発表会の練習
中間テストを終え、吹部達は練習に戻った。梅子は自分の得意な理科が思うように点が取れず、少し気が晴れなかったが、部活で怜が予想以上に成長してくれているのが救いだった。この分だと、今度の吹奏楽発表会に出すのは問題なさそうである。
「おーい、合奏やるぞ」
直樹が、廊下で練習している部員達に呼びかけた。一同は楽器と譜面台をその場に置いて、第二音楽室に入ると、机を廊下に次々と出していった。残しておいた椅子だけを配置していく。銀之丞と伊久馬はパーカッションを準備室から運び入れていく。
ちょうどいいタイミングで琳太郎がやってきた。全員揃っているのを確認した。
「よし。じゃあ、マリオやんぞ。一回、通しで行く」
琳太郎が四分の四拍子で指揮を振った。部員達はそれに合わせて「スーパーマリオブラザーズ」を演奏し始める。ピッチも悪くバランスもクソもない演奏だが、全員楽しそうに演奏した。新しい曲の初合わせのときは、いつだって楽しいのだ。
最後まで止まらずに何とか終わった。この破茶滅茶な演奏を、来月には人に聴かせる状態にもっていかなければならないのだから、大仕事である。
「さてと、まず見るべきは、銀之丞。お前ちょっと一人でやってみろ」
銀之丞はこの曲ではドラムスを担当する。銀之丞の指揮に合わせて叩き始めた。
「重たい。もたつくな。ダドゥスタ、ダドゥスタ、ダドゥスタ…。こんくらいの速さな」
「はい」
「もう一回。ワン、ツー、スリー…」
琳太郎がスコア譜に視線を落としたまま、指揮する。銀之丞はもう一度叩いた。さっきよりは軽快になった。
「よし、ウッドブロックも入れ」
「はい」
伊久馬が返事した。ウッドブロックとはその名の通り木製のブロックだ。黒板消しのような形をしていて、中が空洞になっている。叩くと高くて軽快な音色が出る。
「ワン、ツー、スリー」
ドラムが静かにシンバルを叩いているのに対し、ウッドブロックが無駄に大きい音で叩いているので、明らかにバランスが悪い。
「伊久馬、音を下げろ。ここは『これからお楽しみはじまりますよー』って事を、こっそり伝えるイントロ部分だ」
「はい」
伊久馬は素直に返事した。再度合わせると、なかなかいい具合に音が小さく、軽くなった。
「チューバも入ろう」
「はい」
幹生が返事した。ベースラインを支える管楽器が一人しかいないのは心許ないと琳太郎は思っていたが、幹生は初心者で、それも一人だけのわりにはパワフルに鳴らした。講師のマンツーマン指導を受けてからまだ二週間ほどだが、頑張って基礎を積んだらしい。
「よし、いいな。じゃあ次。ピッコロとクラも入れ。バスクラはまだ待て」
「はい」
直樹と響と健治が楽器を構えた。
「ワン、ツー、スリー」
メインの旋律部分をピッコロとクラリネットが吹いた。まったく揃っていない。直樹に至っては、慣れないピッコロが板についておらず、音が何度も裏返ってしまった。
「やめ。全然揃ってない。いいか、ダッドゥードゥー、ダッドゥードゥダ、ダードゥーダドゥッ、ドゥダッ、ドゥダッ、ダドゥーだ。そこだけ、ゆっくり、もう一度…」
琳太郎は旋律を歌いながら、根気強く指導を続けた。
「次。サックスとバスクラも」
「はい」
錬三郎とまりあ、大輝が楽器を構えた。こちらはクラリネットとピッコロから引き継ぎ、旋律を担当する。全員こないだ入ってきた初心者ばかりなので、音が出て、音符が拾えているだけでも奇跡だ。
「じゃ、ここ、ホルンな。二人だけで。ワン、ツー、スリー」
琳太郎に言われて、恵里菜と史門が吹いてみた。恵里菜の音しか聞こえない。
「史門。お前だけやってみろ。ワン、ツー、スリー」
史門は吹いてみたが、小さいし、ヨボヨボした音で、楽器としての音が全然鳴らせていなかった。史門は何度も何度もやって、少しだけまともになった。それでも恵里菜の半分の音量にも至らなかった。
「Bメロのペットとボーン。いくぞ。ワン、ツー、スリー」
琳太郎が指揮を振ると、トランペットの公彦と結那、トロンボーンの梅子と怜が構えた。
「ここはわりといい感じだな」
琳太郎は四人を褒めた。怜は誇らしげに微笑んだ。
「ここまで全員で、流してみよう。少し遅めのテンポで。こんくらい」琳太郎が指揮台をタクトでタン、タン、タン、タンと叩いてみせた。「いくぞ。ワン、ツー、スリー」
合奏練習は、その後も一時間、休まずに続いた。琳太郎は必死になって、汗をかきながら一つ一つのパーツをつなぎ合わせていった。それでもしっくりこない何かがあった。部員達の問題ではない。発表会らしさが、演出できていないことだった。
ふと、シンバルの前で眠そうに座っている音羽の存在が目に留まった。
「そうだった」
琳太郎はひらめくと、ほくそ笑んだ。




