表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

クリスマス関連作品

クリスマスのお粥

作者: 地野千塩

 クリスマスイブの前日に体調不良になってしまった。


 鈴沢花は下唇を噛みながら、ベッドの上で寝返りをうつ。


 去年は結婚記念日も兼ねてローストビーフやケーキも焼いて楽しく過ごした。そう、花にとってクリスマスイブは結婚記念でもあり、毎年楽しみだった。結婚五年たった今も変わらない。六回目も楽しいクリスマスイブになると思ったのに。


 友達の夫婦は子供がいる所も多い。残念ながら花の夫婦には子供が恵まれなかった。これでも不妊治療も頑張ったが、体力的にも金銭的にもメンタル的にも苦しくなってしまって、諦めていた。その分、夫婦仲良く暮らそうと決め、余計に結婚記念日&クリスマスイヴも楽しみだったのだが。


 よりによってクリスマスイヴ前日から下痢と発熱に見舞われ、医者からも薬を飲んで安静にしてと言われてしまった。


「そんな、何で? よりによって……」


 花は悔しく下唇を噛み締めるが、どうしようもない。


 これも諦めるしかないと思った時、夫が帰ってきた。


 正直、夫はイケメンでも若くもないが、丸眼鏡がよく似合う優しい人だった。帰ってきただけでもホッとしてまうが、今日は夫が夕飯も作ってくれるという。


「そんな、仕事も忙しいのに。ごめんね」

「いや、良いんだよ。花が体調不良とか、心配じゃん。お互い様だし」


 夫は腕まくりをし、キッチンの方へ。十五分ぐらい経った時だろうか。ホカホカと甘い香りが漂ってきた。


「え、なにこれ。お粥?」


 夫が持ってきてくれたのは、ミルク粥だった。シナモンの匂いもちょっとしてオシャレだ。花はどちらと言えば和食より洋食の方が好きなので、食欲がそそられた。体調不良でもお腹は減るらしく、グゥーという弱々しい音も響く。


「フィンランドや北ヨーロッパではクリスマスにお粥を食べる習慣があるらしいよ」

「本当?」


 クリスマスにお粥。初耳だ。信じられない。


「今日、お客さんに聞いたんだけど、そっちの方では、クリスマスに納屋にミルク粥を供えると、妖精さんが守ってくれるという良い伝えがあるらしいよ」

「へぇー」

「日本ではあんまり馴染みがないけど、お客さんにレシピ聞いて作ってみた!」


 夫の無邪気な笑顔を見つつ、匙でお粥をすくう。どろっと柔らかなお粥だが、甘い香りが心地よい。実際、味もかなり甘やか。この味に甘やかされているみたいで、花は薄く目を細めていたが。


「あれ? お粥にアーモンドが一個入ってるよ?」


 器の底の方にアーモンドがあるのに気づいた。お粥にアーモンドなんて入れるものだろうか。花は首を傾げていた。


「これもフィンランドのクリスマス粥の風習みたいで、アーモンドが入っていたら当たり! 願いが叶うらしいよ!」


 夫は笑顔で手を叩く。


 当たりも何も。夫がわざと入れただけだろうに。頭では冷静な事を考えていたが、これは素直に喜んでも良いはず。


 お粥も甘いし。今日一日ぐらいは、甘やかされても悪くはない。


 夫の少し薄くなった髪を見ながら思う。来年も再来年も、おじいちゃんとおばあちゃんになっても二人でクリスマスと結婚記念日を祝えますように。


 花も願いはただ一つだけ。


 心の中で祈ると、硬いアーモンドも食べる。本当に願いが叶うような気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ