第十三話・囚われた美魔女アマラン・サス……監獄ダンジョンを、ブッ壊せ!
メリメたちが半砂漠から本拠地にしている黒ユリ森の、美魔女アマラン・サスの小屋に戻ってきた時──小屋の中に異変が起こっていた。
室内が荒らされ、アマラン・サスの姿はどこにも無かった。
床に落ちていた、魔王の仮面を拾い上げてメリメ・クエルエルが呟く。
「お母さん……いったい何が?」
アルケミラが、落ちていたボタンを拾い上げて言った。
「おそらく、監獄宮殿の兵士たちが来て、アマラン・サスを連れて行ったのですよ」
「どうしてわかる?」
アルケミラは、拾ったボタンをメリメの方に向ける。
「これは、兵士の服の肩ボタンです……アマラン・サスは、あまり抵抗しないで連れて行かれたようです、おそらく抵抗したら娘のメリメ・クエルエルに危害を加えるように脅されて」
魔王の仮面を抱きしめて、メリメが言った。
「どうすればいい、アルケミラ……お母さんはいったいどこに?」
「おそらく、監獄宮殿の一族が造った罪人を閉じ込めておく〝監獄ダンジョン〟に……すぐには、アマラン・サスは殺されないでしょう」
「どうして、そう思うんだ」
「わたしたちを、誘き寄せる餌にするために」
少しの沈黙の後にアルケミラが言った。
「監獄宮殿から諜報活動を続けている【粘着のシレネ】を除いた、十三毒花を集結させましょう……十三毒花の力を集結させなければ、監獄ダンジョンをブッ壊して、アマラン・サスを救い出すコトは困難です」
こうして、小屋と監獄宮殿にいる以外の十三毒花に伝令カラスが飛び。
十三毒花が、黒ユニ森の美魔女小屋に集結した。
◇◇◇◇◇◇
【粘着のシレネ】を除く十三毒花。
【錬金のアルケミラ】
【悪意のロベリア】
【危険な快楽のゲッカコウ】
【夜の星イブニングスター】
【王者の風格プロテア】
【風変わりなヘリコニア】
【魅力ある金持ちラナンキュラス】
【官能的なジャスミン】
【恋するダテ男ストレリッチア】
【わがままな美人デンドロビウム】
【人間嫌いのアザミ】
そして、最後に現れたのは黄色い服を着た。
吟遊詩人風の男──【黄金の大陽ヘリクリサム】だった。
ヘリクリサムが、片手に気絶させた兵士二人の服の首根っこ……もう一方の手に、仕留めたウサギの耳を持って。
足でドアを開けて部屋に入ってきて、兵士とウサギをアルケミラの方に放り出して言った。
「〝捕まえた森に潜んだ兵士とウサギ後は任せた好きにしろ〟おっと、字足らず……森に潜んで小屋の様子を伺っていたから、ウサギと一緒に捕まえて連れてきた」
ヘリクリサムは、会話の中に短歌を混ぜる。
小屋の中に居るのは、十二人の毒花とメリメ・クエルエル、エリカ・ヤロウ、ワスレナを加えた計十五人。
獅子のプロレスラーマスクをかぶり、背中に大剣を背負ったレスラーパンツ姿の、プロテアが苦笑しながら言った。
「さすがに、この人数は小屋が狭いな」
プロテアが背負っている大剣を見て、ロベリアが訊ねる。
「剣を大剣に変えたのか?」
「今回は監獄ダンジョンに突入すると聞いたからな……このくらいの厚みがある大剣じゃないと、折れたら困るだろう」
倭刀を持ったアザミが、ホワイトの輝きを消した黒目で呟く。
「プロテアは剣よりも、体術のプロレス技で戦うけれどな」
踊り子姿で肢体をくねらせてながら、ゲッカコウがアルケミラに訊ねる。
「それでぇ、どうやって監獄ダンジョンに突入するのぅ? 作戦はぁ?」
デンドロビウムが、勢い良く異世界楽器を掻き鳴らして言った。
「パッションとビートが熱いぜ! アタイのロック魂で敵の血液を沸騰させてやる!」
アルケミラが言った。
「監獄宮殿に潜入しているシレネから、監獄ダンジョンの情報を伝えてくる手はずになっています──監獄宮殿の一族が、こちらの情報をどこまで、つかんでいるのかでも作戦は変わってきますから」
◇◇◇◇◇◇
監獄宮殿──海が窓から見える尖塔。
赤いメイド服姿のシレネが入手した、監獄ダンジョンの内部図を凝視していた。
「よし、念のため内部構造は記憶した……この盗み出した図面を、使い魔カラスに運ばせれば」
その時──窓辺に佇むシレネの背後から声が聞こえてきた。
「そこで何をしている……前々から怪しいヤツだと思っていたが」
立っていたのは、細いレイピア剣を持った監獄宮殿一族の一人だった。
「おまえ何者だ?」
誤魔化すコトは、もう不可能だと悟ったシレネがメイド服の糸を引くと、服がバラバラになって緑色のグリーンベレー姿のシレネが現れる。
レイピア剣を持った男が、叫びながらシレネに襲いかかる。
「どうやって、あのメイド服の中に入っていた!」
シレネは腰の鞘から引き抜いた戦闘ナイフを、窓外の石レンガの隙間に後ろ手で突き刺すと、ナイフを踏み台にして窓から空中に飛び出した。
レイピア剣を持った男の「あッ⁉」という声を背中で聞きながら、窓から飛び出したシレネの体を……飛んできた大ガラスが背中でキャッチして、シレネを乗せた大ガラスは、そのまま監獄宮殿から離れて飛び去った。
この時、シレネの片目と片耳には原世界の映画館で無料で観ている、冒険映画やアクション映画やスパイ映画のワンシーンと音楽が流れていた。




