第二十八話・ぼったくりな有料蛇行道路をブッ壊せ!
「なんだ! この不自然に曲がりくねった道は?」
濃い褐色肌の生首冷嬢姫に、季節イメチェンしたメリメ・クエルエルは、ロベリアがテーブルの上に広げた地図の蛇行した道を見て言った。
「直線コースで走ると数十分程度の距離が、倍以上の時間がかかるじゃねぇか?」
闇医者のストレリッチアが、メリメの首に巻かれている、縫合痕を隠す革ベルトのダイヤルを回すと。
メリメの肌の色素は、濃い褐色肌から少し薄い肌色に変わる。
【恋するダテ男ストレリッチア】が小声で呟く。
「もう少しだけ、褐色肌の色素は薄い方がいいかな……」
ストレリッチアが革ベルトのダイヤルを微調整すると、メリメの肌色は最初よりも、薄めの褐色肌色素に変わった。
ストレリッチアは、季節感を出すために時々、メリメの肌の色を変えて楽しんでいる、褐色肌や色白肌にして……時々、緑色の肌色とか赤い肌色や青い肌色に季節イベントで、メリメの肌は変わっている時がある。
薄め褐色肌バージョンのメリメ・クエルエルが、ロベリアに言った。
「この、異常に蛇行したぼったくりな有料道路を、ブッ壊して直線コースの道を造るのか?」
「平地の村へ繋がる山道が、全部この蛇行道だからな……物流のコスパが悪すぎる、そのため村にある雑貨屋に並ぶ商品の値段が、監獄宮殿が徴収する通行料の影響で爆上がりし続けている……蛇行した道の距離で決められる、通行料が高くなる仕組みだ」
アルケミラが言った。
「蛇行した道を突っ切った直線コースの、無料の道を造ればいいんでしょうけれどね……問題はそんなに簡単じゃないんです」
「カッカッカッ……何かあるのか?」
アルケミラは、蛇行した数本の道がある村へと繋がっている森林地域を指先で、囲って言った。
「この、地域に絶滅が危惧されている動物がいるんです」
「じゃあ、その動物を別の場所に移動させれば」
アルケミラが少し苦笑する。
「それがねぇ、絶滅を危惧されている動物が、自分たちが長年住んでいる先祖が残してくれた森林から、外に出るのを酷く嫌がっていて」
「なんか、アルケミラの言い方だと、知能があるみたいだぜ?」
「あるんですよ……その絶滅危惧動物は、村人とも上手くやっています……気のいい連中ですよ」
アルケミラの話だと、監獄宮殿はその絶滅危惧動物たちを、鬱陶しく感じていて。
ワザと蛇行させた道を造ったのは、その動物を絶滅させる目的もあったらしい。
「カッカッカッ……監獄宮殿の連中も、ひどいことしやがるな」
ロベリアが一枚の紙をメリメの前に差し出す。
「アルケミラの話しから、今回のブッ壊しに必要そうなメンバーを選出してみた……オレとアルケミラとメリメは、当然メンバーに入っているけどよ」
紙に書かれた選出しされた名前は。
生首冷嬢姫メリメ・クエルエル。
錬金のアルケミラ。
悪意のロベリア。
王者の風格プロテア。
風変わりなヘリコニア。
黄金の大陽ヘリクリサムの名前があった。
「帰ってきたエリカ・ヤロウと、ワスレナも連れて行く……プロテアは労働力、ヘルコニアはアタッチメントを交換すれば、重機として使える」
「カッカッカッ……とにかく、現場に行ってみねえコトには何もはじまらねぇな」
◆◆◆◆◆◆
メリメたちは、蛇行する道の森へとやって来た。
早速、ヘリクリサムが一首短歌を詠む。
「〝本当にくねりくねりと森の道不便極まり村は迷惑〟……この道で利益を得るのは、監獄宮殿の一族だけですね」
通行関所のようなモノがあって、数人の兵士が通行人に、目を光らせていた。
アルケミラが言った。
「わたしたちが通るのは、森のケモノ道です……絶滅危惧の動物たちの村へは、ケモノ道を通って行きます」
エリカが、アルケミラの言葉に少し不思議そうな顔をする。
「動物の村? 擬人化した動物がいるのか? 可愛い女の子の姿をした動物系の地域……シレネから聞いた現世界には、そんな場所もあると」
「まさか、そんなモノは森の中にはありませんよ……さあ、ケモノの道に入りましょう、兵士たちがこちらを睨んでいますから」
森のケモノ道に入って歩きながら、アルケミラが言った。
「クマ、シカ、イノシシ、ウサギ、サルなどの野生動物いますね……ケモノ道の足跡を見ればわかります」
森の中を少し行くと、ケモノ道は二股に分岐していた。
「カッカッカッ……どっちに行くんだ?」
「少し待ってください……今、聞いてみますから」
そう言うと、アルケミラは森の中でセミような虫の鳴き真似をした。
「ジジジジッ……ミーンミーンミーンッ」
すると片方のケモノ道の方から、応えるようにセミに似た鳴き声が聞こえてきた。
「カナカナカナ……ジジジッ……ジョジョジョ」
その声を聞いた、アルケミラが言った。
「こっちの道です……わたしたちを歓迎してくれるそうです」
アルケミラの後をついて行くと、森の中で茶色のなにかが動く気配を感じた。
ワスレナが少し怯える。
「森の中に何かいる?」
囲まれている気配はするのだが、それがなんなのかわからない。
アルケミラが言った。
「心配して、わたしたちを迎えに来てくれたようです……この道で、間違っていないので、進みましょう……ジジジッ、ジョジョジッ……今、心配してくれてありがとうと、礼を伝えました」
数分間ケモノ道を進むと拓けた広場のような場所に出て、粗末な木を組んだ簡単な集落と、広場の中央に焚き火の炎が見えた。
丸太を削ったトーテムポールのようなモノ、木の間に張られた縄に干された毛皮も見えた。
メリメが言った。
「カッカッカッ……なんでぇ? この場所は?」
アルケミラが、またセミのような鳴き真似をする。
「ジーッジーッジーッ……ジーッジーッ」
すると、物陰からゾロゾロと茶色や黒色の猿人が現れた、頭には触角のようなモノが生えている──中には数体、体毛が白い個体もいた。
腰に動物の皮を巻いていて、ある猿人は手に石器の道具を持っている。
一匹の猿人が、アルケミラに、飛びついて地面に押し倒す。
「ミーンミーン、ジジジッ」
「ハハハッ、久しぶりです森の我が友」
立ち上がったアルケミラが、猿人たちを紹介する。
「彼らは自分たちを『森の幸福愚民』と呼んでいる、古代猿人類です……ビッグフットとか、イェティ、アルマス、ヨーウィ、野人などとも呼ばれています」
アルケミラは、森の幸福愚民から聞いて感銘を受けた言葉を、訳してメリメたちに伝えた。
「彼らは言っていました『わたしたちは、モノにあふれた、あなたたちの世界よりも幸せだ──お腹が空けば森の果樹や木の実を食べればいい……家がなければ木の枝を屋根代わりにして、枝葉の下で眠ればいい……働かなくても必要最低限のモノがあれば生活できる』……と」
その言葉を聞いた、ヘリクリサムの目から涙が溢れる。
「〝感動だ森の幸せ感動だ忘れたなにか思い出す〟……字足らず」
森の幸福愚民の猿人たちの、歓迎会が広場ではじまった。
広場の地面に棒で描かれた円の中で、二匹の森の幸福愚民が、腰の毛皮をつかんで四つに組む。
猿人同士のプライドをかけた真剣勝負に、完成が上がる。
「ジッジッジッ……ジョジョ……ジッ」
「カナカナカナ」
地面の円から出たら負けの、白熱したルールの格闘にメリメたちの手も汗ばむ。
アルケミラが、小声でメリメに囁く。
「この競技は〝スモモ〟と呼ばれる猿人たちの村技のようなモノです」
一瞬の隙をついて、片方の猿人が円の外に投げ飛ばされて決着がついた。
「カッカッカッ……すげぇぜ、体が熱くなった……こんなすげぇ、スモモをする猿人たちを絶滅させちゃならねぇ」
メリメたちは、歓迎で出された野人料理を味わう。
コウモリの丸焼き〔野人風〕。
川ワニのソテー。
キミとボクの仲良し温サラダ〔森の木ノ実添え〕
名前の知らない、蒸しキノコの岩塩スープなどが出てきた。
すっかり、打ち解けたプロテアが、猿人の子供たちとスモモのマネをして戯れ。
エリカが、上半身と下半身の金属板の間に丸太を入れてバランスをとる、大道芸人のマネをして喝采を浴び。
ワスレナが、並べた木の標的を目から発射する毒血で命中させて、猿人たちを楽しませた。




