第十話・十三毒花でない新たな同志ワスレナ
「そうですか……入学してしばらく経過してから、突然原因不明の、イジメがはじまったのですか」
生徒会室でワスレナの話しを聞き終わった、アルケミラが静かな口調で言った。
「辛かったでしょう……でも、もう大丈夫、わたしたちに任せてください」
生徒会室にいる、メリメ、ロベリア、ジャスミン、デンドロビウム、アルケミラの五人は多少厳しい顔つきでワスレナを見た。
メリメが言った。
「なんでぇ、学校側が隠していただけで、裏では陰険なイジメが横行しているじゃねぇか」
ワスレナはさらに、いつの間にか生徒階級に組み込まれていて、自分が底辺レベルに設定されてしまっていたと泣きながら訴えた。
「登校したら、逆さまにされた机に落書きされていたり……下駄箱に生ゴミが入れられていたり、酷い時にはネコの死骸が机の中に」
顔を手で覆って泣くワスレナに、メリメが言った。
「なぁ、一度は死んで捨てようとした、その体……オレに預けてくれねぇか」
「えっ⁉」
「オレに考えがある、イジメの加害者に対抗できる力を与えてやるぜ……十三毒花の中には闇の医術に通じた者がいる、ワスレナの体を改造してイジメられないメンタルとフィジカルを作るってやるぜぇ……カッカッカッ」
こうしてワスレナは、悪魔と契約を結んだ闇医者【恋するダテ男ストレリッチア】の手術を受けて生まれ変わった。
◆◆◆◆◆◆
数日ぶりに登校した、ワスレナは両目に包帯を巻いていた。
メリメ・クエルエルに手を引かれて、メリメが呼び出したワスレナをイジメていた男女の前に立ったワスレナに、メリメが言った。
「さあ、包帯を外してワスレナをイジメていた者たちを、優しい哀れみの目で見ろ」
ワスレナが包帯を外して、ストレリッチアに処置された目を開けて叫ぶ。
「思い知れ! イジメられて自殺するまで、追い詰められた者の気持ちを!」
ワスレナの目から、毒の血が噴出される。
毒血を浴びた加害者たちが悲鳴を上げる。
「ぎゃぁぁぁ!」
「熱い!」
ワスレナの報復は終わった、メリメのどうしてワスレナをイジメのターゲットにしたのかの質問に、哀れな加害者たちは。
「ストレス発散」
「クラスに生徒序列を作って、一人の生贄が必要だったから」
そう答えた。
その返答を聞いた、メリメは近くにあった大岩を頭上持ち上げると、笑いながら言った。
「カッカッカッ……そんなくだらねえ理由で、ワスレナをイジメていたのか……哀れな連中だな、イジメていた方は卒業して覚えていなくても、イジメられた方は一生心に傷が残るコトもあるんでぇ!」
メリメは持ち上げていた大岩を、哀れな加害者の近くに放り投げて言った。
「二度とワスレナをイジメるな……今度イジメたら、大岩でブッ潰すぞ……カッカッカッ」
メガネ生首冷嬢姫のメリメが、房尾を振ってケモノ耳を動かしながら最後に一言加えた。
「おまえたち、追い詰められたワスレナから、刃物を向けられなくてラッキーだったな」
◇◇◇◇◇◇
放課後──毒血のワスレナを加えた、メリメたちは乗っ取った生徒会室で、今後のブッ壊し計画を練っていた。
黒板にチョークで、計画のタイトルを書いたメリメが言った。
「頭の中にあった計画が決まったぜ〝ニセ文化体育祭〟だ……カッカッカッ」
ロベリアが、興味深そうな表情で言った。
「おもしろそうじゃねぇか……詳しく聞かせてくれよ」
「生徒主催で、体育祭と文化祭を合同させた学園イベントを開催する……そこで、デンドロビウムがステージで生演奏をする」
「やっと、アタイの出番か」
弦が付いていない異世界エレキギターを掻き鳴らしたり、ギター本体を叩いたり、吹奏楽のように吹き鳴らす【わがままな美人デンドロビウム】
デンドロビウムが持っている楽器は、それ一つで弦楽器から打楽器、鍵盤楽器、吹奏楽器まで万能な音を出せる……一人ロックバンド……一人オーケストラも可能な異世界楽器だった。
メリメが言葉を続ける。
「問題はどうやって、生徒にやる気を出させてニセ文化体育祭に、輝きを持った目で参加させるかだぜぇ……このブッ壊しは、死んだ目の生徒参加じゃ意味がねぇ」
ワスレナが控えめに挙手をして言った。
「あのぅ、学園イベントに参加したら……生徒に進学に有利な単位をプレゼントするというのはどうでしょうか? その撒き餌ならアリンコのように群がって生徒が、参加してくると思うのですが?」
「カッカッカッ……そのアイデア採用! ワスレナあんた天才だ!」
体のラインがはっきりと、わかるスキンスーツを着たジャスミンが言った。
「あたしは、何をすれば?」
アルケミラが、ジャスミンに言った。
「ジャスミンには、ジャスミンにしかできない仕事があります……ホストクラブ通いをするために、横領を続けている教師に鉄槌を下す役目が」
◇◇◇◇◇◇
ニセ文化体育祭の準備は、単位の撒き餌に目を輝かせた生徒たちの手で着々と進み。
開催日までこぎつけた。
「カッカッカッ……教師の介入や妨害はさせねぇ、これは生徒主体の学園イベントだぜ」
ニセ文化体育祭のプログラムも順調に進行して、体育館のステージでデンドロビウムの、一人ロック演奏がはじまった。
一つの楽器から繰り出される、熱いビートのドラム音やリードやベースのエレキギター音……管楽器や鍵盤楽器の音まで、デンドロビウムは自在に出せた。
「弾け飛べ! アタイの魂のパッションとビートを、その身と心に刻み叩き込め!」
生徒たちは、デンドロビウムの魂の音楽に引き込まれていく。
会場の熱気が最高潮に到達した時──宮殿兵士たちが演奏を妨害しようと体育館に、なだれ込んできた。
デンドロビウムの演奏熱が上昇する。
「やっぱり来たか、その乱入も想定済み! アタイのロックを聞いて熱く沸騰しろ!」
デンドロビウムのロックが兵士たちの血液を沸騰させて、熱くなった血が兵士たちの血管を破って体から噴き出す。
「があぁぁぁ!」
「体が熱い!」
イジメをしていた一部生徒の体からも、溜まっていた、イジメの悪血が噴き出す。
血が噴き出した兵士と、生徒たちは背中に天使の翼を生やして昇天していく自分の姿をイメージしていた。
【わがままな美人デンドロビウム】──熱い魂ロックのリズムで、聞いた者の血を沸騰させて噴出させる異能力を持つ。
デンドロビウムの演奏が終わり、血飛沫が飛んだステージからデンドロビウムが引っ込むと。
入れ替わるように、ステージ上にメリメたちを校門で、口うるさく言っていた風紀教師が出てきた。
風紀教師の女性は、一点を見つめたままステージ上から、生徒たちに向かって震えながら言った。
「告白します……あたしは、学園の金をホストクラブ遊びをするために、長年着服してきました……ごめんちゃい」
それだけ告げると、女性教師は前へ向かって顔面から倒れ、背後にジャスミンが立っていた。
【官能のジャスミン】──他人の肉体と融合するコトで、その相手の肉体と意識を奪う……壁を抜ける異能力も持っている。
融合した相手の栄養分を吸収して、餓死させるコトもできる。
着服風紀教師が倒れると、今度はワスレナがステージに上がってくると。
マイクを手に深呼吸をしてから、大声で怒鳴った。
「聞いてください! あたしは! イジメられていました! あたしをイジメていた野郎ども、よく聞け! おまえらはクソ野郎だぁぁ!」
◆◆◆◆◆◆
黒ユリ森の美魔女アマラン・サスの小屋で、学園を辞めたワスレナがシナモン紅茶をカップに注いでいるのを見て。
メリメ・クエルエルが訊ねた。
「カッカッカッ……学園を辞めて後悔をしていないか?」
「別に……世界が変わっただけですから、イジメられた思い出しかない学園なんて、クソッくらいです」
そう言って、ワスレナはエリカ・ヤロウの下半身テーブルに乗せた大皿から、切り分けた焼き菓子を一口食べて微笑みながら言った。
「腐った学園のブッ壊し完了です!」
「カッカッカッ……これで学園の意識改革ができていたら、いいんだけれどな」




