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第二話・美魔女アマラン・サスの腐った国への悲しい復讐

少しづつ、カク★ムから移してきます

〔黒ユリの森の魔女が最愛の娘と夫を失う数年前〕


 永遠に歳を取らない美貌の美魔女【アマラン・サス】──彼女は幸せに満ちていた。

 黒いユリが咲く通称〝黒ユリの森〟の魔女として、一人で暮らしていたアマラン・サスが、夫となる人間と出会ったのは偶然だった。


 明るい日差しの朝──泉に水を汲みに来ていたアマラン・サスは、木に背もたれてこちらに背を向けている、人間の男性を発見した。

(この近隣の住民が恐れて、誰も近づかない森に人間が?)


 警戒しながら、男に近づいてその顔を見たアマラン・サスは、口元を両手でおおって驚愕する。

 男の片方の顔は、中度の火傷で酷くただれていた。

(酷い……これは、いったい?)

 死んでいるかと思った男から呻き声が漏れた。

「うぅぅ……み、水」


 この場から逃げ出そうとも思った美魔女は、なぜか男性を放って立ち去れない気持ちになって、両手ですくった水を男の口元に差し出した。

 男は夢中で何回も、アマラン・サスの手酌の水を飲み……落ち着いたのか両目を開けてアマラン・サスを見た。


 男は美魔女に驚く様子もなく。

「ありがとう」と、礼を伝えた。

 今までに一度も、他人から感謝の言葉を受け取ったコトが無かった、アマラン・サスの胸に理由がわからない熱いものが込み上げてきた。

(人から生まれて初めて感謝された……この感情はなに?)


 それから、しばらくアマラン・サスは一日のうちに数回、体力が消耗していて動けない男のところに通うようになって、食べ物や飲み物を運んだ。


 親しくなってきた、男と言葉を交わすうちに、アマラン・サスは男が空腹に耐えかねて、一個のパンと一本の腸詰めソーセージを盗んで村人に捕まり、見せしめで顔を焼かれて村から追放されたと知った。

「たった、一個のパンと一本の腸詰めソーセージを盗んだ仕打ちとしては、酷すぎませんか」

「オレの村では盗みは重罪だ……村から盗人を出すワケにはいかないから……オレは追放されて、この森に辿り着いた」

「納得できません……いくらなんでも、そんな仕打ち」


 やがて体力が回復した男は、アマラン・サスが住む小屋で一緒に暮らすようになった。

 火傷跡は魔女の膏薬(こうやく)で、多少は治ったが完治には至らなかった。

 そのため男は、魔王の仮面をかぶって、アマラン・サスと一緒に暮らすようになった。

 そして、いつしか二人は自然と愛し合うようになり、アマラン・サスは新たな生命を胎内に宿した。


 ある日──小屋の床の掃き掃除をしながら、魔王の仮面をかぶった男がアマラン・サスに訊ねる。

「前から気になっていたけれど……生活の収入はどうやっているんだい? たまに数人の人物が交代でやって来て、乾燥させた薬草や刺繍(ししゅう)をした布を受け取っていくみたいだけれど? あの人たちは誰?」


 生まれてくる子供のための産着を縫いながら、アマラン・サスが答える。

「〝十三毒花(どくか)〟あたしの考えに賛同したり、あたしを慕って協力してくれる人たち……彼らが町で薬草や刺繍した布を、金品に交換してきてくれる」

「そうか……」

 魔王の仮面をかぶった男は、掃除を終了するとアマラン・サスの日を追うごとに膨れてきた、下腹部を優しく撫でながら言った。

「オレももうすぐ、父親になるのか……今だに信じられないな」

「あたしも……母親になるなんて、信じられない」

 そう言って、魔女と魔王の仮面をかぶった男は微笑んだ。


 数週間後──アマラン・サスは、十三毒花の一人、悪魔と契約した闇医者【恋するダテ男ストレリッチア】の助産で女児を出産した。


 女児を出産したアマラン・サスは、愛する夫と愛娘の三人で人生の中で、一番の幸福な時を過ごした……娘が四歳になって、魔法でも治療不可能な難病が発症するまでは。


 難病でベットに伏せって、大量の汗をかきながら苦しんでいる愛娘の看病をしている、母親のアマラン・サスに悪魔と契約を結んだ闇医者のストレリッチアが、悲しそうな口調で言った。

「この難病は神の裁きの病……魔法の類では治せない、魔法や魔女の薬草も万能じゃない」


 アマラン・サスは、悲しみの中で娘の看病を続けた、魔王の仮面をかぶった夫は、遠方の地に娘の病を治せる薬や医者を探しに数日前から出ている。


 ベットで苦しむ娘が、微かに目を開けて母親であるアマラン・サスに言った。

「お母さん……ごめんなさい、こんな病気になっちゃって……ごめんなさい」

 アマラン・サスの目に涙が溢れる。

 アマラン・サスは優しく娘の汗ばんだ額を、濡れたタオルで拭きながら言った。

「あなたは、何も悪くない……悪くない」


 アマラン・サスは、一日前に町の医師に娘を連れて行った時のコトを思い出していた。


 十三毒花数名の助けを借りて、夜遅くに町医師の家のドアを叩いて、出てきた目つきが悪い医者に娘の治療を願った時の医師の反応は冷淡だった。

「あんた、あの森の魔女だろ……娘の病気くらい魔法で治せるだろう」


 さらに、娘の治療を哀願するアマラン・サスに医師が投げかけた言葉は、娘を助けようとしているアマラン・サスの心を深くえぐった。

「迷惑なんだよ……魔女が診察を依頼する病院だなんて噂が立ったら、困るんだよ帰ってくれ」

 閉じられたドアを何度も叩きながら、アマラン・サスは叫んだ。

「お願いします! 娘を助けてください……お願いします」


 玄関で泣き崩れたアマラン・サスを見た十三毒花の一人……獅子の仮面をかぶって、背中に剣を背負った超人プロレスラー戦士【王者風格のプロテア】が、医者の家のドアを拳で叩き壊そうとするのを。

 十三毒花リーダーの【錬金のアルケミラ】が、首を横に振って制止した。


 数日後──難病の娘は母親のアマラン・サスの胸に抱かれて……旅立った。

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