表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/39

第十五話・監獄ダンジョンで生き残るのは誰だ?当然、全員だぜぇ

 Aグループ

【錬金のアルケミラ】

【悪意のロベリア】

【人間嫌いのアザミ】

 生首冷嬢姫メリメ・クエルエル


 入り口から入って、炎の明かりが灯る長い道が続いていた。

 歩きながらロベリアが言った。

「このダンジョンの道は、登ったり下がったりしている……おそらく、道の上下に別のダンジョン道が複雑に入り組んでいるのだろう」

 さらにロベリアは、シレネから教えてもらった原世界の、地下鉄路線というモノを語る。

「わずか一メートルくらいの距離で絶妙に交差している、路線もあるとシレネから聞いたことがある……このダンジョンを設計した者は天才か狂人のどちらかだ」


 道を進んで行くと、いきなり両側の壁に四角い穴が開いて、中からニワトリの群れが飛び出してきた。

「コッ、コッ、コッ、コッ」

「ケコッ、ケコッ、ケコッ」

 羽ばたくニワトリを見て、青ざめるメリメ・クエルエル。

「ひぃぃぃ! ニワトリ! 怖い!」

 その場に頭を押さえて震えて、しゃがみ込むメリメ。

 メリメの庶民娘の体に残る記憶──メリメの首を移植された娘の体は、ニワトリに強いトラウマを持っていた。


 さらに、天井から今度はカエルが降ってくる。

 メリメの頭が記憶している、カエルへの恐怖心。

「ぎゃぁぁぁ! カエル!」

 ダブルの恐怖に耐えられなくなって、白目を剥いて気絶するメリメ。


 アザミが構えた倭刀を鞘から引き抜いて、奇妙な動きの剣技に移る。

「ラジオ体操第二剣」

 アザミの動きに釣られて、ニワトリたちも早朝体操をして。

 満足したニワトリたちは、入り口に向かって走り去った。


 天井から降ってきたカエルは、ロベリアとアルケミラがつかんで、メリメから離れた入り口の方に投げ捨てた。


 弱点のカエルとニワトリがいなくなって、意識を取り戻したメリメは、涙目で立ち上がって腰に手を当てて笑う。

「カッカッカッ……ダンジョンのトラップ()も、たいしたコトはねぇな……怖かった」


  ◇◇◇◇◇◇


 Bグループ

【粘着のシレネ】

【危険な快楽のゲッカコウ】

 殺し屋……エリカ・ヤロウ


 天井から垂れ下がっている吸血(つる)植物の、蔓を戦闘ナイフで切り落としながら進むシレネが言った。

「監獄宮殿の連中は、メリメ・クエルエルの弱点のカエルとニワトリをなぜか、把握していた……そして、エリカ・ヤロウの弱点も連中は知っていると話していたのを聞いた覚えがある」


 足を止めた、エリカ・ヤロウが少し考えて言った。

「そう言えば、監獄宮殿で傭兵剣士の採用面接をした時の、履歴書に『弱点』書き込んだな」

 ゲッカコウが、踊りながらエリカに訊ねる。

「なんてぇ、書き込んだのぅ」

「それは……」


 エリカが答える前に、吸血蔓ゾーンを抜けた先の床に、異様な光景が広がっていた。

 カマクラ型をした物体が、百メートル渡って並べられていた。

 よく見ると、オレンジ色をしたモノや、テッペンに赤い点印を付けたモノ……小型で茶色や白や紅色をしたモノもあった。


 その物体を凝視していたエリカの顔から、見る見る血の気が引いていく。

「ひッ! 〝マンジュウ〟怖い!」

 肉まん、ブタまん、

あんまん、ピザまん、温泉まんじゅう、紅白まんじゅう……さまざまなマンジュウが、床に置かれていた。

 エリカの下半身が、上半身を振り落として逃げる。

「先に逃げるな! わたしの下半身! マンジュウ怖い!」

 震え続けるエリカに代わって、シレネとゲッカコウがマンジュウを食べて排除していく。

 駆除が完了した、シレネが膨れた腹を押さえながら言った。

「ゲフッ……監獄宮殿の連中は油断できない……エリカの弱点のマンジュウを、短期間でこれだけの数を用意できるとは」

 口元についたアンコを指先で拭ってナメながら、お腹が膨れたゲッカコウが言った。

「ふーっ、お腹が重い……今のあたしには、渋めのお茶が怖いぃ」


  ◇◇◇◇◇◇


 Cグループ

【夜の星イブニングスター】

【魅力ある金持ちラナンキュラス】

【官能的なジャスミン】


 眠りながら先頭を歩くイブニングスターは、今の昼間の時間帯は、なんの役にも立たない木偶(でく)の坊だった。

「ぐぅぅぅ……むにゃむにゃ……ギリギリギリっす」


 ラナンキュラスが手から出した、どこからか持ってきた紙幣(しへい)を。

「ダンジョンにお金の花を咲かせましょう、お札の道をつくりましょう」

 そう言いながら、後方に紙吹雪のように飛ばして、監獄宮殿の兵士たちが目の色を変えて、他人を押し退けてまで拾い集めている奇妙な光景が広がっていた。


 ラナンキュラスが、お札をバラ撒きながら言った。

「お金を拾った人は、十三毒花の味方になりましょう……十三毒花のために働きましょう、この先のトラップを解除しましょう……トラップ解除した人には、より多くのお札をあげましょう」

 札を手にした数名の兵士が前方へと走り、仕掛けられていたトラップを次々と解除していった。


 通路壁の向う側から、悲鳴や物音が聞こえたジャスミンがラナンキュラスに明るい声で言った。

「あはっ、ちょっと壁をスリ抜けて、他のみんなのところを見てくるね」

 そう言う通りジャスミンは、壁をスリ抜けて消えた。


  ◇◇◇◇◇◇


 Dグループ

【恋するダテ男ストレリッチア】

【風変わりなヘリコニア】

【王者の風格プロテア】


 一番戦闘力が高いグループは、次々とトラップを粉砕して、現れる兵士たちを撃破していった。

 背中の大剣はダンジョンの中では、使い勝手が悪いと判断したプロテアは、大剣はリングパフォーマンスとして使わずに。


 プロテアの異世界プロレス技と、ヘリコニアの腕から発射される、連射ゴム弾丸に兵士たちの悲鳴が響きわたる。

「ぎゃぁぁぁ、ジャーマン・スープレックスされたぁ、ギブギブ!」

「痛っ、痛っ、ゴムの弾丸が微妙に痛い!」


 天井落としのトラップにも、ヘリコニアとプロテアが両腕で押さえている間に、ヘリコニアの胸部から飛び出した本体の幼女ヘリコニアが、作業服姿でトラップを解除して。

 何事も無かったかのように、機械のヘリコニア内部の操縦席に戻る。

 ストレリッチアが、髪をクシでとかしながら言った。

「ダンジョンの中では、闇医者は何もやるコトはないですね……残念」


  ◇◇◇◇◇◇


 Eグループ

【わがままな美人デンドロビウム】

【黄金の大陽ヘリクリサム】

 毒血のワスレナ


 このグループが、グループ分けてされた中では一番、流血を激しくダンジョン攻略をしていた。

「アタイの魂の叫びを聴いて、魂を沸騰させろ! ロックだぜ!」

 デンドロビウムの一人ロックの演奏を聴いた兵士たちの、体の穴から熱い血が噴き出す。


 ワスレナが目からビームでも出すように、毒血を兵士たちに向かって噴出させる。

「浴びなさい! イジメられてきた被害者の、悲しみと怒りの毒血を!」

「ぎゃぁぁぁ!」


 デンドロビウムとワスレナの二人と異なり、ヘリクリサムだけは兵士の一人から槍で串刺しにされていた。

「〝油断した体(つら)く槍の先わたしの異能これで発動〟」

 槍で貫かれたヘリクリサムの体が、服を着た姿で分裂して、団子のように後方に連なる。

「〝まだ痛いさらに分裂槍ダンゴどんどん増えるわたしの体〟」


 ヘリクリサムの体が増殖分裂して、槍から抜けた一体が、さらに増える。

 怯えた槍部隊の兵士たちが、分裂したヘリクリサムを貫くたびに、ヘリクリサムは増えていく。

「うわぁぁぁ、なんだコイツ……気持ち悪い!」


【黄金の大陽ヘリクリサム】──体が生命の危機を察知すると、自己防衛でプラナリアのように分裂増殖をする、生命の危機が去ると一体を残して、分裂したヘリクリサムは消滅する。


 ワラワラとダンジョン通路に群れる同じ顔を、赤い血の目で見ながらワスレナは。

「エグっ」と、呟いた。


 そんなワスレナの前を、壁からスリ抜けてきたジャスミンが、状況を見て言った。

「ヤッホー、元気……うわっ、血だらけ……このグループは大丈夫そうだね、他のグループ見てくるね」

 そう言って、また壁をスリ抜けてジャスミンは消えた。

 いきなり、壁から現れて通過していったジャスミンを見て、ワスレナが。

「ジャスミン一人で、監獄ダンジョン簡単に攻略できんじゃねぇ?」

 そう思った。


  ◇◇◇◇◇◇


 メリメ・クエルエルのAグループが、数々のトラップと襲いくる兵士たちを退けて。

 一番乗りでアマラン・サスが捕らえられ、ドア無しの円形部屋に幽閉されていた、ダンジョン中央部屋に到達した。


「お母さん……さあ、一緒に帰ろう」

「メリメ、きっと来てくれると信じていた……ダンジョンの中で、どこかケガしていない? 痛いところはない?」

「カッカッカッ……大丈夫だぜぇ」

 メリメが持ってきた魔王の仮面を、かぶるアマラン・サス。

「いつの間にか、たくましくなったわねメリメ……だんだんと次期魔王の風格も備わってきた、お父さんの形見のこの仮面を渡せる日も近いわね」


 メガネ冷嬢姫で、狼の耳と房尾を持つケモ耳、ケモ尾冷嬢姫は、腰に手を当ててを豪快に笑った。

「カッカッカッ……おうっ、監獄宮殿にいた時よりも、腕に筋肉はついたぜ」


 アルケミラが歩いてきたダンジョンの道を見て言った。

「さて、問題はここからです……どうやって、迷宮の監獄ダンジョンから脱出するか、おそらく通過してきた通路は、変化を繰り返して中に入った者を二度と外に出さないのが……この監獄ダンジョンの本来の役割……どうすれば外に」


 その時──壁をスリ抜けてジャスミンが現れた。

「あっ、美魔女さまの所にたどり着けたんだ……ゴール、おめでとうございます」

 ロベリアが、ジャスミンの言葉に苦笑する。


「ダンジョンはゴールして終わりじゃねぇぜ、脱出するまでがゴールだぜ……ジャスミンだったら、壁をスリ抜けて外に出られるだろうけどよ」

「確かにあたしなら、ダンジョン外に出られますけれど……さっき、外に出て見てきたら夕方になっていて、日が沈みはじめて、ミッドナイトブルーになっていましたよ」


 アルケミラが言った。

「もう、そんな時間……ダンジョンの中は、時間の経過がわかりませんね……ん? 日が沈んでミッドナイトブルー?」


 その時──ダンジョンの中を強風が吹き抜け、イブニングスターが発生させた竜巻が、建物内の屋根を吹き飛ばして縦断通過して、ダンジョンを真っ二つにブッ壊した。


 壊れた通路の随所から、グループ分けされていた十三毒花たちが顔を覗かせる。

 ワスレナが言った。

「あっ、監獄ダンジョンが真っ二つにブッ壊れて、外に繋がる大通りができた」


 全員の無事な姿を見た、メリメ・クエルエルが腰に手を当てると、星空を見上げて笑った。

「カッカッカッ……監獄ダンジョンのブッ壊し完了! カッカッカッ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ