第三十三話・監獄ピラミッドをブッ壊せ!ついでに監獄スフィクスもブッ壊せ!
「カッカッカッ……ところで、前から気になっていたけれど……ヘルコニアって、いったいなんなんだ?」
美魔女の小屋で焼いた骨つき肉をかじりながら、メリメがアルケミラにそんな質問をした。
「実はわたしたちも、風変わりなヘルコニアに関しては、よくわからないんですよ……別世界のロボットなのか、古代文明の遺産兵器なのか、魔導機械人形なのか、義腕名匠が造ったカラクリ機械なのか」
「中に幼女が入っていて時々、外に出てきたりしているな……アレが、本体なのか? あいつ誰なんだ?」
「不明です……すべてがナゾです」
◇◇◇◇◇◇
アルケミラとメリメがそんな話しをしていると、グリーンベレー姿の粘着のシレネと毒血のワスレナが入室してきて、テーブルの上にワスレナがチラシのようなモノを置いた。
置かれたチラシをメリメが見ると、そのチラシには黄金のピラミッドと、黄金のスフィンクスのイラストが描かれていた。
メリメが二つの巨石建造物が描かれた、チラシの文章を目で追って言った。
「カッカッカッ……やっと完成したのか、目障りな黄金ピラミッドと、黄金スフィンクス像……待ち望んだぜ、ずっと工事現場は目隠しされていて地上からは、わからなかったからな」
ヘルコニアが上空から撮影してきて、やっと監獄宮殿が何を造っているのか判明した……その時、上空を飛行していたヘルコニアは、投石機の石を当てられて逃げ帰ってきた。
「カッカッカッ……ヘルコニアが、監獄宮殿の見栄の象徴の黄金ピラミッドと、黄金スフィンクスをブチ壊したがっていたからな……で、完成公開の式典はいつだ?」
シレネが答える。
「三日後だ……あまり時間がない、こちらも急いでブッ壊しの準備をしないと……監獄宮殿の連中に悟られないように……何かいい作戦はないか? ロベリア」
シナモン紅茶を飲んでいた、ロベリアが微笑む。
「あるぜ、とっておきの作戦を考えてある……監獄宮殿の連中が、悔しがるほどの奇策がな」
◆◆◆◆◆◆
監獄宮殿一族の中で一人の高齢な婦人が、自分の面長顔が黄金スフィンクスの顔になっている人面獅子像を見て怒鳴る。
「あそこ! 黄金の顔にヒビが走っている……すぐに金継ぎで埋めて修復しなさい!」
妖怪〝長面妖女〟を連想させる。白塗り顔の【ウマヅラヌリカベ】女は、一族の中でもかなりの財力を持った存在だった。
ウマヅラヌリカベが、造らせている黄金のピラミッドは、監獄宮殿一族の共同墳墓にする名目予定で建造されていた。
「完成したら、ピラミッドの頂上に、わたくしの棺を納める部屋を造り……その部屋に亡くなった、わたくしの包帯ミイラを安置するのですわ……わたくしの背中の下に、監獄宮殿の一族の者たちが埋葬される……素晴らしい計画ですわ」
ウマズラヌリカベは包帯が巻かれた、長面顔の自分のミイラ姿を想像して陶酔している。
ウマズラヌリカベの顔に、亀裂が走って化粧が剥がれ落ちる。
「ひっ! 化粧が剥がれた……メイク係早く、わたくしの顔に白塗りを重ね塗りなさい! 早く!」
◆◆◆◆◆◆
イキシア国の技巧の里──機械技巧者が多く住む里に、メリメたちはやって来た。
今回のブッ壊し計画のメンバーは。
生首冷嬢姫メリメ・クエルエル。
錬金のアルケミラ。
悪意のロベリア。
粘着のシレネ。
風変わりなヘルコニア。
王者の風格プロテア
危険な快楽のゲッカコウの、合計七人だった。
金属音が鳴り響く一軒の職人小屋に、シレネを先頭にメリメたちは入った。
何か金属加工をしていた、白いヒゲを生やした初老の職人男性がシレネを見て、金属ハンマーを打つ手を休める。
「おお、シレネちゃんか……注文したモノは出来ているよ」
顔の汗を拭った男性は、近くにあった金属ヤカンの麦茶を飲んで言った。
「シレネちゃんが、片目と片耳で見聞きした現世界の情報から、図面を起こしたモノを、技巧の里で作る……本当に職人冥利に尽きる」
「監獄宮殿の連中は? この里には?」
「たまに来るが、追い返している……この里の連中は、監獄宮殿の一族が大嫌いだからな、別の里では監獄宮殿の武器とかを作っているみたいだが」
シレネが言った。
「あたしが注文したモノを見たい」
「隣の作業場で、弟子が仕上げ作業をしている……こっちだ」
連れて行いかれた隣の部屋では、台に乗った丸太のような円筒形の物体を、弟子たちが紙ヤスリで磨いていた。
銀色の光沢を放つ、先端にドリルが付いた円筒形の物体──ミサイルを軽く叩いて、職人男が言った。
「どうだいシレネちゃん、図面通りの出来だろう……ちゃんと筒の中に爆発物を、目一杯詰め込んだぜ……これなら、ピラミッドとスフィンクスを木っ端微塵に爆破できるぞ」
メリメが腰に手を当ててロベリアに言った。
「カッカッカッ……ロベリア、監獄宮殿の連中が悔しがるほどの作戦ってのはなんだ?」
「それを、今から依頼する」
ロベリアは、紙に書いてきた簡単な図面を、匠職人の初老男性に見せる。
「これを作ってもらいたい……二日以内に、完成公開式典に間に合うように」
「ほぅ、現世界の神輿みたいなモノだな……前にシレネちゃんから、教えてもらった──このドリルミサイルが乗っている作業台を利用すれば、すぐに作れるだろう……任せておけ」
「頼むぜ……協力して、監獄宮殿のピラミッドと、スフィンクスをブッ壊そうな」
「おう、ところで……ヘルコニアちゃん」
職人の初老男性は、ヘルコニアを職人独特の興味津々の目で眺めて言った。
「一度だけでいい……分解させて調べさせてくれないかな?」
職人の言葉を拒否したヘルコニアは、首をブンブンと横に振った。
◆◆◆◆◆◆
完成公開式典の当日──控室のテントでイスに座ったウマズラヌリカベは、メイク係の化粧塗りを受けていた。
「今日はいつもより、入念に厚塗りして頂戴……お客さまが大勢、いらっしゃるから」
ウマズラヌリカベが、コテで塗り壁でもしているように厚塗りメイクをされている台の近くに、メイク係に変装したゲッカコウが、新作化粧品の入った化粧ケースを置いてテントから出て行った。
厚塗りをしているメイク係の女性は、ゲッカコウが置いていった化粧品を使ってしまい……塗った直後に青ざめる。
ウマズラヌリカベが、震えているメイク係に訊ねた。
「どうしました?」
「いえ、別に」
メイク係が作業を進め、足早にテントから去ろうとするのをウマズラヌリカベは呼び止める。
「鏡を見せなさい」
「それは、ちょっと」
「いいから、見せなさい!」
渡された手鏡には、真っ黒な化粧をされた、ウマズラヌリカベの姿が映っていた。
「なんじゃこりゃあぁぁ!」
◇◇◇◇◇◇
化粧を直す時間も無く、黒塗りのまま式典に参加しようとしていた、ウマズラヌリカベのテントの中に、兵士の一人が駆け込んできて言った。
「式典を祝いたいと、神輿を担いだ連中がやって来ましたが、どうしましょうか?」
「おほほっ、やっと愚民たちにも、わたくしを崇拝する気持ちが芽生えたようですわね……祝福してもらうように伝えなさい」
「わかりました……ところで、その黒塗りは新色の化粧ですか?」
◇◇◇◇◇◇
祭り法被で変装したメリメたちと、技巧の里の職人衆が、ドリルミサイルを乗せた神輿を担いで、黄金ピラミッドに近づく。
先頭で担いでいるのはプロテア、後方はメリメ・クエルエル、左右を他のメンバーや職人衆たちが担ぐ。
「セイヤ、セイヤ、ワッショイ、ワッショイ」の掛け声と共に大ウチワを振る者や、見学している兵士たちに振る舞い酒をする者もいた。
ある位置まで来た時、ドリルミサイル神輿は止まり地面に降ろされた。
匠職人の初老男性が、神輿のハンドルを回して発射角度を調整した。
「この位置だな、これで発射できる」
ミサイルの先端ドリルが回転する。
兵士たちは、いったい、何がはじまるのかと期待で見守る。
祭り法被を羽織った、メリメが大きな金属ハンマーを振り上げて言った。
「撃ち抜いて、ブッ壊れろ!」
ドリルが回転しているミサイルの底部をハンマーで強打すると、点火されたミサイルは、黄金ピラミッドに向かって飛んだ。
ピラミッドを貫通したミサイルは下部をピラミッド内に残して。 上部がさらに顔が長い女の、スフィンクス内部にめり込む。
数秒後──スフィンクスの顔面に亀裂が走り、時間差で黄金ピラミッドとスフィンクスが、大爆発して金メッキの岩破片が周囲に飛び散る。
黄金ピラミッドとスフィンクスは、完成公開式典の当日に……破壊された。
残った土台も、ヘルコニアの両手ドリルと爆撃で、徹底的に粉砕する。
黒塗りの顔で何が起こったのかわからないまま、その場に腰砕けになるウマズラヌリカベ女。
「ああぁぁぁ⁉」
腰に手を当てたメリメ・クエルエルが、Vサインを出して言った。
「見栄っ張りの、黄金メッキのピラミッドとスフィンクスのブッ壊し完了だぜ……カッカッカッ」
最後にゲッカコウが不仲なダンスをして、兵士たちに殴り合いをさせた。
「隣にいる者と、殴り合いをしなさ~ぃ」
◆◆◆◆◆◆
意気消沈で監獄宮殿にもどった、ウマズラヌリカベがヒビ割れた黒化粧を修復しようとすると。
今度はスリ替えられていた、赤い顔料でウマズラヌリカベの顔は真っ赤になった。
「ぎゃあぁぁぁ!」




