チーム
期末テスト前も中間テストの時と同様に、第二音楽室に来るものはいた。部活人間の直樹とテストに無関心な怜はもちろん、今回は梅子と響、健治、銀之丞もいた。
「怜、展覧会の絵の出だし、一緒に合わせよう」
梅子がトロンボーンを抱えて言った。怜は軽く頷いて、二人で練習し始めた。トロンボーンを習い初めの頃に比べればかなり上達している。むしろ怜の方が力強くダイナミックだ。低音域は梅子よりも鳴り、早くも演奏全体を支える役割をこなしつつある。
怜は梅子をパートリーダーと完全に認め、素直に従うようになった。梅子は講師の言ったことを正しく理解し、さらには初心者の怜のために噛み砕いた言葉で説明し、実演した。楽譜もまともに読めず、経験量が圧倒的に少ない怜にとっては、梅子のフォローが何よりわかりやすく、楽しかった。素直に梅子のことを尊敬するようになっていた。
「なんか怜ってさ、すごく変わったよね」
いつもの帰り道で直樹が言うと、健治も頷く。
「変わったというか激変だな」
「梅ちゃんとうまくやってるし。さっき『怜』って呼び捨てしてたよ。女で怜、って呼ぶの、梅ちゃんだけじゃね?」
直樹が感心して言った。
「きゃあー。付き合ってんじゃないの」
健治がうわずった声で笑った。
「付き合ってると言うよりかさー、すでに夫婦みたいだよねー」
銀之丞も面白そうに言った。
「夫婦みたいと言うより、二人はチームになったんだよ」
響も口を挟んだ。
「チーム」
直樹が復唱した。チーム。そういうふうに考えたことがなかった直樹には意外だった。だが、腑に落ちた。野球だってサッカーだって、みんなチームを組んでやってるじゃないか。チームの中にはそれぞれ役割があって、みんな、自分のできることをやっている。自分はフルート奏者であり、部長だ。結局のところ、部長がガンガン引っ張っていっているチームではない。琳太郎がガンガン引っ張っていっているチームではある。自分はちっぽけな部長だが、それでもこのところ、部の雰囲気はとても良くなったし、よくまとまってきていると感じている。
「吹部もチームなんだよね」
直樹が響に言った。響は頷いた。
「俺達、いいチームになってきたかな」
直樹が聞くと、響は腕組みをしてしばらく黙った。
「うーん。まだまだじゃない?」
響はいつも通り、甘い言葉は吐いてくれなかった。
「そうかな。俺はいいチームだと思ってる。すでに。トロンボーンも、トランペットも。ホルンもああ見えて結構頑張ってるだろ、あの一年達。それに、クラは一番いいチームと思う」
健治が割り込んで言った。自分達クラリネットパートは良くなってきたんだと響に一生懸命伝えるつもりで。
「健治、まだリードミス多いし、人の話聞かないし、大輝の方がよっぽど頑張ってるじゃん。もっと努力しなよ」
響が手厳しく言うと、健治は怯んだ。
「まーまー。鶴岡さんが言うと怖いよー」
銀之丞がフォローすると、響がきっと睨んだ。怖いと言われることに、少なからず傷ついているのだ。
「いいじゃん。俺達、もっと上を目指せるよ。今日より明日、明日より明後日」
直樹が握りこぶしを前方に出して威勢よく言った。前に5人で居たときよりも、今はずっとよくなった。
「またクサいセリフでたー」
銀之丞が茶化した。四人はあれこれ言い合いながら、夕焼け空の下を歩いた。