第十八話・メリメの遠縁姉ちゃん──失望令嬢の政略結婚をブッ壊せ!
その日──町へ買い物に出ていたワスレナとエリカ・ヤロウは、町で配られていた一枚の告知紙を持って美魔女の小屋に帰ってきた。
「メリメさん、こんな紙がテッシュペーパーと一緒に、町で配られていましたよ」
ワスレナから手渡された紙をメリメが見ると、監獄宮殿に居る一人の令嬢が隣国の令息と近々結婚をすると告知されていた。
「カッカッカッ……へえ~っ遠縁のあのお姉ちゃん、こんな名前だったんだ、二回だけ会ったけれど、遊んでくれた優しいお姉ちゃんだった」
メリメの脳裏に浮かぶのは、いつも愁いを含んだ表情で、物静かな年上の女性だった。
アルケミラがチラシを覗き込んで言った。
「その結婚は、政略結婚みたいですよ……隣国の令息とツガイにさせるコトで、監獄宮殿一族の権力を高めようという目的が……」
「マジかよ、大人しい遠縁の姉ちゃんだったから……言いなりになっているのか」
「どうしますか? 結婚式ブッ壊しますか?」
さすがにメリメも、コレばかりは少し思案した。
「姉ちゃんの本音の、気持ちを聞かないで結婚式を、いきなりブッ壊すというのも乱暴だからな……慎重にリサーチしてから、ブッ壊してもいいんじゃねぇ」
アルケミラが、テーブルの上においてあった、結婚告知の用紙を取り上げて言った。
「ほう、メリメの遠縁のお姉さんの名前は【ムスカリ・オフィエル】と言うのですか」
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メリメの遠縁の姉の結婚式をいろいろと、探ってきたシレネの報告を受けて、大まかな作戦が決まったロベリアは、テーブルの上に街道の地図を広げて説明をはじめた。
「シレネの話しだと、挙式が行われるのは……ココ、隣国との国境にある〝ウェディング町〟の式場……両国の街道をそれぞれの家の令息と令息がやって来て、挙式日に初顔合わせをして政略結婚をして、ツガイにさせらる」
アルケミラが地図を見ながら言った。
「街道を移動中は、何もできませんね……せめて、途中の宿場町に宿泊している時に、お姉さんの真意を確かめる程度しか」
「カッカッカッ……挙式道中は、見守るしかねぇってコトか……おっ、途中に天然温泉の湯屋宿がある、こりゃいい」
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街道を、結婚産業が盛んなウェディング町への華やかな挙式道中に、街道筋の民衆は挙式道中が通り過ぎるまで、道端に土下座して頭を地面に下げ続けた。
その様子を、離れた森の中から見ていたメリメが言った。
「初めて見たけれど……民衆に土下座させるなんざ、ロクな道中行列の風習じゃねぇな……いずれ、オレがブッ壊してやる」
行列の先頭は馬に乗った宮殿騎馬隊、その次は『お静かに土下座しろ!』と書かれたプラカード隊が続き。
東洋地域から伝わった、車熊と呼ばれる先端にカツラを付けたような非実用的な長槍を持った車熊隊。
その次はマスカレード仮面をかぶって、身長が高く見える竹馬大道芸人や、大道パフォーマンスをしている大道芸人隊が続き。
その次をバトン隊、その次を鉄砲隊、さらにその次を演奏隊が続き、宮殿兵士隊が続く。
「ワケわかんねぇ挙式道中の行列だ……カッカッカッ」
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挙式道中は、湯屋が並ぶ温泉宿場町に宿泊した。
メリメたちも、安い宿屋に宿泊する。
今回のメンバーは、メリメ、ロベリア、アルケミラ、男女の仲を踊りで不仲にさせるゲッカコウ、プロレス技のプロテア、壁抜けのジャスミン、そしてエリカ・ヤロウの七人だった。
ロベリアが言った。
「隣国側の街道には、すでに国境を越えたメンバーを忍ばせてあるぜ、今回は二グループの共同作戦だぜ」
ロベリアが続けて喋る。
「兵士たちの警護を反らさないと、いけないな……それは、オレたちがやろう……メリメは遠縁のお姉ちゃんと接触して、本当に政略結婚してまでツガイになりたいのかの真意を」
「カッカッカッ……わかったぜ、陽動作戦だな」
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湯屋宿場の夜は更け、夜空の満月を眺めながら。
メリメの遠縁の姉ちゃんは、天然温泉掛け流しの露天風呂に入浴していた。
外から警護をしている兵士たちの声で。
「ライオンマスクの、プロレスラーが現れた!」
「壁抜け女が現れた!」
「うわぁぁぁ、上半身と下半身バラバラの幽霊女剣士だぁ!」
そんな声が聞こえてきた。
メリメの遠縁のお姉ちゃんが、湯船の中で何事かと思っていると。
露天風呂の外から柵を飛び越えて、メリメ・クエルエルが現れた。
入浴している、遠縁のお姉ちゃんにメリメが言った。
「久しぶり、お姉ちゃん」
愁いを含んだ表情でメリメの、遠縁のお姉ちゃんが言った。
「メリメ・クエルエル? ずいぶんと雰囲気が変わりましたね」
「お姉ちゃん聞かせてくれ……お姉ちゃんは、本心から顔を知らない男と政略結婚をしたいのか? 監獄宮殿の連中から言われるままに、流されているだけじゃねぇのか? 本当の気持ちを聞かせてくれ」
メリメの遠縁のお姉ちゃん──失望令嬢、ムスカリ・オフィエルが静かな口調で言った。
「わたしにも、わかりません……本当の気持ちがどこにあるのか」
「なんだよ、それ……オレは挙式をブッ壊そうとしているんだぜ、お姉ちゃんの本心を聞いてから──ブッ壊すか、どうするか決めようと思ったのに、お姉ちゃんが結婚するのがイヤなら、式場を丸ごとブッ壊してやる……お姉ちゃんのために」
「わたしの……ために?」
その時──露天風呂に宮殿兵士たちが、なだれ込んで来た。
「大丈夫ですか? 曲者!」
咄嗟にムスカリは、メリメを逃がすために、お湯から立ち上がって裸体を兵士たちに向かって晒す。
顔を手で隠して、指の間からムスカリの裸体を覗く兵士たち。
「うわぁ⁉」
「ムスカリさま、はしたない」
月明かりの中に、美しい裸体を晒しながら、ムスカリがメリメに小声で言った。
「さぁ、今のうちに逃げなさい」
メリメは跳躍して露天風呂から逃げた。




