第二十三話・巨大豪華客船集合住宅建設をブッ壊すぜ!
「監獄宮殿が、わたしの故郷で強引な土地の買収をはじめただと?」
エリカ・ヤロウが上半身と下半身で分離して、別々のコトをしながら言った。
丸テーブルの上に乗った上半身は、植木鉢の花に水を注いでいて。
下半身は足踏みして、室内ウォーキングをしていた。
ロベリアが、地方紙の記事に目を通しながら言った。
「この、海岸から少し離れた高台の村って……エリカの生家がある故郷じゃないのか? 過去に津波被害があって、盛り土して高台に移したって聞いているぜ」
「あぁ、わたしの故郷に間違いない……あそこを買収しているのか? なんのために?」
「新聞の記事では『巨大な豪華客船型の集合住宅建設のためと……書いてある」
「巨大豪華客船型の集合住宅?」
「監獄宮殿の連中が、宮殿がダメになった時に、第二の監獄宮殿にするためのリゾートも兼ねた方舟だぜ……庶民には入居不可能な金額の」
「そんなモノのためだけに……わたしの故郷の村人は土地を奪われて追い出されたのか? 故郷を奪われた村人たちはどこへ?」
アルケミラが、シナモン紅茶を飲みながら言った。
「劣悪な環境の強制移住地に、生活水準を下げられた状態で、移住させられているみたいですよ……元々は風葬の地に」
メリメが自分の狼耳を、気持ちよさそうに撫でながら言った。
「最低限の生活力だけ残して、抵抗する力も奪ったってコトか……考えやがったな、その日暮らしに精一杯なら心のエネルギーは抵抗するまで回らねぇ」
「人間は追いつめ過ぎると、牙を剥かれるので……監獄宮殿側は、言葉巧みに税金免除のエサを、土地を奪った村人に与えて抑えています……さて、どうしますか? ブッ壊しますか、建造中の豪華客船型高級集合住宅を派手に」
アルケミラの言葉に、ロベリアが口を挟む。
「それは、オレから見るとあまり良い計画とは言えねぇな……陸の方舟をブッこわしただけで、問題は解決しねぇ……劣悪な環境の地に強制移住させられた村人も助けねぇと、本当に解決したとは言えねぇ」
ロベリアが、建造中の豪華客船型高級集合住宅の、土地の権利書をなんとかしない限りは、結局どうにもならないと言った。
「カッカッカッ……こりゃあ、とりあえず視察して作戦考えるか」
◇◇◇◇◇◇
その時──エリカが顔を真っ赤にして、小声で棚の書籍のホコリを払っている、ワスレナに言った。
「ワスレナさん……すまないが、下半身をいつもの場所に連れて行ってパンツ脱がせてくれないか──今日に限ってうっかりブーツを履かせてしまった……前に足の指を使ってパンツ下ろそうとしたら転倒したので」
「トイレですね……はいはい、下半身さん、あたしについて来てください」
エリカの下半身は、ワスレナの後に続いて、内股でトコトコとトイレに入った。
◆◆◆◆◆◆
村人が強制移住されられた荒地は、酷く陰険な場所だった。
木材を組み合わせた粗末な小屋に住み、階段を下った磯浜で、海藻や打ち上げられた魚を拾い集めてボソボソと生活をしていた。
居住がある場所では、大量の使い魔カラスが群がり、地面に散乱した骨にかすかに付着した乾燥肉を奪い合っている。
ここは、使い魔カラスたちの繁殖地にもなっていた。
異臭が漂う場所で顔をしかめる。
「こりゃあ、想像していたよりも酷い場所だぜ」
使い魔カラスが、骨に付着した、少ない肉を引っ張りあって奪っている近くには、人間の頭蓋骨らしきモノも転がっている。
今回の作戦視察に訪れたのは。
生首冷嬢姫メリメ・クエルエル。
錬金のアルケミラ。
悪意のロベリア。
夜の星イブニングスター。
自称、傭兵剣士のエリカ・ヤロウ。
毒血のワスレナ。
官能的なジャスミン。
風変わりなヘリコニア。
王者の風格プロテアの九名だった。
メリメがエリカに質問する。
「お母さんが独りで住んでいる、掘っ立て小屋はどれ?」
エリカが、一軒の掘っ立て小屋を指で示す。
「アレだ、下がっている木製の札の紋章で、すぐにわかった」
風で下がっていた札が反転して、隠れていたカエルの紋章が現れる。
それを見た瞬間──メリメは顔面蒼白になって逃げ離れた。
物陰に隠れて、様子を伺っているメリメの姿に、エリカが苦笑する。
「やっぱり、まだ怖いか……わたしの防具はカエルの紋章が付いていないモノに交換したがな怖かったら、そこから見ていればいい」
小屋に入ると、髪が銀髪の初老の女性が、火にかけた大鍋の前で陽気にマラカスを振って踊っていた。
「いぇいぃ! 美味しくなれぇ、美味しくなれぇ……おや、エリカおかえり」
派手な南国植物の花柄服を着た、銀髪女性は踊りをやめてイスに座る。
エリカが女性を紹介する。
「紹介しよう……わたしの母だ、お母さん十三毒花の知人を連れてきた」
エリカの陽気な母親の顔が、見る間に恐怖に染まる。
「十三毒花……あの、子供を拐って鍋で煮て食うと言う悪魔集団……魔女の集会で禿山で一晩中、踊り明かすという……ヒーッ」
エリカの母親は、近くにあった少し小さめの鍋を頭にかぶると、スリコギを手に威嚇する。
大剣を背中に背負ったプロレスラー姿のプロテアが、呆れた口調で言った。
「散々な言われようだな……監獄宮殿連中が、オレたちの評価を下げるために流しているガセだとしても」
エリカが怯えている母親に言った。
「お母さんが聞いたのは、監獄宮殿一族が流している根も葉もない……噂だ……たぶん」
「そうなのかい? 婦人会の集まりでは、よく耳にする噂だけれど」
年上好きなアルケミラが、エリカの母親に訊ねる。
「小屋に入った時、やたらと陽気に歌い踊っていましたが? アレはいったい?」
「魔除けの踊りと、料理を美味しくする、おまじないさ……こんな最低の環境でも、心は明るさを保っていたいからね」
小屋の中で地面に直接敷かれた、敷物の上に腰を下ろしたメンバーに、エリカの母親は煮込んでいた得体の知れないモノを、木製の器によそおって出した。
「浜で拾ってきた食べられそうなモノを、適当に煮込んで潮で味付けした、特製お袋の味だ……食べておくれ」
エリカがカエルの札を入り口から、外して手招きすると、メリメも小屋に入ってきて敷物の上に胡座をかく。
スカートの中のパンツは、見えそうで微妙に見えない。
得体の知れないごった煮を食べながら、エリカのこんな場所に移住させられて辛くないかの質問に、母親は少しだけ苦笑して答えた。
「辛くないと言えばウソになるけれど……現状を受け入れるしかないじゃない、元々住んでいた場所には方舟みたいな形の集合住宅が建造されているんだから」
エリカの母親は、父親との思い出の品を抱き締めて言った。
「立ち退きの時に少しばかりの立ち退き料と、数年間の税金免除してもらったから……我慢するしか」
「それで、本当にいいの? お母さんは、お父さんとの大切な思い出の地から、強制撤去させられて平気なの?」
「平気なワケないでしょう、明るく笑って嫌なコト忘れなきゃ……いぇいぃ、食べた食べた」
もてなしの踊りをしているエリカの母親を見ながら、食事をしていたメリメは東洋の箸で器の中から、取り出した小さなヒトデを眺めて呟いた。
「煮えたヒトデが料理の中に入っていた……監獄宮殿の裏紋章は、ヒトデの紋章だぜ」
エリカ・ヤロウの母親は、分離して胡座をかいている、エリカの下半身太モモを撫でながら言った。
「しばらく見ないうちに、上半身と下半身が分離できるようになっちゃって……この下半身のフタって外せるのかしら?」
エリカの母親が、あれこれやっているとカチッと音がして、下半身の金属のフタが緩む。
回して少しだけフタの中を覗いた母親は、すぐに金属のフタを閉めて、打楽器のように娘の下半身を叩きはじめた。
ドンドコ、ドンドコ。
「お母さんやめて、お腹に振動が響くから!」




