第三十一話・バカ男のハーレムをブッ壊せ!
「おや、雲行きが怪しいと思っていたら……ポツポツと雨が降ってきましたね」
美魔女の小屋で、窓の外に植えられた香草の葉っぱが、雨粒で濡れていくのを見たアマラン・サスは窓を閉めた。
部屋の中には、アマラン・サス、メリメ・クエルエル、それと美魔女小屋の隣に建てられた小屋で生活している。
メリメの遠縁にあたる年上の女性──メリメがお姉ちゃんと呼んでいるムスカリ・オフィエルがいた。
イスに座ったムスカリは、少し沈んだ表情をしていた。
メリメがムスカリに訊ねる。
「それで、お姉ちゃんが町へ知り合いになった問屋の知り合いの娘さんが、ある事情で人身売買の商人に自分の体を奴隷として売ってしまったと」
ムスカリが、静かにうなづく。
ムスカリは、森で採取してきた薬草を乾燥させたモノや、刺繍をした布などを町に持っていって、売って収入を得ている。
ムスカリが言った。
「ダーリンが……あっ、ダーリンっていうのは、結婚式の時に一緒に式場から逃げ出した彼のコトだけれど……そのダーリンが言うには、壊滅した臓器売買ブローカーの根が完全に枯れていなくて──組織の形を変えて残党が、裏でコソコソと活動を続けていたらしいの」
ムスカリの詳しい話しだと復活した人身売買組織は……裏世界で購入した若い男女を、ハーレム目的で売り買いしているらしい。
「お世話になっている、問屋の知り合いの娘さんを助けてあげたいけれど……あたしには、どうするコトもできなくて、お願い助けてメリメちゃん」
ムスカリの話しを聞いたメリメが、腰に手を当てて笑う。
「カッカッカッ……任せておけ、オレがハーレム目的の、人身奴隷売買をブッ潰してやるぜ!」
メリメがそう言った時──部屋のドアが開いて、入ってきたアルケミラとロベリアが言った。
「この問題は単純に、ハーレム奴隷を売買しているグループを、ブッ壊せば解決するというモノでもないんですよ……根本には、貧富の差から生まれた経済格差が関係しています」
ロベリアが続けて言った。
「あらかじめ、オレとアルケミラで密かに調査していた件だから言えるけれど……家族を助けるために、娘や息子たちは自分の体をハーレム目的の金持ちたちに提供している、そこの現状をなんとかしないと……同じコトの繰り返しだぜ」
ロベリアの話しだと、ハーレム奴隷売買の拠点となっているのは、イキシア国の片田舎にある小さな城らしい。
「その城は、監獄宮殿の一族から数世代前に分家した一族が統治している領地の城でな……城主のハーレム好きなバカ男が、ハーレム奴隷商人を城に住まわせて保護しているぜ」
アルケミラがロベリアの話しを補足する。
「自分の体をハーレム用に奴隷身売りする、男女数が一定数集まったら──不定期に城で奴隷オークションを開催するらしいです」
その時──少し開いていたドアを開けて、エリカが入室してきて言った。
「行くならわたしも同行したい……壊滅させた臓器ブローカーは、根まで完全に枯らさないとな」
そう言うとエリカは、ギザギザノコギリ刃剣の鞘から鋭い鍼を引き抜いて口にくわえた。
それを見たムスカリがボソッっと呟く。
「殺し屋だ……必殺の」
即座に反論するエリカ。
「ち、違う! わたしは金をもらって悪人を始末する殺し屋ではない! 傭兵剣士だ」
「他にどんな殺し技を持っているんですか?」
「そうだな、敵の心臓や内臓を素手で握り潰すとか、背骨を折って体を二つ折りにするとか……さらには、打ち上げ花火で悪党を豪快に夜空に散らして」
「やっぱり、殺し屋だ」
「ちがーう!」
傭兵剣士だと主張し続けているエリカ・ヤロウを横目にメリメがロベリアに訊ねる。
「ブッ壊しの、いい作戦はあるのか?」
「おう、ちゃんと面白い作戦を考えてあるぜ……今回のブッ壊しに最適なメンバーも選んであるぜ」
ロベリアが選出した今回のメンバーは。
生首冷嬢姫メリメ・クエルエル。
錬金のアルケミラ。
悪意のロベリア。
風変わりなヘリコニア。
魅力ある金持ちラナンキュラス。
官能的なジャスミン。
わがままな美人デンドロビウム。
それと、殺し屋……もとい、傭兵剣士のエリカ・ヤロウの八人だった。
アルケミラが言った。
「プロテアは、なんでも地方で異世界プロレス興行巡礼に参加するとかで……今回は来ません」
少し間を開けて、アルケミラが言った。
「今回のブッ壊しには、わたしの催眠洗脳が力を発揮しそうです」
◆◆◆◆◆◆
監獄宮殿一族から分家した、片田舎にある小城──城主の男が名づけて勝手に呼んでいる『監獄ハーレム城』の一室で、城主の男とハーレム奴隷商人の女は、並んだイスに座って。
目前に整列して、少しエッチな格好で石の床に土下座している、若い女たちを眺めていた。
列の真ん中で、土下座している奴隷女リーダーが、丁寧な口調で言った。
「ご主人サマ……わたしたちは、ご主人サマに調教されたハーレム奴隷です、なんなりとご命令を……その他の奉仕もいたします」
その言葉を聞いた城主の男は、体中がゾクゾクするのと同時に、感激の涙が滝のように両目から溢れた。
「やっと、念願だったハーレムが完成した! わたしはハーレム王になれた!」
隣の席に座っているハーレム奴隷商人女はは、城に仲間が住まわせてもらって。
さらに時々、奴隷オークションを城内で開催させてもらっている手前。
「あぁ、それはよかった、よかったですね」
と、形だけの拍手をする。
ハーレム城主が、奴隷女たちを前に、熱くどーでもいい男の夢を語る。
「わたしは、子供の頃に絵本で奴隷女が舞い踊っている場面を見て、心がズキューンと撃ち抜かれた……いつか忠実な下僕女たちにエッチな奉仕をさせる、ハーレム王になると子供心に誓った……その念願が今叶った」
ハーレム奴隷商人のリーダー格の女は、鼻をほじりながら。
「それは、それはよかったですね」と、気のない返事をしながら思った。
(もっと、子供らしいマシな願望は無かったのかよ……オレたちだって、こんな非人道的な仕事から足を洗いたい)
貧富の差で家族を助けるために、自分の身を売る男や女たちがいる限り、ハーレム奴隷商人は商売を続けるしかなかった。
需要があるから、供給が発生する。
女ハーレムや男ハーレムを求める金持ちの男や女がいる限り。
その時──城の兵士が慌てた部屋に飛び込んで来て言った。
「た、大変です! メリメ・クエルエルが『オレを調教して城主のハーレム奴隷に加えろ!』と、怒鳴って突然、城に押し寄せてきました」
「なにぃぃぃ?」
部屋の扉がぶっ飛んで、少しエッチな格好をしたメリメが、首に犬を散歩させる時に使うリールのような首輪鎖をして現れた。
鎖の先は、ロベリアが握っている。
「カッカッカッ……メリメ・クエルエルさまが、ハーレム奴隷になるために来てやったぞ! 早くオレを調教しろ、城主」
とても、奴隷になる気があるとは思えない、上から目線な態度のメリメが、グイィーーンと鎖を引っばり伸ばして、ハーレム王に急接近する。
「こうすりゃいいのか」
土下座してメリメが言った。
「ご主人サマ、メリメを調教して、ご主人サマ好みの立派な奴隷にして欲しいぜ……肩でも揉みましょうか、オレが本気出したら肩の骨が砕けるけれどよ……ハーレム奴隷に加えてくれるまで帰らねえぜ」
ハーレム王の城主は、頬をヒクヒクさせた。




