法薬〟になる」
ロベリアが、切り分けられた牛タンを食べながらアマラン・サスに訊ねる。
「どんな効果が、ある魔法薬が?」
「そうねぇ、一番簡単に作れるのが……脱肉系の痩身薬ね」
「〝脱肉系の痩身薬〟? 痩せ薬?」
「ある意味、そうだけれど……以前作って乾燥させて、香辛料みたいに粉末にして、岩塩とコショウを混ぜたモノをビン詰めにして置いておいたんだけれど」
アマラン・サスは少し、言葉を選ぶような感じで言った。
「太った動物のエサに試しに混ぜて与えてみたんだけれど……かなりエグい結果に……これ以上は、思い出したくないから聞かないで」
そんな会話をしていると、人間嫌いのアザミと、黄金の大陽ヘリクリサムが揃ってやって来た。
ヘリクリサムが、さっそく短歌を詠む。
「〝メタボブタ開催するは晩餐の欲にまみれた胃袋満たす〟……ノブタメタボが、ある町で国内の美食食材を集めています」
ノブタメタボとは、メリメたち十三毒花が、勝手に名付けて呼んでいるミドルネームだ。
アザミが、小声で言った。
「ノブタメタボがやろうとしているのは、他者と食事をする楽しい美食の晩餐会じゃない」
アルケミラが訊ねる。
「それじゃあ、どんな晩餐会ですか?」
「腹を空かせた民衆を集めて、料理を見せびらかせながら一人で優越感に浸って食べる晩餐会だ」
メリメが言った。
「カッカッカッ……そりゃあ、最低の晩餐会だな……ブッ潰すか」
アルケミラが、メリメの発言に待ったをかける。
「単純に晩餐会を潰すだけでは、面白くありません……ここは、調理するみたいに、一工夫しないと」
「どうやって?」
「晩餐会は開催させるんです……ただし、予定していた料理のメニューは、こちらで持っていく食材とスリ替えた【悪魔の晩餐会】を──ヘリクリサムとアザミの話しでは、すでに食材は集まってきているんですよね……その食材はムダにしてはいけません」
◇◇◇◇◇◇
かくして、一週間に開催される【悪魔の晩餐会】に向けての十三毒花の食材集めがはじまった。
十三毒花の力で、わずか三日で悪魔の晩餐会の食材は集まった。
集まった食材を見て、アルケミラが言った。
「鮮度保存しなければならない食材は、氷河の氷で冷やして運びましょう」
メリメがアルケミラに質問する。
「料理人はどうするんだ? それなりの実力を持ったプロの料理人じゃねえと……集めた食材は扱えねぇぜ、お母さんの作る料理は美味いけれど、プロの料理人じゃねぇから」
「わたしに一人、心当たりがあります……ノブタメタボが、独食晩餐会を開催する町に来てもらって合流します……同時に集めた食材の入れ替え作業も」
今回のブッ壊しで選出したメンバーは。
生首冷嬢姫メリメ・クエルエル。
錬金のアルケミラ。
悪意のロベリア。
人間嫌いのアザミの合計四人だった。
アルケミラがメンバーに向かって言った。
「シレネとジャスミンも、メンバーに加えたいところですが……二人には、それぞれ用事があるというコトなので、アザミに一緒に行ってもらいます……ウィッグをかぶって変装すればバレません」
「頑張ってみる」
◆◆◆◆◆◆
メリメたちは、晩餐会が開催される町へ悪魔の食材を運び入れ、通常の晩餐会用に集められた食材と入れ替えた。
アルケミラが、ノブタメタボが集めた料理人たちに、催眠洗脳を施して「これから、新しい料理長が一人来ますので、彼の言葉に従うように」そう洗脳した。
◆◆◆◆◆◆
晩餐会当日──広場に張られたターフの会場の調理場に、旅行カバンを持った一人の男がやって来た。
両腕に食材のタトゥーを彫った、なぜかネコヒゲが生えた男だった。
やって来た男が、アルケミラを見て親しそうに抱擁する。
「久しぶりだな、我が旧友アルケミラ……オレを呼んでくれて嬉しいぞ」
「オニオン……悪魔の晩餐会の料理を頼みます」
「おぉ、このゲテモノ料理人……【永遠のオニオン】に任せておけ」
【永遠のオニオン】──アルケミラが一度、十三毒花へ誘って辞退した、外道食材の料理人。
ノブタメタボが町の広場にやって来て、ノブタメタボ一人分のテーブルとイスが用意され。
集められた民衆に向かっての、見せびらかしの晩餐会がはじまった。
最初に、ノブタメタボの前にコック姿で現れたオニオンが、食材の関係でメニューが変更されたと伝えた。
首に食事用のナプキンを巻いた、何も知らないノブタメタボは一言。
「そうか……」と、言っただけだった。
そして料理が、メイド姿で接客関連が苦手な、アザミの手で運ばれてきた。
「〝得体が知れない植物から発酵させた食前酒〟です」
ノブタメタボは、毒々しい色と香りの食前酒に顔をしかめる。
「これを、飲まないとダメなのか?」
「美味しく食事をいただくためですから」
ノブタメタボは、鼻をつまんで悪臭が漂う食前酒を呑んだ。
「うげぇえ……なんて不味さだ」
次の料理が運ばれてくる。
「オードブルの〝ヒトデの姿揚げ〟でございます」
「コレ、食べられるのか? 監獄宮殿の紋章だが」
「食べてください」
ノブタメタボは、揚げたヒトデをかじる。
メインディッシュは、デンジャラスでインパクトがある、オーブン煮込みの料理だった。
「〝サメ頭の辛味煮〟です……食え」
焦げ目がある、鋭い牙を剥いたサメの頭が夜空を見ている……サメの頭が置かれた深皿の中には、激辛の旨味スープが入っていた。
「こ、これ……本当に食べ物なのか?」
「アントニア臭は丹念に抜いてあります……食べ物です」
涙目でノブタメタボは、サメ頭を木製のナイフとフォークを使って食べた。
次々と押し寄せてくる、悪魔の晩餐会の料理。
「〝地獄肉のソテー〟でございます」
一見すると普通の肉のように見えるソテーに、用心したノブタメタボはメイド姿のアザミに訊ねる。
「これは、なんの肉だ?」
瞳からホワイトの光りが消えたアザミが、脅すような口調で言った。
「いいから食べろ……次の料理が、控えているんだよ」
ノブタメタボは、震える手でナゾの肉を食べる。
「不思議な味の肉だ……混ざったような味の……硬い」
「早く呑み込め」
◇◇◇◇◇◇
ノブタメタボが、ナゾ肉を食べたのを確認したアザミが、調理場に戻ると。
コック助手姿のメリメが聞いてきた。
「どうだ、クズ肉を寄せ集めて作った、地獄肉のソテーを食べたか?」
「食べた……悪性新生物の肉も混ぜて、圧縮して固めたソテーを食べた」
「よっしゃ! 次の料理が出せる……カッカッカッ、なんか面白くなってきやがった」
次のパイ皮包料理が、腹を押さえているノブタメタボの所に運ばれる。
「〝デビルフィシュのブッ切りパイ〟でございます……パイの中にはベシャメルソースと……東方地域では、よく食べられている新鮮な食材が入っています」
アザミは、それだけ言うと料理場へ戻って行った。
「おい、何が入っているんだ! 無愛想なメイドだな」
パイをナイフで切り割った、ノブタメタボの口から悲鳴があがる。
「ぎゃあああぁぁぁ!」
パイの中から、白いソースにまみれた、活きたデビルフィシュのブッ切り足が蠢きながら出てきた。
晩餐会は、ついに最後の料理になった。
「これが、最後の料理……〝口直しの野菜ケーキ〟でございます」
皿に載せられた緑色のレアチーズケーキのようなモノの上に、フルーツが乗っていた。
「見た目は、今までの料理の中で一番まともなような……うん、食べてみたら普通に美味いぞ」
口直しの野菜ケーキを食べ終わって、水を一口飲んだノブタメタボが、料理を運んできたアザミに言った。
「最後だけは、まとまなデザートで……ぐぎゃぎゃッ⁉」
突然、胸を押さえてイスから転げ落ちるノブタメタボ、脂汗を流しながら料理場から出てきたメリメたちに向かって怒鳴る。
「いったい、わたしに何を食べさせた! 毒でも盛ったか!」
「カッカッカッ……毒だなんて人聞きがわるいぜ、お母さんが作った脱肉系痩身薬を隠し味で少しだけ、口直しの野菜ケーキに入れただけだぜ……劇的に痩せるぜ」
「なんだとぅ⁉ ぐぎゃぁぁぁ!」
嘔吐とかで痩せるのかと思った、ノブタメタボの予想は大きく外れた。
脂肪体が裏返るように変形して、中から脱皮した痩身の美形青年が全裸で現れた。
脂まみれの裸体を触る、元ノブタメタボ。
「なんだ、これは? 暴飲暴食で太る前の姿に戻った?」
「カッカッカッ……美魔女アマラン・サスの慈悲だ……良かったな、一瞬でも痩せた姿になれて……おまえは数人分の肉と脂肪に包まれていたんだぜ」
「一瞬? おごぁぁぁ!」
今度は、痩身になったノブタメタボの体を赤身の肉や脂肪身が包み、全裸のメタボ体形に戻った。
急激なリバウンドに、ノブタメタボが地面で、ふーっふーっと息をしているのを見ながらメリメは。
「カッカッカッ……晩餐会をブチ壊してやったぜ」
そう言って、拍手をしている見学者に向かって、Vサインを出して見せた。




