第二十五話・第二のメリメ・クエルエル誕生計画をブッ壊す
その日──監獄宮殿に密かに潜り込んで情報収集をしていた、粘着のシレネが戻ってきて。
重大な報告があると……急遽、全十三毒花を美魔女の小屋に集めた。
集まった十三毒花に、手から粘液をしたたらせてシレネが言った。
「監獄宮殿のやつら、とんでもないコトを企んでいる」
机の上にある焼菓子を食べながら、メリメが質問する。
「どんなコトを企んでいるんだ?」
「【第二のメリメ・クエルエル】を生み出そうとしている……非道な方法で」
「どうやって?」
シレネの話しだと一人の村娘を、ある場所に拉致していて。
頃合いを見て首をチョン切って、屈強な肉体の筋肉男性の首を斬った胴体と縫合合体させるらしい。
シレネの話しを聞いた、恋するダテ男ストレリッチアの闇医者が髪をクシでとかしながら言った。
「悪魔と契約を結んだ、闇医者の医術をナメてもらっては困るな」
メリメが言った。
「カッカッカッ……娘の首が斬り落とされる前に、救い出さねえといけねぇな」
同行するメンバーは、いつものアルケミラ、ロベリア、メリメに加えて。
ストレリッチア。
ジャスミン。
シレネ。
そして、前回の作戦では、ほとんど暴れるコトがなくてストレスが蓄積した。
ヘルコニアと、プロテアが同行を求めて加わった。
アルケミラが言った。
「エリカとワスレナは、エリカの故郷でしばらく豪華客船型集合住宅への村人総引っ越し手伝いをしているので、今回は同行できません……現時点では、これがベストメンバーですか? その首を斬られる娘が拉致されている場所はどこですか?」
シレネが頭を掻きなながら言った。
「それが、湖に周囲を囲まれた小島の古城なんだ……〝忘却湖〟という名前の湖の中央に浮かぶ小島の、古城に拉致されている」
シレネの話しを隣の部屋で聞いていた美魔女アマラン・サスが、部屋から出てきて言った。
「その、湖の古城へ、わたしも同行します」
「カッカッカッ……お母さん、どうして?」
アマラン・サスが魔王の仮面を外して言った。
「その場所は、以前わたしが住んでいた場所です……黒ユリ森に来る前に」
アマラン・サスの話しだと、数世紀前に湖の美魔女と呼ばれた若い時に居城していたらしい。
「あの当時は、人間の使用人も多数、城で一緒に暮らしていましたが……流行病で一人死に、二人死に……最後に残ったわたしは、忘却城を出て黒ユリの森に引っ越したのです」
さらに、アマラン・サスは少し気になるコトを口にした。
「もしかしたら、忘却湖には恐ろしい番人が潜んでいるのかも知れません……忘却の怪物が」
◆◆◆◆◆◆
数日後──メリメたち一行は、忘却湖を望む林に到着した。
湖の湖畔から少し離れた場所には、監獄宮殿の兵士たちがテントを張って、警護していた。
ロベリアが言った。
「数隻の小舟が岸に上げられているところを見ると、地形的にもあのキャンプ地からしか島の古城に渡るコトは出来そうにないぜ」
ライオンマスクのプロテアが、湖の方を観ながら言った。
「ヘリコニアが、空を飛んで近づいてもいいが……それだと、他の者はピストン輸送で運んでもらわないと……それは効率が悪すぎる」
ストレリッチアが、苦笑しながら言った。
「二隻の連結した小舟に、四人ごとに分かれて乗りこんだ八人を……ヘルコニアにロープで島で引っ張ってもらうとしても、兵士たちに頼んでも素直に舟を貸してくれそうにはないなぁ」
アルケミラが会話を繋げる。
「わたしの催眠洗脳で、兵士たちを操って穏便に島へ渡る方法でもいいんですが……それだと、暴れたがっているプロテアとヘリコニアのストレスが爆発するでしょう……メリメさんも暴れてみたいんでしょう」
「おうっ、この体が暴れたがって疼いているぜ……カッカッカッ」
メリメたちが、そんな会話をしていると。
林の中に張られていたキャンプの中から、見覚えがある人物が現れた。
「よし、胸はふくらんでいる……股間は平らになっている、今のウチは女だ」
女マリー・ゴールドが、胸と股間を触りながらメリメに言った。
「心配するな、今日は何もしない……メリメ・クエルエルはウチの獲物だから、忠告するためだけに一週間前から独りキャンプをして、待っていた『島へ舟で渡るつもりなら、湖の怪物に気をつけろ』食われるな」
「湖の怪物?」
「忘却湖の【レディー】と、近くの町の者たちは呼んで恐れている、ウチも数回レディーを目撃している」
シレネが質問してマリーが答える。
「どんな怪物なんだ?」
「水面から持ち上がった首は垂れた耳のようなモノがあるヘビのようだった……蛇行して湖を泳いで水中に消えた時に、ハート型の模様が見えたな」
マリーの話しを聞いたアマラン・サスが、小さな声で呟く。
「垂れた犬耳のような平らなモノ……連なる二つのハート型の模様」
マリーがテントに戻る前に、メリメに助言した。
「怪物に喰われて、ジ・エンドになるなよ」
◇◇◇◇◇◇
数分後──パワーを持て余していたメリメたちが、湖畔でキャンプの食事を準備をしていた、兵士たちに奇声を発して襲いかかった。
「ヒャホッ!」
ヘリコニアのロブスター腕がロケットのように飛んで威嚇する。
プロテアが、兵士たちがケガをしない程度の安全な場所で、異世界プロレスごっこをする。
シレネが粘着の糸を手から出して、兵士数名を絡め。
メリメが湖の湖畔にあった、遺跡の四角い柱を引き抜いてブンブンと楽しげに振り回した。
「カッカッカッ……ぶっ飛ばされて、湖に落ちたいヤツはどいつだぁ! ヒャホゥ」
湖の砂浜にプロテアの異世界パイルドライバーで、杭のように頭を下に打ち込まれる仲間を見て、悲鳴をあげて逃げ出す兵士たちを。
メリメが振り回す四角い石柱が、逃げる兵士たちを空高く打ち上げ、兵士が次々と湖に落下していく。
数分後──気絶した兵士たちの体が散乱した。
兵士たちが作っていた料理をフライパンで食べながら、メリメが言った。
「湖に落ちた兵士、浮かんでこねぇな……怪物に食べられたかな?」
平らな岩の上に座っている、アマラン・サスが言った。
「食べられてはいないと思うわ……水草を食べている草食なら……たぶん……湖の中にある空洞にでも、運ばれて救助されているコトでしょう」
近くに咲いていた花を眺めながら、アマラン・サスが話し続ける。
「空洞から地上へ抜ける穴が繋がっているはずですから……崩落していなければ」
◇◇◇◇◇◇
メリメたち一行は連結した、二隻の小舟に乗って空飛ぶヘルコニアに、ロープで引っ張ってもらって湖面を島へと向かう。
波を立てて進む小舟に乗っていた、ストレリッチアが後方の水面を指差して叫けぶ。
「なんだ、アレは⁉」
見ると小舟を追いかけるように、三角の波が迫ってきていた。
やがて、三角波の下からヘビのような長い首の生き物が、水面に頭と首を出現させる。
「湖の怪物だ!」
必死に小舟のロープを引いて逃げようとしているヘルコニアに、
アマラン・サスが言った。
「逃げなくても大丈夫…
…止まって」
ヘルコニアが空中停止すると、小舟を寄ってきた水棲巨大生物が、アマラン・サスに頭を近づける。
アマラン・サスが、怪物の鼻先を撫でるとレディーは、嬉しそうに喉をゴロゴロ鳴らした。
「よしよしよし、ずいぶん大きくなったわね……よしよしよし、いい子、いい子」
メリメがアマラン・サスに質問する。
「お母さん、その怪物を知っているのか?」
「知っているも何も、この湖の古城に住んでいた時に、ペットで飼っていた水蛇よ……あの時は手の平サイズだったけれど……なにを食べたら、こんなに大きくなるのかしら」
アマラン・サスは、レディーの首筋にある、連なったハート模様を撫でる。
水蛇のレディーに小舟を押してもらって、メリメたちは湖の島に無事に上陸するコトができた。




