第一話・〔エピソード0〕宮殿からとりあえず飛び出せ令嬢
美魔女によって、次期魔王候補にさせられた、ご冷嬢姫が腐った国を壊します
監獄宮殿の広間に集まった一族の者たちは、前方で腰に手を当てて不敵な笑みを浮かべている、メガネ令嬢に怯えていた。
「なんでぇ、その幽霊でも見た顔は……おう、一度宮殿から脱出した生首令嬢姫の【メリメ・クエルエル】さまが、ワザワザ〝監獄宮殿〟に帰ってきてやったんだ……ちったぁ、感謝したらどうだ……カッカッカッ」
広間にいる一族の者たちは、我が目を疑う。
特に一族の実権を握った、数名の驚きは尋常ではなかった。
(どういうコトだ? 確かにメリメ・クエルエルは、策略で斬首刑にして、首がカゴの中に落ちたのは、ここにいる全員が確認している……その死んだはずの娘が、どうしてここにいる?)
メリメ・クエルエルは、異常な筋力で天井と床から引き抜いて多数の兵士をブッ飛ばした、巨大な石の円柱を広場の中央に放り投げると。
メリメを罠にかけて殺害した、顔面蒼白の一族に向かって言った。
「わりぃ、まだこの体の使い方がよくわからねぇから……力加減ができねぇ……カッカッカッ」
そう言って、処刑した時には無かった。
頭のケモノ耳と、尾てい骨のケモノ尻尾を動かした。
メガネ令嬢。
細腕の異常筋力令嬢。
ケモ耳、ケモノ尻尾の令嬢。
三種の特徴を備えた、最強の令嬢こと、心臓の鼓動が少ない冷嬢となったメリメは、自分を生まれた時から閉じ込めていた、監獄宮殿に帰ってきた。
怪しげな奇術団を引き連れて。
数名で構成された、奇術団が持ち込んだ、大砲の中に入るメリメ。
「これから、監獄宮殿から人間大砲で外界に飛び出してやるぜ……カッカッカッ」
大砲に点火され、メリメ・クエルエルは勢い良く、大砲から発射されて監獄宮殿のステンドグラス窓を、突き破って外に飛び出して行った。
「宮殿から飛び出せ! 令嬢! カッカッカッ……よろしくぅ」
宮殿に残された奇術団を、兵士たちが取り囲む。
目元をマスクで隠した【十三毒花奇術団】のリーダー男が兵士たちに向かって言った。
「やめておきなさい……わたしたちを無事に監獄宮殿から帰すのが一番の得策ですよ……ムダに命を散らすコトもないでしょうに」
兵士たちが剣を構えたのを見て、リーダー男は少しタメ息を漏らす。
「しかたがない【人間嫌いのアザミ】殺さない程度に、相手をしてあげなさい」
アザミと呼ばれた人物がかぶっていたフード付きのローブを勢い良く脱ぐと、ポニーテール髪を揺らす和の女性剣客が現れた。
倭刀の柄に軽く手を添えて、姿勢を低く構えたアザミの目から、ホワイトの輝きが消えて、無感情な瞳に変わる。
呟く女性剣客アザミ
「ラジオ体操第一剣」
アザミが奇妙な動きで倭刀を振る。
兵士たちは今まで見たことがないアザミの刀の動きに、翻弄されて次々と倒されていく。
「なんだ! この女の動きは?」
「今までに見たことがない剣技だぞ!」
次第に道を開けて、十三毒花奇術団を通す兵士たち。
奇術団が立ち去っていくのを、苦々しい顔で眺めていた。
一族の誰かが小声の呟きをするのが聞こえた。
「メリメ・クエルエルを抹殺しろ……生かせておくと、我々に災いをもたらす……美魔女の【アマラン・サス】も一緒に始末しろ」
メリメ・クエルエルは、令嬢ですがその性質から『冷嬢』とも呼ばれています……ですから冷嬢は誤字ではありません




