第十九話・結婚式をブッ壊す!
政略結婚の式場がある、ウェディング町が近づいてきた。
ウェディング町の一つ手前の宿場で、メリメたちは思い切った行動に出た。
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夜──挙式道中の行列が宿泊している、宿屋をメリメたちは襲撃した。
プロテアが珍しく背中の大剣を、薪小屋がある庭で振り回してパフォーマンスをする。
「どうりゃあぁぁ!」
宿の中から飛び出してきた兵士たちを、大剣を地面に刺して立てたプロテアは、異世界プロレス技で次々と放り投げる。
「かかってこい! オレの平手打ちを希望する者には、気合の平手をサービスでしてやる! 元気ですかぁ!」
ギザギザのノコギリ刃剣を構えた、エリカの上半身がズレて下半身から落ちる。
「あんたらには恨みはありませんが……少し痛い目にあってもらいます」
上半身と下半身が別々に、兵士たちを攻撃する。
蹴りを兵士たちに浴びせている下半身のヤロウに、上半身のエリカが言った。
「なかなか、やるじゃない……わたしの下半身、地面近くで剣を振るうのも面倒だから……合体だ!」
上半身のエリカが飛び上がって、下半身のナロウと合体する。
「完成、エリカ・ナロウ完全体!」
エリカは上半身を回転させて、人間外の動きで兵士たちを攻撃する。
ジャスミンは、壁や地面を抜けて神出鬼没な動きで、兵士たちを翻弄した。
時には好みの若いイケメン男性兵士の肉体に、背後の壁から忍び出てきて抱きつくように融合して肉体と意識を奪って兵士たちに、ガセを流して混乱させる。
「向こうに裸の痴女が現れたぞ、あっちには目から毒血を出す毒入り娘が暴れているぞ!」
ゲッカコウは月光の下で踊っている。
プロテアたちが混乱を作り出していた時──政略結婚をさせらる、ムスカリは自分の部屋で、何事かと窓がない部屋でイスに座っていた。
部屋の壁を突き破ってメリメとアルケミラとロベリアが現れた。
丸太で壁を突き破ったメリメが、舌を出して言った。
「わりぃ、ドアに鍵が外から掛かっていたから、壁の方をブッ壊しちまったぜ」
丸太を天秤担ぎしたメリメが、ムスカリにもう一回質問する。
「本当のところはどうなんだよ……姉ちゃんは結婚したいのか? したくないのか? どっちなんだよ?」
失望令嬢はメリメの質問に、両手で顔をおおって泣き出した。
「挙式日が近づいてきても、まだ悩んでいます……自分の心がわからない」
タメ息を漏らしたメリメが言った。
「姉ちゃんが、その気なら美魔女小屋の隣にある空き小屋を、姉ちゃんに提供するからよ……そこで、何か売るものでも作って生活すればいい……監獄宮殿から本気で飛び出して離れる覚悟があるなら、オレは何も言わねぇぜ」
ロベリアとアルケミラが持参した麻袋の口を、ムスカリに向けて開ける。
「失望令嬢のあなたが、ご自分からこの袋の中に四つ這いで入って……わたしたちに誘拐拉致される覚悟があるなら、わたしは不要な催眠洗脳は行いません……どうしますか?」
イスから立ち上がったムスカリは四つ這いの、はしたない格好で、自分から進んで麻袋の中に入った。
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ウェディング町郊外の風車小屋に──挙式を明日に控えた、失望令嬢は麻袋に入れられて運び込まれた。
麻袋ごとイスに座らされたムスカリに、プロテアと一緒に運んできたアルケミラが優しい口調で訊ねる。
「苦しくはありませんか? 麻の袋ですから肌が痒くなっていませんか?」
麻袋に入った、失望令嬢は首を縦に動かしてから横に振った。
しばらくすると、今度は暴れる麻袋を運んで、シレネやヘルコニアたちが風車小屋に入ってきた。
暴れる麻袋をイスに座らせたシレネが、麻袋の口を開けると、中から美形の令息が顔を覗かせる。
連れ去られてきた明日、政略結婚をさせられる令息が深呼吸をして言った。
「なんだ、君たちはいったい! いきなり、わたしを麻袋に押し込んで! ここはどこだ?」
ロベリアとアルケミラが、向かい側のイスに座っている失望令嬢の、麻袋の口を緩めて愁いたムスカリの顔を覗かせる。
明日、政略挙式をさせられる二人は、初めて会ってお互いの顔を見つめ合う。
麻袋が取り払われ、メリメが言った。
「カッカッカッ……明日、挙式をする政略結婚の令嬢と令息が、初顔合わせのご対面だぜぇ……後は二人で話し合ってくれ」
そう言い残して、メリメたちは水車小屋を出た。
数分後──水車小屋に戻ってみると、令嬢と令息は会話が弾んで楽しげに談笑していた。
「最初は、どんな相手と無理やり政略結婚をさせられかと反抗心もありましたが……まさか、こんな美人で聡明で心優しい女性だとは……内に秘めた心も強い」
「わたしも、本心は監獄宮殿が勝手に推し進めていた政略結婚に、乗る気ではありませんでした……どんな殿方と結婚させられるかと不安でした。それが、こんな凛々しくしくて、お優しく、自信に溢れ、しっかりとした考えをお持ちのお方だとは」
政略結婚に困惑して、悩んだり反抗心を抱いていた二人は、すっかり打ち解けた。
政略結婚をさせられるコトに、同じ感情を抱いていた二人は共感して……一瞬で恋に落ちた。
熱視線で手を握って見つめ合っている、令嬢と令息にメリメが言った。
「カッカッカッ……お二人さん、そうやっていつまでも見つめ合っていたい気持ちもわかるけれどよ、オレたちの話しにも耳を傾けてくれねぇか……明日の挙式は二人は出た方がいい」
少し驚いた顔の失望令嬢ムスカリ。
「わたしたち、結婚するんですか?」
「そうだぜ、最初は形だけでな……そして、指輪交換の時に、本当の気持ちを示せばいい」
メリメは腰に手を当てて、ワスレナが小川で冷やして用意していてくれた、白い飲み物を呑んで言葉を繋げた。
「家柄も、地位も、名誉もそんなモノ、クソ喰らえと思ったら──両家の絆なんざ、断ち切って互いの手を握って式場から、すべてを捨てて飛び出せばいい……黒ユリ森に二人の新居は用意するぜ……カッカッカッ、あとは明日の二人の決断と覚悟次第だ」
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挙式日──失望令嬢ムスカリと令息の結婚式は、政略の陰謀の中で厳粛に行われた。
そして、結婚指輪の交換をする瞬間がやって来た。
司祭が言った。
「では、婚姻の誓いの指輪の交換を」
指輪を手にした令嬢と令息が、互いの目を見てうなづく。
二人は勢い良く、指輪を床に投げつけて言った。
「政略結婚なんて、クソ喰らえ!」
「監獄宮殿から飛び出せ! 希望令嬢!」
パニックになる両家、怒鳴り声が式場に響き渡る。
「指輪を無理やりハメて、婚姻を結ばせろ!」
数名に体を取り押さえられた、二人の指に強引に指輪をハメようとした──その時。
天井や壁を突き破って、メリメたち十三毒花が現れた。
丸太を抱えたメリメが、参列していた兵士たちをブッ飛ばして言った。
「結婚式なんざ、式場ごとブッ壊してやるぜ! 飛び出せ令嬢!」
崩れる式場……その中から脱出した、ムスカリと結婚相手の令息は、崩壊した式場の粉ボコリで真っ白になりながら、黒ユリ森の方角に向かって逃げて行った。
「カッカッカッ……政略結婚のブッ壊し完了」
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その後──家柄もなにもかも捨てた、監獄宮殿の令嬢と隣国の令息は二児をもうけ、慎ましいながらも……黒ユリ森で幸せに暮らした。




