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緑谷中学吹奏楽部  作者: taki
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響と大輝

新学期が始まって一週間が経った。琳太郎と吹部のメンバーは朝七時半に校門前に集まり、演奏を始めた。

琳太郎が加入した勧誘活動はまずまずの成功を収めた。登校する新入生のなかで、一人、また一人と、吹部の周りに集まった。足を止めて聴き入っている。それくらい琳太郎の選曲はよかったし、キーボードのサポートで演奏もビシッとキマった。

琳太郎は楽曲演奏の合間に、銀之丞にMCをやらせた。マイクがないので地声だが、部長の直樹や副部長の梅子よりも喋りが上手いと認めたからだ。それぞれのパートが自己紹介をしつつ、短い曲を演奏させる。そうやって楽器紹介をして、認知度を高めていく。まずは新入生達に、楽器を知ってもらうことが大切だ。

さらに、琳太郎がたくさんの楽器を次々に吹き、それを銀之丞が説明した。今、この部に必要な楽器パートはホルンやアルトサックス、テナーサックス、チューバである。琳太郎は大抵の楽器は演奏できた。たった一人で次々に吹きこなすパフォーマンスを見せると、新入生達は目を輝かせて喜んだ。さらに、琳太郎はパーカッションもこなした。このパートもメンバーが足りないので、きっちり紹介しなくてはならない、と考えた琳太郎は、一つ一つ丁寧に披露する。よく知られているトライアングルやタンバリンのみならず、ラテン音楽でお馴染みのコンガやボンゴ、アゴゴ、カウベルのほか、圧倒的な存在感を持つゴングも鳴らしてみせた。度胸のある叩きっぷりに心奪われる生徒は、決して少なくなかった。

「さあー、みんなー、吹部に入らないかー? 俺たちはー、全国をめざーすー」

銀之丞の声はゆったりしていて陽気だが、言うべきことは言っている。そうだ。吹部は全国大会を目指す。新入部員をバシバシ入れて。全員で力を合わせて。直樹が真剣な眼差しで銀之丞の姿を見ていると、見物する生徒達のなかで、吹き出す者がいた。どこからともなく「ちんどん屋」と蔑む声も聞こえてくる。直樹と梅子は吹き出す連中を睨みつけた。二人とも殺気だっている。

放課後になると、ついに仮入部希望者が二人、やってきた。

鷺沼(さぎぬま)大輝(だいき)です。初心者です。クラリネット希望です」

筋肉質でがたいがよく、色黒な一年生男子が自己紹介した。

「鷺沼君、よろしく。まだ仮入部期間だから、いろんな楽器を試していってよ」

そう言って、健治は愛想良くクラリネットを大輝に持たせてやった。もう一人の女子は二年生で、黙って突っ立っている。

「早速来てくれたんだな。ようこそ吹部へ」

琳太郎が嬉しそうに響の両手を握った。響は高速で瞬きしながら、うわずった声で喋り出した。

「鶴岡響。二年です。クラリネットの経験者です」

「書道部だったよな? やめたのか?」

琳太郎が不思議そうに聞いた。

「いえ。あっちは活動する日が少ないので、先輩にお願いして、兼部することにしました。よろしくお願いします」

響は琳太郎に丁寧に頭を下げた。

「鶴岡さん。何にしろ、うちに来てくれて嬉しいよ。と言ってもまだ仮入部期間だから、気楽にな」

琳太郎が歓迎の意を込めて笑ってみせた。響は一瞬目を見開いて、その白く輝く歯を凝視した。

「いえ、うちはもう今日から本入部したいです。クラ以外はやりません」

響は白い歯から目を離さず、勢いよく言ってのけた。皆は一斉に響を見た後、大輝の方を見たので、大輝も礼儀正しく答える。

「俺もクラリネットがやりたいです」

「うーん。そうは言っても、クラばっかり集まっても仕方ないから。ほかにも足りないパートがあるからなあ」琳太郎が腕を組んで言った。「クラリネット志望ならやらせてやりたいが、人数的に難しい場合はホルンを頼みたい。どうしても木管が良ければテナーサックスにまわってもらうかもしれないんだ。その辺の音域が足りないんだ。よろしく頼む」

琳太郎が頭を下げて言うた。大輝は頷くが、響は頷かなかった。

「うち、クラを小学生の頃からやってます。楽器も自分の持ってます。ここでやりたいんです」

響はそう言うと、健治と大輝を挑戦的に見た。大輝は曖昧に笑ったが、健治は怯んできょろきょろし始めた。わずかに沈黙が流れる。

「あのう、知り合いに吹奏楽に興味ありそうな奴いるんで、俺、声かけてきます」

響の強気発言に気圧されながら、健治が進言した。

「おお、助かるよー。ぜひ頼む。それとな、大輝君も鶴岡さんも勧誘活動に加わってくれないか? 明日、パーカッションの補佐をお願いしたいんだよ」

琳太郎が大輝と鶴岡の背中をトントン叩きながら言った。

「仮入部中の子にも勧誘に参加させるんですか?」

梅子が難色を示した。

「梅ちゃん、うちはもう絶対に本入部するよ」

響が言った。どうやら響と梅子は旧知の中らしい。

「そうだ。みんな、ちょっと目を閉じてイメージしてほしいことがあるんだ」

琳太郎が呼びかけると、部員達は目を閉じた。

「毎日、ちょっとずつ部員が増えていくイメージ。毎日毎日、ちょっとずつ勧誘メンバーが豪華になっていくイメージだ」

それを聞くと、部員達は目を閉じながら破顔した。

「なんかワクワクしてきた」

「やろうやろう」

「絶対そのイメージ通りにしよう」

皆は口々に言い合った。

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